第二章 定番品を増やしたい~切石豆腐店 7
私は、案の定待ち伏せしていた犬若と落ち合い、家に帰ってきた。
すると玄関先に、二つの人影が見える。
お姉ちゃんと響一郎くんだ。
「あ、小花。お帰り」
「お帰りなさい。小花さん、犬若も。今日はありがとう」
「こっちこそ、蟻ヶ崎さん喜んでたよ。どうしたの、そんなところで」
「これ、二人で……いや、犬若も入れてみんなで食べてもらえれば」
犬若に助けられたことで、響一郎君はすっかりこの犬妖を受け入れているようだった。
彼の差し出した、店名の印字されたビニール袋には、お豆腐に油揚げにがんもどきなど、切石豆腐店の商品がぎっしりと詰まっている。
「私もいいって言ったんだけど」
「いえ、このくらいじゃ足りないです。また店にも来てください。サービスしますんで。あれ、犬って豆腐や油揚げは平気なのかな」
「心配するな小僧、そこらの犬ならいざ知らず、おれは全く問題ない。ありがたく食らい尽くしてくれる」
「感謝してるのか威張ってるのかどっちなのよ……」
ひとまず、お礼を言って、お姉ちゃんが袋を受け取った。
「でも、私や小花と一緒に遊んだことがきっかけになってお仕事に役立ちそうっていうのは、なんだか嬉しいね」
「はい。僕は元々外で遊ぶのがそんなに好きじゃなかったので、ゲームを一緒にやってくれたっていうのも大きくて。二人には本当に感謝してます」
それを聞いて、お姉ちゃんが少し声のトーンを低くして答えた。
「そう。響一郎くんは分かってるね。ゲームはね、素晴らしいんだよ。家にいながらにして、世界最先端のテクノロジーで、天才集団が作ったものを遊べるんだから。ゲーム万歳だよね。大切なことは、ゲームが全て教えてくれる」
「あ、いえ、全てとは」
「全て教えてくれる」
「……はい」
犬若が、そっと私の耳元で囁いた。
「さちはあれで、変わったところもあるよな……」
私は否定できず、小さくうなずいた。
私たち、二人と一頭は家に入ると、夕食の支度にとりかかった。
「この間、関西風だしのとろろうどんていうのが出てたの。たいていこの手のおうどんて二食入りなので、ちゃんと二袋買っておきました!」
「おれの分か。小花。お前はできる奴だ」
「そして、ちょっとそれだけでは物足りないので、響一郎くんにもらった生揚げを軽く焼いてから、だしに浸しておかずにします。お好みで、梅肉と生姜をチューブで」
「わあ、初夏にぴったり!」
犬若とお姉ちゃんが交互に入れる合いの手に乗り、私は手早く夕食を仕立てた。おうどんと生揚げだけなので、あっという間である。
それにしても、ウィークデイの私が作るのは実に簡単な夕食だ。
一応、週末はそこそこ頑張るのだけど、平日は現代デイリー食品の英知にあやかり切っている。
そして、
「いい香り! このおうどん、喉越し最高!」とお姉ちゃん、
「麺もいいが、だしもいいな。本当に最近の食い物屋は腕を上げた」と犬若、
「生揚げが、外はカリッと中はもちもち! 口の中で吸いつくみたい! さすがだね、響一郎くん!」と更にお姉ちゃん。
私は冷奴を口に運ぶ。
「この絹豆腐、鰹節とお醤油かけただけで充分おいしいね。お姉ちゃんも犬若も、オクラ乗せる? 乗せるっていうか、盛れるくらいあるけど」
「乗せるー!」
「乗せようとも」
こうした簡便なメニューでも絶賛してくれる家族なのは、実にありがたい。




