プロローグ
大きな犬が、小学生だった、私と姉を助けてくれた。
その時の私たちは小さく、無力で、年上の少年たちに裏山の暗がりで囲まれていた。
なぜそんなことになったのかは覚えていないけれど、ほんのささいなことが原因だったはずだ。彼らにすれば、遊びの一部だったのだろう。
大した理由もなく、私たちは追い立てられ、脅されていた。
泣きじゃくる私たちの目の前で、少年の何人かが石を広い、私たちにぶつけようを笑いながら振りかぶった。
その時、白く大きな影が私たちと少年たちの間に割って入った。
犬だ。
ただ、普通の犬ではない。そこら辺の、人間の大人よりも大きい。見上げるほどに。
驚きのあまり声も出なかった私に、けれどその犬は、目もくれなかった。
そして、その大きなあぎとで、次々に少年たちの頭を噛んでいった。
殺してしまったのかと思ったけれど、噛まれた子たちはケガをした様子もなく、やけにぼんやりとした表情で立ち尽くしていた。
得体の知れないその犬に、私と姉は生きた心地がしなかった。
けれどその犬は、ゆっくりと私たちの方を振り向くと、
「見えているのか。危害は加えないから安心しろ」
と人間の言葉でしゃべった。
「この虫も見えるか」
犬が促した先、少年たちの頭のてっぺんから、濃い紫色の、人差し指大のナメクジのようなものが抜け出てきた。
「虫妖という。こいつらが失せれば、この餓鬼どもも正気に戻るだろう」
私と姉はあっけにとられて、動けずにいた。
「ところで、もしお前らに、女児とはいえ、危機を救われた恩を感じる器量があるのなら――」
犬は、私たちの目の前まで歩いてきて、頭を下げ、目線を私と同じくらいのところに合わせた。
「何か食い物をくれ。この何十年、人間の食い物は、うまくてかなわん」