表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
プロローグ
9/74

ババアを泣かす

妻の言うことは、いつも当たる。


今朝起きると、里穂がお腹が痛いと言い出した。昨日アイスを欲張ってダブルで食べたから、お腹を壊したのかと思ったが、少し熱もある。

妻は今日は外せない仕事があるらしく、俺が小児科に連れて行くことにした。今月のフレックスタイムをまだ使っていなかったので、上司に電話し、理由を話し、午後から出勤の許可をもらった。午後は妻の実家のお義母さんが預かってくれるという。


「ごめんね、ママお仕事行ってくるけど。病院でお薬もらってくれば、すぐ治っちゃうからね」


妻はヒールの低いパンプスを履きながら、娘の頭を撫でた。


「大丈夫。子供じゃないし」


里穂は辛そうだったが、昨日の続きの冗談を言った。


「じゃあお薬は粉じゃなくて、玉のにしてもらおうね」


里穂は俺の顔を見て、舌を出した。


小児科に連れて行くと、風邪の菌がお腹に入っただけだという診断で、抗生物質と整腸剤、それと高熱が出てしまった時の頓服薬が出された。全て粉薬にしてもらった。

そして実家のお義母さんに預かってもらい、会社に向かった。今から向かっても、昼休み中に会社に着きそうだ。



会社に着くと、事務室はなにか物々しい雰囲気だった。小林の席の周りを数人の社員が取り囲んでいる。


「どうしたの?」


すぐそばにいた女子社員に声をかけた。


「それが、また柏原さんが、いつもの調子でチョビチョビしたらしくて、ついに小林くんがキレちゃったの」


柏原を見ると、何事もなかったよう装うそうに雑誌を開いてはいるが、明らかに興奮が収まらないようで、鼻の穴を膨らませている。


俺は小林に近づいた。


「俺、会社辞めますよ」


彼は開口一番そう言った。

昨日妻と話していたことが、早速当たりそうだ。


「ちょっと待て。なにがあった」


「昨日見られたんですよ、あのババアに」


話を纏めると、昨夜友達と飲みに行き、まあ、男女人数を合わせた所謂合コンだが、そのうちの一人と意気が合い、2人で歩いているところを柏原に目撃されたらしい。それは若い人のことなので特に問題ないことなのだが、彼は2ヶ月前から宣伝部の女子社員と付き合っていて、その彼女に柏原は告げ口したらしい。


「言わないでくださいって言ったんすよ、それなのに、あのババア面白がって、俺の目の前で彼女にチクッて。べつにその女とはヤッてないっすけど」


いや、それは知らないけど。


「そうしたら、ホテルから出てきたところだったとか、適当に話盛りやがって!ちょっとこれ見てくださいよ!」


小林は彼女からのLINEを見せてきた。


最低、別れる。とだけ入力されていた。


「だからって、お前が会社辞めることはないだろ」


「それで頭きて、それに今までのムカついたこととか、全部言っちゃって。なんかあのババアに言いたいこと溜まってたんで。そんなくだらないことでって浅野さん言うかもしれないけど、もう言いたいこと言ったんで、会社辞めてもいいです」


俺は柏原の席に行った。


「柏原さん、小林も悪いですけど、柏原さんも、ちょっと謝った方がいいんじゃないですか」


「なんでよ!わたしは彼女が可哀想だと思って、教えてあげたんじゃない。悪いのは小林くんでしょ。それを自分が悪いのをすり替えようとして、あんことないこと今までの文句を言ってきて。それにわたしのこと、何回もババアって言ってきたのよ」


「あることないこと言ったのは、柏原さんもでしょ」


「なぁに、わたしだけが悪いって言うの。浅野くんさぁ、若い子の肩持ちすぎじゃない。若い子から慕われようと必死なのはわかるけど、甘やかせすぎよ。どうせ、娘さんも甘やかせて我儘に育ててるんでしょ。それじゃお子さんの教育によくないわよ」


ここへきて、関係ないうちの娘まで中傷されるのには、俺も我慢できなかった。


「おい、ババア!いい加減にしろ」


表面張力で保っていた水は、コップから溢れ出した。俺の意思とはべつにして、口が勝手に動いている。止めようと思っても、止まらない。自分の声が遠くから聞こえるような感じがする。今までの我儘な態度のこと、どれだけ周りが迷惑しているか、どれだけ周りが柏原のことを嫌っているか、最後に言うことがなくなって、ブタだ、デブだと容姿のことまでも全部文句言ってやった。

最初は、いつも大声をあげない俺が豹変したことに周りは引いていた。

慌てて小林が止め入ってきた。

気づくと柏原は気持ち悪い大声をあげて、泣いていた。椅子に座ったまま、顔を上に向け口を開き、なんか動物の遠吠えみたいだった。


「気持ち悪ぃんだよ、ババア。こっちが辞めてやるよ。お前と同じ空気なんかすってたくねぇからなー!」


その辺にあった椅子を蹴飛ばし、会社から出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ