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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
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義理の父親の独白(2)

「まあ、離婚してからは、うまくいってるんだけどな」


澤村は義母と同じことを言った。


「まあ、他人の金盗み取って、犯罪は犯しているわけだから、胸を張って人助けってわけにはいかない仕事だと思うが。金があると、ああいう奴らは、ちゃんと更生しねえ。ゼロからやり直させなきゃなんねえんだ。金があると、今回の財前みてえなことになる」


あいつらだって、澤村は、ベッドで寝ているダンゴムシやランボーの方を顎で示した。


「あいつらだって、不正して入手した分け前の金、依頼人に渡したり、寄付したりしてんだろ。生活に必要な分だけ差し引いて、後は人のために使う、そういう奴らだよ。あいつらは」


ダンゴムシは、わざとらしい鼾をかきはじめた。たぶん起きて聞いているのだろう。


「楓は、最初は『殺し屋』なんてやるつもりはなかったんだ。普通に結婚して、普通の家庭にしたいなんて言ってな。樹は俺の方に付いてきたから、そのまま俺と一緒に仕事するようになった。

結婚式はな、頑なに楓に拒否されたよ。お前には知られたくないって。お前の両親は、ぜひ出席してくれって言ってくれたけど。まあ、俺もお前みたいな、ひ弱なやつと結婚するのは面白くないとも思ってたしな」


風呂は朝にするか、澤村はソファに横になったまま目を閉じた。


「どうして、俺を引き込もうと思ったんですか?」


思えば、澤村との最初の出会いは、前の会社に勤めていた頃、会社の屋上で缶ビールを飲んでいたときのことだ。あの時、どう見ても俺が自殺するようになんて見えてなかったはずだ。それなのに、死ぬなら殺し屋になれと勧誘してきた。次の日、事務所の近くまで行けば、ロイホ、その時はマックと呼ばれていたが、俺の名前を知っていて声をかけられた。調べればすぐわかることだとロイホは言っていたが、今考えれば出来過ぎていた。


「楓だよ、楓がお前を勧誘しろと言ってきた」


どういう意味だろう。楓は、殺し屋をやっていることを俺に隠したくて保険外交員をしているという嘘をつき、父親さえ結婚式に呼ばなかったのに、その父親に俺を誘えというのだ、辻褄が合わない。


「お前は、優しい人間だって、そういうところに惚れたんだとよ。楓がは言うんだよ。優しい人間が1番強いって。腕力はないけど、うちの旦那が1番強いって。だから、アタシが旦那を守るって。なんだかわけわかわなかったよ」


楓が言いそうなことだった。ただ、そんな風に思ってくれているなんて知らなかった。


「ただな、楓もお前に秘密にしてるのが、限界だったんじゃないか。一緒にいて、ずっと嘘ついてんだからな。俺も和江に対して、そうだったから、バレた時はどっちかっていうとホッとしたのが大きかったな」


最近の俺になら、わかる。この事務所に来た時から、俺自身は楓に嘘をついてきた。蓋を開ければ、楓は知っていたことなのだが、この短い間でも嘘をつき続けるのは辛かった。


「そんな中、お前が悩みを抱えたような顔で家に帰ってきたわけだ。だけど楓は、元々優柔不断だから自分の口からは言い出せなかったそうだ」


「え?楓、優柔不断じゃないですよ。優柔不断は俺の方で、いつも楓がテキパキ決めてます」


「それは、優柔不断だから考えないようにしてんだよ。嫌だったら辞めるとか言うだろ、あいつは何にも考えてない。だけどお前はしっかり考えてるんだと。自分のことは後回しで、いつも家族のことを1番に考えてる。お父さんとは違うんだよって言われちまった」


楓はそんな風に思っていたのか。でも俺は考えてるうちに決断できなくて、流れに流されてるだけなのに。


「最近、俺たちも歳食ってきて、仕事のやり方を考え直さなきゃならない時期に入ってるんだと思う。ダンゴムシも怪我が多いし、ランボーみたいな今回の不始末なんか、もうそうだな。起こるべくして起こったという感じだ。だからお前みたいな優しい人間が『殺し屋』になったら、もしかしたら俺たちを変えてくれるかもしれない。楓はそう言ってたよ」


俺は缶ビールに口をつけた。だいぶ温くなっていた。温くなったビールは泡が多くて、ぼやけた味がした。3分の1ほど残っているぼやけた味のビールを一気に飲んだ。次に冷えたビールを開ければ、こちらが期待に応えるキリッと引き締まったコクのある味なのだろう。

俺は気持ちを切り替えるしかない。

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