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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
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嵐の前の休息(1)〜堀内慶太

ホテルの部屋を出る前に、ロイホから護身用にと麻酔銃を渡された。エアを圧縮させて麻酔針を発射させる、モデルガンでよくある構造だそうだ。1つはモデルガンを改造したタイプで、もう1つはペンタイプのものだった。


「そのペンタイプの方は、胸ポケットに入れないようにしてください。前に、ランボーさんに貸したら、間違ってスイッチ押しちゃって、ランボーさん自分の顎に刺さって、現場で寝てたことあったんで」


ホテルから借りた車は、リアガラスにホテルの名前が入っていた。

ミントが運転すると言ったが、いつも楓に運転してもらうくせに、男が運転するべきだと、俺が運転席に座った。


「実家の方、うちの息子まで本当にいいんですか?」


小さくて、童顔で、とても子供のを持つ年齢には見えないミントでも、他人の実家と息子を気遣う顔は、母親の顔だ。その点、男というのは子供ができても、つまらない意地を張ったり、頭の中は中学生のままだ。体だけが歳を食っていく。


「大丈夫ですよ。うちの両親、子供好きなんで。親父は無口なんですけど、子供には甘いんです。それに、うちの娘も、大人ばっかりよりは、同じ歳の子がいれば、遊べたりするし。ああ、でも4年生って微妙かな。打ち解けてくれればいいんですけどね」


「そうですね。異性だと気にしちゃう微妙な年頃かな。うまがあって、浅野さんと楓さんみたいに結婚しちゃったりして」


話をどう切り返していいかわからなかった。俺の妻は殺し屋、そしてその父親と弟も殺し屋、そしてその旦那の俺は、もう既に殺し屋にどっぷり片足を入れていて、その娘と殺し屋の同僚の息子が結婚したら、みんな殺し屋だ。そんな家庭、他にあるだろうか。


「あ、起こりました。女の子の父親って、娘の恋愛事情には寛容になれないですよね」


「いや、そういうんじゃなくて。まあ、ミントさんの息子さんなら、きっといい子なんだろうなって」


無理しなくていいですよ、ミントは小さい肩をすくめて笑った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ミントの息子は、近所の同級生の家にいた。同級生の親は、ミントが探偵事務所に勤めていると思っている。普段は学校が終わると児童クラブで待っているが、7時に閉まってしまうので、どうしても遅くなる時、ミントが連絡をすれば預かってくれているらしい。


「夜分遅くまで申し訳ありません。いつも助かります」


「いいえ、全然。慶太くん来てくれると、遊ぶ前にうちの子もちゃんと宿題やるから、かえって助かりますよ。堀内さんち子、ほんと、しっかりしてるから」


同級生の母親は、ミントが男と一緒に来たからなのか、俺のことをチラチラと横目で見てくる。


「うちではそうでもないですよ。あ、これ、そろそろ切らしてるかなと思って。ミントティーです、どうぞ」


ミントは同級生の母親に小さな紙袋を渡した。


「わあ、ありがとう。でも自分で入れると、堀内さんが入れてくれた時みたいに、美味しくできないのよ」


「カップに入れてから、ラップを乗せて、ちょっと蒸らすといいですよ」


玄関の奥から、どどどどっと階段を降りる音が聞こえた。ボーダーのポロシャツを着た男の子と、GAPのTシャツをきた男の子が降りてきた。

ボーダーのポロシャツを着た子が、ミントの息子のようだ。ミントに似てか、背は小さいが、キリッとした眉毛の芯の強そうな男の子だった。


ミントと息子は、同級生に手を振り、礼を言って、玄関を閉めた。

ミントの息子は、鋭い目付きで俺の顔を見上げていた。


「はじめまして、慶太くん。今日はおじさんの実家に泊まってもらうけど、いいかな?」


「おじさん、母ちゃんの彼氏?」


若干、敵対心も携えている目だった。小さい頃の父親の記憶があるのか、ないのかはわからないが、自分は息子である以上、母親を守るという強い意志が感じられた。


「慶太、会社の人だよ」


童顔の母親の微笑みは、そんな息子を頼りにし、そして大きく包み込むような笑顔だった。

その親子の光景は、これから起こる嵐の前の、ほんのひと時の休息のように思えた。


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