立ち上がる
翌日は、親父の車で母と義母と一緒に、娘の里穂を連れて浜松の遊園地で過ごした。
その間、何度か妻の楓から電話があったが、出る気にはなれなかった。許せないとかではない、何を話したらいいか、わからなかったからだ。今電話で話すと、こんなに整理つかない気持ちで、余分なことを言ってしまいそうだった。
最初は、はしゃいでいた里穂も、ディズニーランドなどと比べて、物足りないらしい。小さな頃は満足していた遊園地なのに、もう大きくなって、微妙な年頃になってきている。
平日の遊園地は空いていて、午後2時を回った頃には、殆どの乗り物に乗ってしまい、俺たちはソフトクリームを食べていた。ここから車で15分ほどのところに動物園もあるが、今から移動しても、動物園には2時間そこそこしかいることができない。軽いものを食べたり、1度乗った乗り物にもう1度乗ってみたりして時間を潰していた。
ママは。ソフトクリームを舐めながら、里穂が俺の方を向いた。
「もう、いいんじゃない?ママは悪いことしてないよ。パパに話してなかったのは、隠してたっていうより、パパには刺激が強かったから話さなかったんだと思うよ」
娘の大人な言葉に、一同の動きが止まった。
「だらしないなあ、いつまで考えてるの。ママがパパにも一緒の仕事させようとしてるんだから。パパもやれば。ママが、いっつも言ってたよ。パパみたいな優しい人に『殺し屋』に向いてるんだって」
義母は里穂を微笑ましく見つめ、あんた里穂ちゃんの方が大人だよ、と母に背中を叩かれた。
スマホを見ると、楓からだけではなく、ロイホからも着信があった。妻の着信は26件もあったが、ロイホからの着信は12分前だったので、優先させてロイホに電話した。なんとなく楓と話すのを先送りにしただけだ。
俺がスマホを耳に当たると、義母もスマホをチェックし始めた。
「浅野さん、あの、落ち着いて聞いてください」
いつも落ち着いているロイホだが、電話の声が慌てていた。
「リトルハンドが、楓姉ちゃんが病院に搬送されました。僕たちも今向かってます。今、病院の名前言います」
病院の名前を聞いた後に、状況を聞いているのだが、電話を切られた。
顔を上げると、義母と目があった。
「澤村から連絡があった。ど、どうしよう」
「慌てないでください。急ぎましょう」
誰よりも慌ててるのは俺だ。立ち上がって、椅子の背もたれで肘をぶつけた。
俺たちは、急いで遊園地を出て、浜松駅まで向かった。俺と里穂と義母で降りて、車は母に任せ、新幹線で東京まで向かった。




