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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
転 真実
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暴かれた世界(4)〜独白

どさくさ紛れに始まった宴会は深夜まで及んだ。ジュースとアイスとポテトチップスでで頑張っていた里穂も、10時を過ぎたあたりで、ウトウトしだし、気づくと風呂も入らずその場で寝てしまった。

朝の早い親父は、里穂を寝たまま抱きかかえて、自分の寝床に連れて行くと、そのまま親父も寝てしまった。

僕も朝早いんですよー、と泣き言を言う安田に俺の母と義母は容赦なく飲ませていた。沖縄出身の義母は、沖縄人なのに酒は弱く、もっぱら他人に飲ませる一方だった。

とても殺しを依頼した人と、対象者の関係とは思えない。


俺も少しは酔おうと、いつもよりも飲んだが、やはり気持ちの整頓がつかず素直に酔えない。量のせいか、頭は冴えているのに、気分だけが悪くなってくる。


0時を過ぎたあたりで、やっと解放された安田もその場で寝てしまい、彼に覆い被さるようにして光一も客間で寝てしまった。

ケロっとしている母2人は順番に風呂に入り、髪までちゃんとドライヤーで乾かして、母は寝室に向かった。


俺は少し風に当たろうと、店の外に置いてある3人がけの木のベンチに座り、ミネラルウオーターを飲んでいた。スマホを見ると、楓から16件も着信があった。


引き戸の扉が開き、内側にかけた暖簾をくぐり、義母が現れた。


「真一くん、楓のことは気にしないでもいいんじゃないの」


「んん、そういうわけには........」


「だって、真一くんに全然話してなかったんでしょ」


そうだ。そこだ。殺し屋をやっていることも容認できることではないが、夫である俺に話してくれなかったことが問題なのだ。


「わかるよ、私もね、最初は受け入れられなかったよ、澤村のやってること。いいことしてるんだろうけど、どう考えたっても犯罪でしょ。

澤村がね、仕事で失敗して大怪我をしちゃった時があって、あのドクターっていう人の病院に担ぎこまれたの。その時あの人は5人で仕事してたのかなあ。

ドクターっていう人と、今はもういないんだけど背が高い人と、頭のツルツルな人と、印象の薄い人。どう見ても保険外交員に見えないでしょ。あの人、保険外交員って嘘ついてたの。楓と一緒。変だなと思って問い詰めたのよ。保険外交員が仕事中にこんな大怪我するわけないでしょって」


急に蝉が鳴き始めた。1匹が鳴くと、それに吊られて周りの蝉たちも鳴き始めた。


「それで澤村は打ち明けてくれたんだけど、聞いたら聞いたで、知らなきゃよかったって思うのよね。それでモヤモヤしている時期に、浅野さんからの依頼を引き受けてたの。


わたしね、他人に人を殺すの頼んで、その後普通に生活してる人なんて、どういう神経してるんだって思って、1度顔見てやろうって、澤村の手帳盗み見てここの住所調べたの。

だから、楓と樹を連れて静岡まで来たの。ちょっと影から見るだけでよかったんだけどね。見てどうするかなんて考えてなかったけど。

お店もまだ全然立ち直ってなくて、お客さん1人くらいしかいなかったかな。店の中で真一くんのお父さんとお母さんが仕事してて。お店のまえで真一くんと光一くんが遊んでたの。光一くんが三輪車乗ってて。影から見てただけなのに、そうしたらね、気がついたら樹が光一の三輪車に乗り出して、遊び始めちゃったの。どうしようと思ってたら、店の中から和恵さんが出てきて『どちら様でしょうか?』なんて聞くから、『澤村です』って答えちゃったの。

そしたら、ありがとうございますって何度もお礼言われちゃって。子供同士は遊んでるから、家に上がってけって。それで真一くんのお父さんが、料理を運んでくれて。食べたらすごく美味しくて。和恵さんは楽しそうに色んな話をしてくれて。

澤村はこういうことを守りたかったのかなぁーって。

で、なんだかんだで名前が同じですね、なんて意気投合しちゃって、そのまま1週間くらい泊っちゃったのよ」


楓が小学生の時にうちに泊まりにきたことがあるというのは、この時のことだったのか。

俺は覚えていなかったが、どういう知り合いか知らないで、大人になってから再会し、結婚に至ったのは、もう既にこの時から決まっていたのかもしれない。

運命で片付けてしまうのは陳腐すぎるが、優柔不断な俺と即決即断な楓、内向的な俺と社交的な楓、反するパーツがパズルのピースのようにうまく嵌り、そうなるべくしてそうなったと感じてしまう。


「突然、妻が子供を連れていなくなっちゃって、澤村は慌てたみたいよ。真一くんのお父さんが澤村に連絡してくれたみたいで、ここへ迎えに来たの」


それがなんで離婚に至ってしまったのか。


「それで一旦帰ったんだけど、やっぱりダメね。旦那が殺し屋っていうのは、やっぱり嫌。まあ、ちょっと暴力振るう時もあったし、ただ離婚したかっただけかもね。楓はわたし、樹は澤村についていった。でも離婚してからは、うまくいってたわよ。月一は家族で食事に行ったりもして。子供たちもお互いの家、行き来してたからね。

でも変よね。旦那が殺し屋じゃ嫌って言って、娘も息子も殺し屋で。今じゃ婿まで殺し屋になっちゃうんだから。ハハハハハッ」


うちの母といい、義母といい、「カズエ」という名前の人は暗い話も明るく話してしまうのだろうか。


「だから、真一くんの悩む気持ち、わかるんだよなぁ。あ、だからって離婚を勧めてるわけじゃないからね。長い間悩んだけど。

まあ、気がすむまで考えなさい。そうしてから、ちゃんと楓と話し合いなさい」


義母は、欠伸をして、家に入っていった。

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