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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
転 真実
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暴かれた世界(3)〜実家の母 浅野和恵

実家は静岡の袋井市にあり、小さいながらわりと繁盛している小料理屋を営んでいる。昔1度借金で潰れかけたこともあったが、おかげさまで、今では地元のテレビでも紹介されるまでの繁盛っぷりだ。

1階が店舗で、裏口に玄関があり、三和土を上がると客間が1つある。横の階段を上ると、2階と3階が住居になっている。

店舗からも入れるが、客がいたので裏口の玄関から入った。客間で待ち構えていた母は笑顔で迎え入れてくれた。

母は里穂の顔を見ると、もう小学四年生の微妙な年頃なのに、小さかった頃と変わらず、抱きしめて頭を撫でる。里穂は気恥ずかしさと嬉しさと気まずさの入り混じった微妙な顔をしていた。


「バアバ。メロン」


「そうそう、里穂ちゃん来るって言ったら、後で光ちゃん持ってきてくれるって」


やったー!そう言って里穂は自分の家のごとく、勝手に2階に上がっていった。


「おい、里穂!後でジイジにも、ちゃんと挨拶しなさいよ」


すでに2階のテレビのある部屋で、テレビを点けた音がした。目当てはテレビゲームだ。うちには3DSなどのポータブルゲーム機はあるが、テレビと接続するタイプの物はない。


1階の玄関からは、廊下を挟んで親父のいる厨房が見える。親父は俺に気づき、包丁を持っている手を軽くて上げた。俺も片手を上げて返事をした。


店は、一旦15時半に閉め、仕込みを済ませ、休憩をとり、17時からまた再開する。たが大抵、15時半を過ぎても客が残っているため、結局短い時間で仕込みと食事を済ませなければならない。


「ちょっと早いけど、夕飯にするかね。お父さんの都合に合わせて、悪いけど。なんなら、もうちょっと後にする?」


「いや、いいよ。食べちゃうよ。片付かないだろ」


実家に住んでいるときは、16時半の早い夕食が、少し苦痛だった。2階にリビングとキッチンがあるのだが、親父が厨房で作ったものを客間で食べることの方が多い。


親父は、きゅうりを千切って塩もみし、ごま油と白ゴマをかけたおつまみと、瓶ビールを客間に持ってきた。


「これ食って、ちょっと待ってろ」


俺はこのきゅうりのおつまみが、小さい頃からの好物だった。


母は前掛けで手を拭きながら、階段で上に向かって、


「里穂ちゃーん、ご飯ーって言ったら、下まで降りてきてねー」


と言った。2階から、はーい、という返事が聞こえた。


「さっき、電話で楓ちゃんと話したわよ」


そう言うと同時に、裏口玄関が開き、よう、兄貴、と弟の光一が、メロン片手に入ってきた。光一は母に、上?と聞くと、母は頷く。


「里穂ちゃーん、光ちゃんだよー、メロン持ってきたぞー」


光一が、階段から声をかけると、里穂は階段を駆け下りてきた。光一はまだ結婚していなく、元々子供好きで、里穂を可愛がってくれている。


「見てくれよ、里穂ちゃん。このメロン、お店で買うと10.000円以上もするんだぜ。どう、食べる?」


「うそー、食べる食べる」


「なあ、母さん。楓と話したって、何を?」


「何をって、何?」


「だから、楓から何を聞いたんだよ」


「何をって、全部」


全部?!果たしてどこまで聞いているのか、本当のことを聞いているのか、辻褄合わせのことでケンカしたことだけ聞いているのか分からず、あまり正直に説明しても、心配かけるだけだし、ただのケンカだと聞いているのなら、男が実家まで帰ってくる理由にしては弱いし、どこを伏せてどう伝えるか考えていると、親父が料理を持って現れた。

ぶっきら棒の人だが、やはり孫の顔を見ると顔が緩んだ。


「里穂ちゃん、マイタケ食べれるかな?」


今日の料理は、天ぷらだった。

客間のテーブルに料理が並ぶ。

それを囲み、みんな席に着いた。


「マイタケ?わかんない、けど食べるー」


偉いなあ、と食べ物が食べれるくらいで小さな子供を褒めるように、頭を撫でた。


「そう言えば、アンタだけ知らなかったかもね。あたしゃ、楓ちゃんがとっくに話してたと思ってたんだけど」


と言って母は、腹を抱えて笑いだした。


「ちょっと待てよ。みんな知ってたのか?」


「里穂ちゃんも知ってたもんねー」


母は、里穂の隣に座り、天ぷらを食べている。里穂も茹でたトウモロコシを齧りながら、知ってたよ、と言った。


「パパ、それで怒って、家出てきちゃったの」


「里穂、ママのお仕事、本当に何やってるかわかってる?」


「わかってるよ、正義の味方」


ため息しかでない。


大葉の天ぷらを、香ばしい音を立てながら食らいついてる光一が言った。


「あの時、兄ちゃん、学校のキャンプかなんかで、いなかったからなあ」


「なんだよ、それ」


「なあ、親父が説明しろよ」


親父は口籠った。元々無口な上に、多分俺に話していない罪悪感と、どう説明していいのか悩んでいるようで、マイタケの天ぷらを口に入れてから、いつまでも飲み込まずに噛んでいた。うまく自分の思いを伝えられない俺の性格は、父親譲りのようだ。


母と里穂は、その話には興味がなさそうで、これが美味しいとか、エビ食べれるようになったんだねとか、楽しそうに食事を楽しんでいた。


インターホンが鳴った。

親父はこの場から逃げるように、裏口玄関に向かった。

ブルーのジャンパーにベースボールキャップを被った男が、発泡スチロールの保冷ケースに魚を入れて持ってきた。


「頼まれてたイワシ、あとね、下田の漁師さんから、キンメ貰ってきましたよ」


親父はケースを開け、おお、と言い、客間に振り返り、仕込みしてくる、と言って保冷ケースを受け取った。


「おい、ヤス。お前も食っていけ」


「いや、家族団欒に悪いですよ」


ヤスと呼ばれた男は、客間を覗き、俺と目が合い、会釈してきた。


「ヤスさん、食べてきなよ。親父食わねえから、天ぷらいっぱいあるよ」


そう言って光一はグラスにビールを注ぎ、ヤスという男に渡そうとするが、いや僕車なんで、とハンドルを動かすジェスチャーをした。


「ヤス、とりあえず上がりなさい」


母が静かにいうと、失礼します、とすんなり上がってきた。足が悪いのか、右足を引き摺って、右足を伸ばしたまま座った。


「上の坊ちゃんですか?」


ヤスという男に聞かれ、頷いた。


「仕入れ業者の安田です」


安田はキャップを脱いで、頭を下げた。少し頭頂部が薄くなっていた。歳は50代後半に見えた。


「うちの子もね、澤村さんところでお世話になってるの」


母は、俺をそう紹介した。


「澤村さんって、母さんどこまで知ってんだ?」


「だから、全部よ。そういう面倒くさいところが、お父さん似なのよね、真一は」


この安田という男も澤村のことを知っているということか。安田は曲がらない膝を摩りながら、坊ちゃんも殺し屋ですかー、と笑顔で言った。


「いや、僕ね。1回殺されてるんです」


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