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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
セカンドミッション
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プレスファクトリー(3)〜シュワちゃん、真実を白状させる

電話から1時間を少し過ぎて、財前大二郎と恵美子の乗った車が到着した。タイヤが砂利を踏んで擦れる音が外から聞こえた。

俺は今更だが顔が割れてしまうのを防ぐため、ハンカチを顔に巻き、鼻から下半分を隠していた。防犯カメラに映っても本人と判別できないほど薄い顔のランボーはともかく、ターミネーターのような存在感出し過ぎのシュワちゃんに対して、顔を隠せば、と意見すると、


俺は、全身の、ありとあらゆる場所の、毛を剃っている、指紋も焼き消した、あらゆる鑑定で俺を判別しようとしても、無駄だ。


と説得力があるような、ないような返答が返ってきた。


財前大二郎は、車から降りると、俺たちの外見を見て、一瞬拍子抜けした表情を見せたが、四肢を縛られ変な方向に腕が曲がって横たわっている息子の姿を見て、顔を強張らせた。息子に駆け寄ろうとするが、止まれ、と言ってサバイバルナイフを財前泰司の首元に当てた。


「5分遅刻」


ランボーは腕時計を見て、はい、と腑抜けた声を出し、なにか5センチ大のゴムの塊みたいなものを財前大二郎の足ものに投げた。

財前大二郎は訝しげな顔でそれを見つめたが、夫に遅れて車から降りた憔悴しきった顔の妻恵美子が、それを見てパニックを起こし、その場に崩れ落ちた。それは、耳の形をしていた。


ランボーはそれを見て下品な甲高い笑い声を上げた。


「余裕ないですねえ。よく見て、それ。100円ショップで売ってる手品のオモチャだよ」


妻恵美子は、膝を曲げてお尻を地面につける形で座り込み、顔を上げて大きな口を開けて、地響きのような低い声で嗚咽し始めた。俺は、また柏原のババアを思い出してしまった。人目をはばからず大泣きする女の姿はを見るのは、背筋に寒気が走る。


「こんなことして、どうするんだ!」


父親財前大二郎は、耳がオモチャだとわかると、威厳を取り戻したかのように警察署署長の威圧的な態度を放った。俺も娘がいて同じ立場だが、俺だったらこんな奴らを挑発するようなバカな真似はしないだろう。自分が殺されてもいいからと、娘を助けてほしい、となりふり構わず懇願するだろう。

社会的地位のある人間とは、往々にして愚かだ。


「偉そうにしてますけど、状況わかってます?」


俺のスマホが震えた。ハンディカムを持っていない方の手で出す、ロイホからの電話だった。


「あ、浅野さん。今、衛星カメラで確認しましたけど、財前大二郎の車以外は、誰もそこに近づいてませんよ。だから大丈夫です」


「え、ロイホくん、衛星もハッキングしたの?」


「はい。そんなの誰でもできますよ」


なぜこのスクラップ工場を選んだのかがわかった。周りに民家も少なく、建物もないので、ほかに追尾している車や警察官が衛星カメラで確認できるからなのだろう。


「ランボーさんに、大丈夫って伝えといてください」


俺はランボーと目があったので、スマホをポケットに入れた後、左手でOKサインを出した。


「本当に、あなたたち2人で来たみたいですね」


「誰にも言ってない。息子を返してくれ」


「あのー、さっき電話で話したこと聞いてました?誘拐じゃないんだって。みんな殺すんだって」


「それじゃあ、約束が違うだろ」


「約束なんてしてないですよね。殺さないかもって言っただけで。結局殺すんですけど、殺さないかもって言わなきゃ、あなたたち来なかったでしょ」


ランボーは明らかにこの状況を楽しんでいる。いつもなら忘れられてしまう存在感が薄い男が、今この状況で周りの視線を独り占めしている。この状況を少しでも長く堪能するために、話を引き延ばしているとしか思えない。


「殺す前に、皆さんに確認しておきたいことがー、ございまして。確認というか、なんで殺されるか理解した上で、反省をしてもらってからじゃないと殺す意味かないんですよね」


財前大二郎は黙ったまま、仁王立ちして拳を握りしめている。まだこの状況で隙があれば、目の前の男を組み伏せるつもりなんだろう。でも奥にはサングラスをかけて、異様な雰囲気を醸し出している革ジャンの男がいるので動けない。財前大二郎の革靴の下から、砂利の音が聞こえる。


「古谷悟くん、ご存知ですよね。彼の両親に頼まれたんですよ。殺してくれって」


「あれは自殺だ」


「なんで自殺なの?事故ならわかるけど。事故だとしても、自分の息子が関わってるからなんでしょ」


「違う!彼は自分で飛び降りた。たしかに息子がいじめてたかもしれないが、息子はいじめるつもりなんかなく仲良くしていたつもりだ。受け取る方の気持ちが弱くて、か、勝手に自殺したんだ!」


「よくそんなこと言えるなあ。あんた、アホですか?あんなところで自殺しようなんて思わないでしょ。あんなところじゃ死ななくて、痛いだけだし」


しばらく大人しくしていた財前泰司が暴れ出して大声を出した。


「違うんだよ、あれはアイツが悪いんだよ!いつもみたいにイジってたら、アイツがキレ出して、揉み合いになってるうちに階段から落ちたんだ!」


「君が、押したんだろ」


いつの間にそばに寄ったのか、シュワちゃんが財前泰司の横にしゃがんでいた。右手をそっと、財前泰司の左膝の上に乗せた。


「違う!押してない!押してない!!」


シュワちゃんは左手で、縛られている足首を握った。


「まだ、真ん中の踊り場で、息があったはずだ。それが、なんで、あんな緩やかな階段で、1番下まで、落ちる?」


シュワちゃんは左手を上にゆっくりと上がる。財前泰司は悶えた。妻恵美子はまた大声で泣く。


「踊り場から、もう1回、突き落としたんだよ、ねえ?」


ボクン、と音が聞こえたと同時に、財前泰司は声変わりのまだ完成していないしゃがれた金切り声を上げた。


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