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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
セカンドミッション
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プレスファクトリー(2)〜ランボー、心から楽しむ

さらに5分を要し、シュワちゃんがやっと戻ってきた。


「また、水、流れねえぞ。また、水道止められてるのか」


「じゃあ、糞そのままなのか?俺もう便所入んねえ」



すみません、すみません、なんで俺が、なんで俺が、許してください、許してください。財前泰司は、必死で助かろうと懇願して泣いている。


「財前泰司くん?君ねえ、なんでこんなことになってるか、わかってる?」


「わかりません、わかりません」


「なんでこうなってるか、わからないから殺すんだよ」


殺すという言葉に、財前泰司は思い切り空気を吸ったようで、喉からタイヤがスリップした時のような変な音がした。


「許してください、許してください」


「お前、自分がなにやったかわかんないで、なにを許されたいんだ?」


「わかんないです、わかんないです」


お前さっきから同じこと2回ずつ言ってうるせえんだよ、とサバイバルナイフを持っていない方の手で財前泰司の頰を張った。


「おい、シュワ。こいつの右腕折ってやれ」


ランボーがそう言うと、財前泰司は嫌だ嫌だと言って縛られた足をバタバタ動かしたが、シュワちゃんが、ゆっくり近づいてくると、また変な音が喉から聞こえた。


縛られた手首を左手で支え、右手で膝をゆっくり押していく。


「野球がぁ、や、野球がぁできなくなっちゃうぅぅぅぅ、やめて、やめて、やめーてー」


シュワちゃんは、まるで楽しむように、ゆっくりと右手を力を入れていく。


「あのね、財前泰司くん。古谷悟くんは、もう野球できないんだよ」


「やめてー!」


「腕折ったって、折んなくったって、どうせ死ぬんだから関係ないじゃん」


「ホントに、やめてくださいー!」


パキっ、拍子抜けするような軽い音がして、財前泰司の右腕は反対の方に曲がり、背後で縛られた腕はどっちがどっちの腕だかわからない複雑な形を作っていた。財前泰司は金切り声を上げた。


「うわっ、痛そう。どっちにしろ殺されるなら、腕折られない方が良かったかな」


ランボーはシュワちゃんに、そう話しかけると、


「こいつ、腕、簡単に折れた。ちゃんとカルシウム採ってるのか?野球も、ヘタクソだろ」


「次はどうされてえんだ?アキレス腱でも切るか?」


ランボーはサバイバルナイフの腹で財前泰司の足首を叩くと、絶叫も絶叫で、体は踊っているように震え、もうなにを喋っているのか認識できない。あまりの絶叫に、笑っているようにも見えてしまう。股の間からまた、小便が流れてきた。


小便を見て、財前泰司から離れて、2人ともソファに座った。ランボーはポケットから携帯を出した。いつも使っているスマホではなく、プリペイド式のガラケーだ。ポケットからメモ紙を出して、それを見ながら、財前泰司に聞いた。


「お前の家電、03-××××-××××で合ってる?」


財前泰司は顔を涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃにしながら、何度も頷いた。


「それ、1回使ったら、捨てろって、所長から言われてるだろ。勿体なくないか」


「仕方ねえだろ」


「こいつの、スマホ、使えば?」


あ、とランボーは答え、財前泰司に近づき制服のワイシャツの胸ポケットに無いことを確認し、小便で濡れたズボンを見て、今度は2人で、あ、と言った。


「仕方ねえだろ」


プリペイド式のガラケーで電話をかけた。


「あ、お母さんですか?今、旦那さんいます?いますよね。こちらで調べでは、今日は代休でお休みとってらっしゃるって聞いてます、はい。名前ですか?名前は名乗りません。はい、息子さんさんを預かってます」


そう言って、ガラケーを財前泰司に向けると、さっき折った右腕を思いっきり蹴った。

絶叫とともに、何度もお母さーん、と叫んだ。


「はい、なんでかって、旦那さんが1番わかってらっしゃると思うので、代わっていただけますか?」


電話の向こうでは、急いで旦那を呼びに言ってるのだろう。それを待つ間、ランボーは世間話のように財前泰司に話しかける。


「お前、母親に『お母さん』って『お』を付けるんだな。かわいいな」


財前泰司は、はあ、とか、ひい、とかしか言わない。電話の向こうで父親に代わったのだろう、ランボーは姿勢を正して、おちょくるように丁寧な口調で喋り始めた。


「あ、署長さん、いつも市民のため、治安のため、ご苦労様です。しかし、今は息子さんが大変なことになっています。市民ではなく、あなたの息子さんです。そのところ、ちゃんと考えてください。警察に知らせるな、と言っても、あなたも警察官なので意味がないでしょうが、誘拐犯って警察に知らせるなっていうじゃないですか。でもだいたい警察に連絡しますよね。それじゃあ、ダメです。私共は誘拐犯じゃないからです」


向こうがなにか喋っているのだろう。ランボーはそれをニヤニヤしながら聞いている。


「そうじゃないんですよ。身代金とかいらないです。あ、そんなにくれるなら貰いますけど。でも目的はこの子を殺すことなんです。はい。でもあなたたち2人で、今から言う場所に来てください。そうしたら殺さないかもしれないです。でも、殺すんですけど。うん、うん。もし、あなたたちが、私共を嵌めて、捕まえようとしたってダメです。そう感じた時点で、この子を殺します。助けるかどうかは3人ご家族集まった時点で考えます。ダメですよ、たくさんのあなたの部下が乗り込んで来て、私共を逮捕しようなんて考えちゃあ。泰司くんもこの電話聞いてますから。あなたを市民を守る警察署署長としてじゃなく、財前泰司くんの父親として、こうやってお電話してるんです。わかります?もし、逮捕することを優先した場合、ああ、お父さんは僕の命より、検挙率の方を優先したんだなぁー、って思いながらこの子は死んでいくんです。言ってる意味わかります。じゃあ、ここの場所言いますね」


ランボーは電話口でこの住所と1時間以内にここへ来るように伝え、電話を切った。

電話を切った後、楽しそうに鼻歌を歌いながら踊っていた。


踊りながら財前泰司に近づき、そばにしゃがんで声をかけた。


「お父さんお母さん、来るかなあ。早く来るといいねえ」


ランボーは迷子の子に話しかけるように優しく、微笑みかけた。

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