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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
ファーストミッション〜アフター
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名乗るほどのものではございません

翌日、朝一で探偵事務所GESBKに電話して、今日は事務所へ行かない旨を伝えた。べつにまだこちらの仕事に転向したわけではないので、連絡の必要はなかったのかもしれないが、自分の会社への連絡はしなかったのに、なぜだか無視できなかった。


電話に出たのはロイホで、「なんか、浅野さん、ハマってますね」と言われた。


目的は千葉だ。あの金も持ってきた。マイカーのプリウスを運転するのは久々だった。日頃、電車通勤なので車の運転は慣れていない。家族と出かける時は、大抵妻の運転だった。たまに俺が運転すると、妻の目からはかなり危険らしい。妻が助手席に乗っていると、何か言われるんじゃないかと緊張してしまい、焦って運転が乱れる。事故してはいけないと必要以上に細かいところを気にしてしまって、肝心なところを見逃して追突しそうになったりして、妻を苛つかせてしまう。


1人の運転は気楽だ。万が一事故しても、怪我をするのは俺1人だからという安易な考えで、少し大胆な運転ができる。細かいところは見ずに、肝心なところだけ見て、安全な運転をすることができる。妻や娘を乗せた時に同じようできればいいのだが、そうは上手くいかないのが俺の悪いところだ。


すぐに道を忘れてしまう報告音痴の俺でも、4日前の記憶は残っていて、ナビを見ながらだが、迷うことなく着くことができた。


着いたのは千葉の「きぼうのもり学園」。この間、『執行』の時に車を1度Uターンさせた場所だ。

十字架の門をくぐると、運動場のように広い庭があり、子供たちが走り回って遊んでいた。中にはみんなと溶け込めないのか、ベンチに座り絵本を読んでいる子や、1人で喋っている子、花壇に水をやっている職員の後ろをついて回る子、いろんな子供たちにいろんな社会がある。ここは大人の世界とほぼ変わらない。


「なにか御用でしょうか?」


関係者以外がうろうろしていて変質者と間違えられるのではと思っていると、メガネをかけた40代くらいの女性職員が声をかけてきた。


「怪しいものではないのですが、いきなりで申し訳ございません。寄付金なんかは受け取ってもらえるのでしょうか」


怪しまれないようにと丁寧な言葉遣いにしたが、余計に怪しくなった。


「少々お待ちください」


メガネの職員は、訝しげな視線を向けながら施設の中に入っていった。


しばらくすると、メガネの職員は初老の修道服をきた女性を連れて戻ってきた。


「どうぞ、こちらへ」


初老の女性は、ここの園長だった。自己紹介され、笑顔で迎え入れられた。


応接室に通された。中にはキリスト像や、トロフィーが飾られた棚があり、トロフィーは2年前に養護施設対抗の長縄大会で優勝した時のものらしい。俺は長縄が苦手だった。迷っているうちに入るタイミングを失い、延々と入らなかった。


「こちらに、お名前と住所を書いていただけますか」


ソファに座るとなんの説明もなく、書類みたいなものを出された。


「いえ、名乗るほどのものではございません」


また、変に丁寧な言葉で、より一層怪しさが増したようだ。メガネの職員と園長が顔を見合わせた。メガネの職員が園長に耳打ちをした。微かに、「昨夜と同じ」という単語が聞こえた。2人は小さな声でやり取りをしている。メガネの職員は席を立って応接室から出ていった。


歓迎されて迎え入れられた雰囲気ではない空気が漂う。早くも後悔し始めた。


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