ランボー 現る〜存在感0
「俺は、なんにも貰えないんですか?」
白いポロシャツにカーキの綿パンの男が言った。一瞬、あれっ、こんな人いたかな?と忘れていたが、この大金を運んできた男だと思い出した。そのくらい印象の薄い男だった。
「お前、金下ろしてきただけだろ」
「だってなんにもしてないジバンシーが100万持ってきましたよ」
「じゃあ、自分で取り返せ!」
やはり俺が手渡された束は、100万円だ。
運転して、カメラ回して、100万。多いとか少ないとか言う問題ではなく、これを受け取ったら正真正銘の犯罪者になってしまう気がする。
「じゃあ、これを」
俺はその100万をその男に渡そうとした。
「ダメだ、それはお前のだ!入社祝い金だ!娘になんか買ってやれ!」
そんなことを言われても、自分が受け取ることも訝っているのに、この金で妻や娘になにか買ったら、彼女たちまでも汚れてしまう気がした。それに、まだ入社するとは言っていない。
「そんなに言うなら、俺がもらってやってもいいぜ」
「だめだ!『ランボー』その金は、そいつのものだ」
その男は不貞腐れた顔をした。
ちょっと待てよ、今なんて言った?
この男のことを「ランボー」と呼ばなかったか。
初めて来た日、いろんなキラーネームの人がいると聞いた。その中に「ランボー」といあ名前があったことは覚えている。単純な澤村のことだから、その「ランボー」は、見た目が筋肉質でチリチリの長髪でちょっとタレ目でタンクトップに軍パンか、そのいずれかを想像していたのだが、ジルベスター・スタローンにかすりもしない、どこにでもいそうな薄い顔の普通の優男だった。
澤村は寝ているダンゴムシの上に乗っている札束から数枚を引き抜き、叩くようにしてランボーに渡した。
ランボーは、左の小指と薬指の間に札を挟み、折り曲げ、右手で滑らせ数を数えていった。
「13万しかないですよー、俺だって仕事してんじゃないですか。金下ろすのとか、結構重要な仕事だと思うんですけど」
「お前は陰が薄いから、たとえ防犯カメラに映ったとしても、バレない」
「だーかーらー、それって俺しかできない仕事じゃないですか。専売特許じゃないですか」
「じゃあー、特許取ってこい!」
澤村はピシャリと言って、この件を終わりにした。
澤村は、先程、全体の金の8分の1を入れたA4の封筒を1つ、ロイホに渡した。
「これ持って、アサシンと一緒に、アフター行ってこい」
「僕ら、どっちいけばいいですか?」
「藤原景子の方は、ミントに行かせるから。藁科雄一の方を頼む」
ロイホは封筒を受け取り、自分の黒のバックパックにDVDディスクと一緒に入れた。
「浅野さん、行きますか」
ロイホは、こちらの返事を聞くでもなく、事務所の扉を開けた。




