ゲット アップ ルーシー(1)〜追跡
火曜日、『執行』の日だ。
事務所あるビルの前で待っていると、白いセダンが停まった。車に詳しくないが、見た目かなり古い車種のようだ。
あくびをしながら車から降りてきた『ダンゴムシ』の服は今日もダボダボで、黒の寝間着みたいな格好だった。額の絆創膏は前回よりも小さいサイズのものになっていた。
「ったく、早ぇなぁ。朝9時って。眠ぃな」
9時がそんなに早い時間でもない。この人は、いつでも眠いんだろう。朝も昼も夜も関係ない気がする。
「お前、運転、得意?」
「得意かと言われても、普通ですけど」
「じゃあ、運転して。俺、免停中」
免停中なのに、ここまで運転してきたのか。途中で検問や職質に会ってたら、この計画自体がパァになってしまうではないか。検問はそう頻繁にやってないだろうが、この男の場合職質はあり得るだろう。俺は唖然とした顔で彼を見る。
「大丈夫だって。そんなカーチェイスみたいなことにはならないから」
「いや、そうじゃなくて」
ダンゴムシは俺を無視して、助手席側の乗った。俺は仕方なく運転席に座る。
今回の計画は、フジコがドライブに誘っているので、車で後をつけ、人気のいないところへ連れて行ったら『執行』するのだという。
こんな大掛かりなことしなくても、所在を確認したら、そこから連れ出せば済む話ではないかと言うと、それじゃあ復讐にならねぇ、とあっさり躱された。
「もしな、車で見失っても、念のためフジコにGPS持たせてあるから、このナビと連動してるから、これ見て運転して」
だるそうに言った。
ナビを見ると、地図上では、ブルーの点滅でフジコの乗っている車を示している。ブルーの点滅はゆっくり動き、まもなくこの前の道を通過するところだ。
「安全運転でね」
そう言ってシートベルトをすると、体を横向きにし、コンビニの袋やら、空き缶やら、工具箱やら、脱ぎ捨てた服で埋まっている後部座席に手を突っ込み、何かを探していた。そこから薄いピンク色のサンリオのパチモノだと思われるキャラクターが描かれているラグを引っ張り出して、それを体に掛けて丸くなった状態で眠りに入った。
事務所のデスクといい、この人は整頓ということを知らない。
ナビをの現在地の赤い三角と、ブルーの点滅が近づく。何気に外を見ると、赤いスポーツカーが通過した。助手席に乗ったフジコがウインクしてきた。美貌に脳がグラつく。男ということが信じられない。
最近の美容整形が進化しているのだろうが、元々の素質も良くはないと、ああはならないと思う。
「何やってんだよ、早く出せ」
目を瞑ったままのダンゴムシに急かされ、慌ててアクセルを踏んだ。