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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
ファーストミッション
22/74

『執行』の決定

次の日も出社する気になれず、その後3日も無断欠勤してしまった。

最初の日は、部長、課長、小林、同僚、女子社員から、優しいメールやLINE、留守電などがたくさん来た。迷惑ではなく、どう返していいかわからずスルーするしかなかった。

2日目は、課長と小林だけになり、3日目は、部長の「そろそろ話をしよう」という短い留守電が入っているだけだった。


その3日間、妻と娘は普通に接してくれた。聞きたいことはたくさんあるだろうが、仕事の話も今後の話も妻からは振ってこなかった。その普通にしてくれているのが、有り難かった。


金曜日、週を跨ぐ前に、もう会社に顔を出さないとマズイと思い、重い腰を上げて出社した。足取りが重く、途中用もないのにコンビニに寄り道したりと、結局始業時間を過ぎてしまった。

事務室に入ると社員が一斉にこちらを見た。

真っ直ぐ柏原の席に行き、菓子折りを渡し謝罪した。柏原は初めは惚けていたが、べつに気にしなくていいのよ、と目も合わさずに言った。部長に会議室に連れていかれ、お前が悪いわけじゃないんだと同情するような優しい言葉をかけられ、今までのは特別有給扱いにするから月曜からちゃんと出社しろ、と言われた。


「まだ、みんなとどう接したらいいかわかりません。まだ、気持ちの整理がつかなくて」


「気持ちの整理つけて、どうするんだ。整理がつかなかったら、辞めるのか?お前の歳で転職するのか?」


少し威圧的な言葉が癇に障り、無言でいると、その歳で雇ってくれるところなんかないぞ、と肩を叩かれた。


「まだ決めたわけではないですが、当てはあります」


無意識に口走ってしまった。その時頭に浮かんだのは、あの殺し屋探偵事務所だった。


とにかく今日は帰って、ちゃんと月曜日までにもう一度考えてこいという指示を受けた。

世の中そんなに甘くないぞ、その一言で考えは決まった。会議室を出る時、お世話になりました、と言って扉を大きな音を立てて閉めた。


また今日も時間が空いてしまった、

自然と足があの探偵事務所に向かっている。


事務所の扉を開けると、今日もここの社員たちは定位置で、キーボードを打っていり、少女漫画を読んでいたり、寝ていたりしていた。ソファで踏ん反り返っている所長は、俺を見て静かに微笑んでいる。


「やっと決心したかね」


「いや、まだやるとは決めてませんが.....」


「決めてませんが?」


「この間、『マック』さんと食事して」


「おうおう、聞いたよ。『ロイホ』な。もう『ロイホ』にして3日経つぞ」


『マック』改め『ロイホ』の方を見た。彼はキーボードの手を止め、こちらに向かって目配せしてきた。


「はい、それで。今度『執行』の見学させていただけないでしょうか」


澤村は一瞬、動きが止まったが、大きい声で「ヨッ」と言うと、大きい音で拍手し始めた。


「ちょうどいい。この間の藤原景子の件だけど、対象者の火村誠は内偵の結果、クソどうしょうもない奴だと判断し、週明けに『執行』する話になってたんだよ」


ロイホがプリントアウトした資料を持ってきて説明してくれた。


大金の絡む結婚詐欺は藤原景子が初めてなのだが、他にも小さい金額なら色んな女から騙し取っていたり、世間に広められたら困るような写真を使って脅したりと、被害は藤原景子だけではないことがわかった。藤原景子に火村誠を紹介した自殺した友人の彼氏は、藤原景子の件以外は関与していないらしく、今回の『執行』からは除外されたらしい。


「火村は、まあ、こういう奴なんで、色仕掛けで釣れました。この間の『フジコ』さんですけどね」


ああ、しか言えなかった。あの見た目なら騙されても仕方がない。火村誠に対し、同情の念さえ湧いてきた。


「じゃあ、浅野さん。『執行』は来週の火曜日で。今回の『執行人』は『ダンゴムシ』さんです」


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