マックからロイホ
事務所のビルをマックと一緒に出て、スマホを確認した。着信もLINEもなかったが、「ちょっとすみません」と、さも至急連絡を取らなければいけないような素振りをし、妻に電話をかけた。
マックは悪い人ではなさそうだが、もう今日は他人の話でお腹いっぱいになっていた。帰る方向が同じだったりしたら、そこまで彼と話をしなければならないのが面倒だった。彼に帰る方向を聞いて、もし同じ方向だったら自分はその逆に向かえばいいのだが、彼の情報網だとそんな嘘ついてもすぐバレるだろうし、バレたバレたで嫌味な奴だと思われるのにも抵抗があった。我ながら面倒な性格だ。
携帯の呼び出し音を聞く間、マックが先に帰ってくれればいいのだが、彼は律儀にスマホをいじりながら待ってくれている。
「シンちゃん、どうしたの?」
「里穂が心配だし、すぐ帰るよ」
「いいよ。もっとゆっくりしてなよ。今お母さんと3人で回転寿司来てるの」
「回転寿司かぁ、俺もそっちに合流しようか?」
「いいよ無理しなくて。たまにはストレス発散って言ったじゃない、誰か友達誘ったら」
「誘う奴なんて、いないよ」
そう言えば、東京に出て来てから、大学の友人とも卒業してから疎遠で、外で食事をする友達なんて、会社の同僚くらいしかいない。今日の今日で同僚を誘えば、絶対に昼の件の話になる。それではストレス発散になんかならない。
「こっちは大丈夫だから。とにかく誰か誘って、美味しいものでも食べて来なよ。でも、浮気はダメだからね」
べつに浮気相手なんかいないし、俺にとってのストレス発散は、家族3人で一緒にいることなんだけどなぁ、と思いながら電話を切った。
電話を切ると、マックもスマホをいじるのを止め、ポケットに入れた。
「なんか食事していきます?」
電話の受け答えで事態を把握したのだろう、マックは俺の顔を覗き込んできた。
「いやぁ、俺は夜ご飯は、ちょっと、米とか、ちゃんとしたのじゃないとダメなんだよね」
マックはしばらく遠くの方を眺め、頭を傾げてなにか考え事をしている仕草をし、「あぁ」と言った。
「あぁ、マックがダメなんですね。べつに他のものも食べれますよ。僕、マックが好きなんじゃなくて、毎回食べるもの考えるの面倒くさいから、マックにしてるだけで。食事悩むのって、効率の観点からして、時間の無駄じゃないですか」
彼のは優柔不断ではないが、食べ物を決めるのが面倒というところに、ちょっと親近感が湧いた。
だからと言って、意気投合まではいかないので、どう断ろうか考えていると、
「近くのロイヤルホストでいいですよね」
彼は勝手に決めて、こちらを気にせず勝手に向かっていった。




