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アットホーム アサシン  作者: オノダ竜太朗
プロローグ
12/74

ミントの過去(1)

「あれ?今日平日でしょ。決心早いねー」


事務所を訪れると、ふざけた甲高い声で澤村は嬉しそうに言った。

相変わらず所内はマクドナルドの匂いが充満している。見回すと、この間と一緒で、澤村はソファでふんぞり返り、入り口デスクにマックが一心不乱にキーボードを打ち、真ん中の席にミントと、3人とも定位置にいた。

ミントは今日は少女漫画を読んではおらず、赤い大きめのレザートートバックの中身を整理していた。なにやら身支度といったところだ。今日の彼女はフリルの付いた水色のふわふわなワンピースに、異様に小さい7分袖の紺色のカーディガン、つま先に花の飾りがついた赤いパンプスという格好。どう見ても、小中学生にしか見えない。


「ちょうど良かった。今ミーちゃんが内偵いくところだから、一緒についてってよ」


「いや、俺は別にまだ、やるって言ってないんで。それに信じたわけじゃないし」


「疑ってるの?心外だなー」


澤村はわざとらしく泣き顔を作った。


「でも『まだ』なんでしょ。だったら、研修、研修」


やっぱり帰ろうと踵を返すと、身支度の終わったミントが近寄ってきた。


「さあ、行きますよ」


小さい声だが、こちらに有無も言わさない真っ直ぐな視線を向けてきた。おもむろにトートバックから魔法瓶を2本出して、見せつけてきた。


「アイスミントティーです」


なんで俺の分まで用意してあるのだろう。みんなで勝手に俺が来るって決めつけていたのか。


「よおぉぉぉし!期待のニューカマー、その名は『アサシン』ファーストミッション。行けえぇぇぇぇい!」


澤村は立ち上がり、金曜の夜、初めて俺に話しかけてきた時の芝居がかった重低音の声で、むかしの戦隊モノの司令官のように人差し指をこちらに向け、大声で言った。


俺もミントも無表情のまま、無言で澤村を見つめる。所内にはマックが打つキーボードの音だけが響いていた。

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