冒険者グレンの一日
俺の名前はグレン……冒険者の宿『アドヴェン』に所属する冒険者だ。
仲間たちと依頼をこなしながら日々を暮らしている。
今回は俺が受けたある依頼について話そうと思う。
「暇だな……」
冒険者の宿の酒場で俺は一人でくつろいでいた。
するとそこに一枚の張り紙が目に止まった。
『村外れに出没するゴブリンの討伐をしてくれる冒険者を募集。詳しい話は宿の亭主ダリル殿まで。――村長 カント』
「お? その張り紙に興味があるのか?」
宿張り紙を見ていると宿の亭主ダリルが声をかけてきた
「ああなんとなく気になってな」
「そいつはラーム村の村長であるカントさんからの依頼でな。
ゴブリンによって畑が荒らされたり荷駄が奪われたりなどして甚大な被害が出ているようだ。
最近ではゴブリンに襲われたことによる死者まで出たとかで早急に引き受けてくれる冒険者を探していたぞ」
「へえ……急ぎの依頼か。それで報酬は?」
「そうだな……だいたいこんなもんだ」
提示された金額を見て俺は驚いた。
これだけあれば宿へのツケを支払っても十分余りある金額だったからだ。
「……この依頼、まだ受けてる連中はいないんだよな?」
「そうだな……アインが仲間たちと相談するって言ってたくらいか」
「だったらアインの奴に伝えておいてくれ。この依頼、俺達が引き受けるってな」
「おいおい……仲間と相談しなくてもいいのか?」
「善は急げって言うだろう?それじゃ頼むぜ」
「やれやれ……」
俺は酒場から退室し、仲間達を俺の部屋に呼び集めた。
「――と、いうわけでゴブリンの討伐に向かおうと思う」
「ふん、これはまた随分と急な話だな」
「まあいいじゃん。グレンが勝手に依頼を受けてくるのはいつものことだし」
「……せめて相談くらいはしてほしかったですが」
俺の話に仲間達はそれぞれの反応を返してくる。
「まあいい、このまま無為な時間を宿で過ごすわけにもいかん。俺は乗らせてもらおう」
「お前ならそう言ってくれると思ったぜジョセフ」
ジョセフは俺の仲間の中で最年長の男だ。
凄まじい剣さばきと経験からくる豊富な知識で仲間を支え、更に本職の魔法使いほどではないが攻撃の魔法も使える。
冒険者になる前の経歴は俺も知らないがパーティーの要な頼もしい奴だ。
「この手の依頼にしては報酬も高めだよね。僕も別にいいよ」
「おう、ありがとなカイン」
カインはジョセフとは別に仲間の中でも最年少、俺と同じ孤児院にいた弟のような存在でもある。
俺やジョセフに比べて力は弱いがその身のこなしの素早さと観察眼の鋭さ、そして手の器用さでパーティーには欠かせないメンバーだ。
「エレナは大丈夫か?」
「ダメと言っても聞かないでしょう? 構いませんよ……」
「悪かったよ、今度からはちゃんと相談するように心がけるから」
エレナは仲間の中で唯一の女性だ。
回復や補助の魔法を得意としてパーティーの生命線とも言える。
正直なところ冒険者をするよりも教会にいる方がしっくりするような雰囲気を持っている美人だ。
「よし、それじゃ話は決まったな。それじゃ早速向かおうぜ」
こうして俺達はラーム村に向かった。
――1時間後
「よく来てくださいました。冒険者の方々」
村に到着すると村長のカントさんが出迎えてくれた。
頬が痩せ目の下にはかなり濃い隈が出来ていて、かなり疲れているのだろうと察した。
俺達は軽い自己紹介を済ませると、村を襲うゴブリンについてカントさんに尋ねた。
「例のゴブリンなんですけど……数はどれくらいいるんですか?」
「そうですね……4,5匹はいるように見えました。ただ……」
「ん?何か気になることが?」
「村を襲うのはそれだけでもまだ洞窟に潜んでいるかもしれないんです」
「洞窟?」
「ええ……村の外れに小さな洞窟があるのですが奴らはそこを根城にしているようで……」
「そいつは少しやっかいだな……」
多少相手のほうが数が多いくらいならなんとかなりそうだが、あまりにも多いと厳しくなりそうだ。
報酬がこの手の依頼にしては多かった理由を俺は今はっきりと理解していた。
「その洞窟はどこにあるんですか?」
「村を北に30分ほど進んだ所にある茂みの奥にあります」
「意外と近いな……」
どうすればいいか考えているとカインが提案してきた。
「ねえ、洞窟に行ってみない?」
「……正気か? 下手に動いて囲まれでもしたら大打撃を食らうのはこちらだぞ?」
「そうですね……村を襲ってくるゴブリンを撃退していって、少しずつ数を減らしたほうが確実じゃないでしょうか」
ジョセフの言葉にエレナも同意する。
「ゴブリン達が動くのって夜になってからって話だったよね?カントさん」
「ええ……奴らが昼に襲ってくることはないですね」
「だったらあいつらは夜行性ってことだから、明るい今のうちに乗り込めば動きも鈍って倒しやすいんじゃないかな?」
「なるほど、一理あるな」
「でしょ?」
「ですが洞窟の様子もわからないのに動くのは……」
「だったら僕が先行して様子を見てくるよ」
「よし、じゃあ頼めるか?カイン」
「任せといて」
ジョセフはそう言うと洞窟の様子を見に行った。
――1時間後
「おーい!」
俺達が武器を磨いているとカインが戻ってきた。
「おう、どうだった? カイン」
「洞窟の入口の前に見張りが2匹いるね。それと洞窟の規模はそんなに大きくないみたい」
「そうなのか?」
「うん。あれなら数が多くても10匹程度で済むんじゃないかな」
10匹なら十分に勝ち目のある数だ。
これはチャンスだと感じた俺はジョセフとエレナに洞窟に向かおうと提案すると、
二人も同じことを感じていたらしくすんなりと同意してくれた。
――30分後
「なるほど、あれが見張りか……」
「確かにカインさんの言う通り厳重ではなさそうですね……」
入り口の前に2匹いるがどちらも眠っているようだ。
「こっそりと忍び寄って仕留めてしまおう」
俺達は音を立てないように静かに歩を進めると武器を手にとった。
(よし、今だ!)
「グエッ!?」
「よしっ!」
即座にゴブリンの首を刎ねた俺達は洞窟の中に入った。
カインの言うとおりに洞窟の規模はあまり大きくなくすぐに奥まで行けそうな雰囲気だった。
洞窟の中を進んでいると分かれ道が見えた。
「分かれ道か……どうする?」
「この先にゴブリンたちがいるかどうか調べてみます……生命感知<<ライフ・フィール>>」
そう言うとエレナが生命感知の魔法を使いだした。
これがあるとある程度の魔物の数が分かってとても便利な魔法の一つだ。
「右に3匹、左の方には7匹です」
「ってことは左のほうが本丸っぽいな」
「右のゴブリンを倒してから左に向かうのがいいだろう。挟み撃ちでもされては厄介だ」
「そうだな」
ジョセフの提案を受け入れた俺は右の道に向かうことを選択した。
道の奥には感知の通りに3匹のゴブリンがいたが、中央の一匹だけは大きさが違った。
アレは恐らく……。
「……どうやらホブゴブリンのようだな」
「だな。ったく面倒だぜ」
「奴は俺がやる。お前は左右を頼む」
「はいよ、それじゃいくか。カインとエレナは下がっといてくれ」
そして俺とジョセフはそれぞれゴブリンに斬りかかった。
「ギエー!」
2匹のゴブリンが俺に襲いかかってくる。
俺は斧を構えると思いっきりぶん回し、2匹まとめて壁に叩きつけた。
「グエー……」
どうやらかなり弱ったようだ。
この機を逃さず俺は腰に下げた剣で二匹の首を刎ね飛ばした。
「ギシャー!」
「やはりパワーだけは相当なものだな」
その頃、ジョセフとボブゴブリンの戦いが始まっていた。
手に持っていた棍棒を思いっきり振りかざしジョセフに襲いかかるが、ジョセフは軽やかにその攻撃をかわしていた。
「フン、遊びはここまででいいだろう。この一撃で燃えつきろ。炎剣斬<<フレイム・スラッシュ>>!」
ジョセフはそう言うと魔法唱えて剣に炎を宿しホブゴブリンに斬りかかった。
「ギャアアアアア!」
断末魔と共にボブゴブリンは燃え尽きた、ジョセフの勝利だ。
何度見てもアイツの動きは凄い。
「これで全て片付いたようだな」
「ああ、本丸に向かおうぜ」
そして元来た道を引き返し左の道を進むとゴブリンの群れを発見した。
「あれ?また一匹だけ雰囲気が違う奴がいるよ?」
「……ほう、あれはゴブリンシャーマンだ。魔法を使ってくるゴブリンだ気をつけろ」
「まずは数を減らすことを優先したほうが良さそうですね……眠りの霧<<スリープ・ミスト>>!」
エレナが魔法を唱える。
今回の魔法は眠りの霧……うまく行けば相手が眠りに落ちる魔法だ。
「3匹ほど眠ったみたいだね。僕はこっちを始末しとくから残りはよろしくね」
「おう、任されたぜ!」
そして二手に分かれて戦い初めた。
俺とジョセフはゴブリンたちを相手にしつつゴブリンシャーマンに迫った。
だが……
「眠りの霧<<スリープ・ミスト>>!」
なんとゴブリンシャーマンも同じ呪文を使ってきたのだ。
俺とジョセフ、カインはなんとかかからずに済んだのだが……。
「Zzz……」
「おい! 起きろエレナ! おい!」
なんとエレナが魔法にかかってしまった。
そこにすかさず次の魔法が飛んでくる。
「ブラック・フレア<<黒き炎>>!」
「ちっ!」
俺はエレナをかばうように立ちふさがり代わりに攻撃を受けた。
「ぐわああああ!」
「グレン!」
「ちいっ!」
ジョセフは素早くゴブリンシャーマンの首を跳ね飛ばすと残りのゴブリン達も殲滅していった。
「無事か?」
「……おう、こんなもんかすり傷だ」
「あまり強がり言わずに辛い時は辛いって言ったほうがいいんじゃない?」
「……とにかく早くこの場を離れよう」
俺はカインに肩を借りて歩き、エレナはジョセフが背負っていった。
そして村への帰り道の途中でエレナが目を覚ました。
「申し訳ありませんでした……私としたことが」
「なに、気にするな。前で体張るのが俺の役目だしな」
「今すぐ直しますね……回復<<ヒール>>」
エレナの癒やしの魔法で俺の怪我もだいぶ軽くなった。
魔法ってやっぱり便利だよな……。
村に戻るとカントさんが出迎えてくれた。
ゴブリンを倒したことを報告するととても感謝された。
そして村で一泊した後、報酬を受け取った俺達は宿に戻った。
「今戻ったぜ」
「おう、お疲れ様。どうだった?」
「この通りバッチリよ」
俺は報酬の入った袋をダリルに見せた。
「無事達成できたか。良かったじゃないか」
「ああ。これできっちりとツケも返せるぜ」
「そりゃいいことだ」
「おう期待しといてくれよ」
俺は部屋に戻って風呂に浸かった後、宿の酒場に向かい仲間達と飲み始めた。
途中で同じ依頼を受けようとしていたアインにも出会い、今回の事件を俺達が解決したことを伝えた。
悔しがっていたが、俺達が依頼を達成したことを祝ってくれた。
酒が回って上機嫌になった俺は酒場の客に今晩は俺のおごりだと伝え更に飲んだ。
そして夜が明けた……。
「あー……頭がいてえ」
「昨日あれだけ飲んだんだから当然だな。ほら水だ、こいつを飲んでシャキッとしろ」
「おう、ありがとさん……」
ダリルから水を受け取った俺は水を飲み始めた。
「ああそうだ、お前のツケがまた増えたからな」
ダリルからの言葉に俺は思い切り水を吹き出す。
「ええっ!? なんでだよ! あの報酬で払えたはずだろ!?」
「昨日のことを忘れたのか?あれだけ調子に乗っておごりだなんだとやったせいで支払いだけで全部無くなってたぞ」
「マジかよ……」
「まあ次からは調子に乗らずに計画的にお金をつかうんだな」
「ちくしょー……」
どうやら俺のツケを払う日々はまだまだ続くようである……
完
初めて小説を書いてみました!見苦しい点が多いと思いますがアドバイス等お願いします!