日々と過去
男の呟きを耳聡く聞きつけた少女は、にぱっ、として言う。
「アルナイルですか!やったです!かわいい名前ですよ!」
(名前に可愛いも何も無いだろ…)
「次はご主人様ですよ!」
「う…うむ、まぁ後でな。」
「もぅ!またですか!」
(フッ…元気なものだ…)
「あ、ご主人様やっと笑いましたね!」
(ん…?俺が…?笑う…?)
彼らの生活は始まったばかりである。
■□
あれから数日が経った。
「あの、お買い物に行って来ても良いですか?」
「あぁ、勝手に行ってくれて構わんぞ。」
「あの…その…お金が…」
「金?その辺に転がってるだろ?」
「いやそんな訳…………ありました………ってこれ金貨じゃないですか!」
「あぁ、俺はあまり使わんのでな。適当に使っていいぞ。」
「ダメですよ!もう!」
「まぁ、五枚ぐらいは常に持っとけ。何かあっても大丈夫だろ。」
「それは、大丈夫でしょうけど…」
この国では銀貨五枚もあれば一年は生活出来る。金貨は銀貨の十倍の価値がある。
■□
アルナイルは、掃除と洗濯は、仕事でしていたらしく中々に達者なものだった。料理はした事が無かったらしいが、スポンジが水を吸うかのようにみるみると吸収していった。
「うむ、掃除も洗濯も大したものじゃないか。」
「こうでもしなければ、その日の食事にも有りつけないような日々でしたからね…」
少しばかり普段とは違った空気を醸し出すアルナイル。だが男は少し気になったのだろう、すなわち何故そうなったのかと。
「神の寵愛を受けし者のお前が何故そうなったのだ?」
こう聞くのには理由があって、この国は、力が全てなので、力さえあれば何でも許される。つまり、オッドアイだろうが何だろうが関係ないのだ。だが他国は違う。唯一の宗教が「そいつらは敵である」と声を大にして言うのだ。良くて迫害、悪ければ生まれて即刻殺されることもあるのだ。そんな中で何故、少なくとも仕事として成立できるだけの扱いが成されたのか。男はそれが不思議でならなかった。
「それは…長くなりますが良いですね?」
男は静かに頷く。
「そうですね…これは私の物心が付く前の事ですからちゃんとしたことは分かりませんが…」
アルナイルは語り始めた、自分の生い立ちとその仇を…
「私の両親は、どちらも美形で、街の人からの人望も厚く、街の誰が見ても鴛鴦夫婦だったそうです。ですが、そこに私が生まれました。最初は街の人はさっさと殺して次また頑張れ、と言って励ましてくれたそうですが、心優しい両親は、私を殺すことは出来ませんでした。二人して私を庇ったのです。これには街の人も驚きで、最初は説得された様ですが、両親は断固として譲らず、次第に人望を失っていき、終いには街の裏側でひっそりと暮らすようになりました。しかし、その父に徴兵の令が下されたのです。父はそれに逆らうことが出来る訳もなく連れていかれました。そしてそのまま帰ってくる事は無かったそうです。残った母も独りで私を養えるはずも無く娼婦となり、奴隷となって連れていかれたそうです、そして何も知らない私だけが残されました。気付いた時には、私も体のいい労働力として使われていました。後から知りましたが、父は血沼の死神と言うまだ年端も行かない子供に殺されたそうです。私を庇う様な父が、敵とは言え少年を殺せる訳も無く…きっと無抵抗に殺されたのでしょう…そいつさえ…そいつさえいなければ…私達は…こんなことには…」
アルナイルには珍しい事に、その目に涙を浮かべる。そして男は思う
(これが俺のしてきたことか?敵を全て葬れとそう言われたから、そうして来た。だが、俺がしているのは…正しいことか?)
男は分からない。だが確かに運命が狂い始めた。
実年齢とかは書きません。ボロが出そうなので…
既に出てる気がしないことも無いですが…
自分の名前も知らない年で一人で生きて行けるもんなんですかね…(お前が言うな)