日常と名前
「そんな事よりまず仕事をしてもらう。」
「そんなことって…でも分かりました!後で必ずですよ。」
そんなこんなで家にたどり着く、何の変哲もない普通の家だ、内装はほぼ使われておらず本人の言う通り埃を被っている。
「入ってすぐの部屋以外は好きにするといい。」
そう言いながら、男は少女を見る。少女は少女で顔の前に握り拳を二つ程作りながら、私頑張ります!といったオーラを醸し出している。
「では、早速始めますよ!お道具はどこですか?」
「そんなもの無い。」
「がびょーん!」
そんな少女に告げられたのは残酷(?)な現実だった、この世の終わりの様な顔をしている。
「仕方ない、買いに行くか。飯もついでにな。その格好もどうにかすべきだろう。」
■□
「私、誰かとお買い物するのは初めてです!」
「そうか。まずは服だな。」
男は、少女の襤褸切れをどうにかするつもりでいた。ただファッションセンスの欠片もない男は適当な店に入る。
「いらっしゃいな〜。あらあら、いい男ね〜。今日はどのような御用で?」
「あ…あぁ…この子の服を頼みたい。」
ピンクでフリフリな服を纏ったゴツゴツの店員(もちろん男である。)に少し動揺した男は、思考を放棄し全てを丸投げする。
「分かったわ〜。任せてちょうだ〜い。ふむふむ、中々可愛わね〜。じゃあ色々試すわよ〜」
「よっ、よろしくお願いします!」
少女の方も、空気を読むのは得意なようだ。
■□
少女が着せ替え人形となって暫く経つと、待っていた男の元に戻って来た。
「こ〜んな感じでどうかしら〜?」
「に…似合ってますか?ご主人様?」
少女はボーイッシュと言うべきか、はつらつとした格好をしている。
「うむ、まぁ良いのではないか。」
「もっと褒めて貰ってもいいんですよ!」
「では、勘定だな。」
「無視ですか!あ、待ってください。これもお願いします!」
「む?これか…」
「はい!」
■□
「それにしても、ギャラドスさん、私の目を見ても何も言いませんでしたね。」
ギャラドスとは、あの店員のことである。
「まぁ、そんな奴もいるさ。」
「そうなんですね。」
買い物は恙無く進み、男と少女は街中を歩く、荷物は全て少女が運んでいる。なかなかに鬼畜の所業だが、本人に、言わせてみれば、「使用人ですから!」だそうだ。その少女だが、実は、男と大した年の差は無く、背丈は男の方が少し高い程度だ。そしてなかなか整った顔立ちをしている。片目を隠してなければ、誰もが憧れるであろう美形である。だがいざ蓋を開けると、神への冒涜者であり、嫉妬も相まって差別への拍車を掛けたと言える。
ただ男から言わせてみれば
(目と耳が二つに口と鼻が一つ、普通の顔だな。) だそうで…
少女は男とお揃いのローブを買って貰えたことにホクホク顔だ。
■□
「さぁ、今度こそお仕事です!ご主人様は、お掃除の邪魔なのでお外で待っててください!」
っと言われてしまったので、男は大人しく外で待っている。
(俺の家なんだがなぁ…)
と、ぼんやり思うが何も言い返さないのは、その為に連れてきたからというのもあるだろう。日が暮れて夜の帳が降りたころ、ようやく窓から少女の上半身が出てきた。
「やっと終わりましたぁ!褒めてもいいんですよ!」
と少女が宣う。
「ご苦労だったな。今更だがお前、名はなんというのだ?」
「ほんとに今更ですねぇ!名前ですか…その…私はかつての名前は棄てようと思います。ご主人様に付けて貰えると嬉しいかなぁ、って甘えちゃいます!」
「ふむ……」
ふと男は、夜空を見上げる。
(今日も星が輝いている。そう言えば…)
「アルナイル…」
男はボソリと呟く、これが少女に与えられた、輝くもの、を意味する名だ。その笑顔がより一層輝くと信じて…
終わりませんよw