交渉
全く意識してなかったのですが、毎月19日が更新日みたいになってますね。
「………お前は私を解き放ってくれるのだろう?」
「あぁ。確かにそうは言ったが……」
「お見事ですね。まさか雨天を味方につけるとは。」
「うむ。こいつも俺と同じ運命にあると感じたからな。いや、それはいいのだが……」
「……何か問題が?」
「何か問題が?」
シンクロする二つの声。その出処は隣と上からだ。
つまり、今死神は雨天を肩車しているのである。
「……天は高い。……檻を壊すにも、少しでも高いところにいる方がいい。」
「そんな物理的な話では無かった気がするが。」
「まぁいいではないですか。一件落着ということで。」
傍から見れば親子のように、いい年した男の頭に幼女が掴まっている。
「それよりもどうするのだ?本来はゾイゼンの元で武器を新調してもらう予定だったのだが。」
「アポが無いと駄目ならアポをとる方法を考えなければですね。」
「……私なら無条件でいける。」
「え?」
「え?」
今度は別の二人がシンクロする。
「じゃあ、何故来た道を戻っているんだ?」
「……お前達が勝手に戻った。……何より私は自分の意思では行きたい所に行けない。」
「降りるか……?」
「……や。」
「や。って…」
「一先ず戻りますか。」
急いで工房へと戻り、再び扉を開く。
「へぃ。いらっしゃ……ってまたあんたらですかぃ。親方は、アポが無いと会いませんぜぃ?」
そんな言葉も聞き流しながら、扉を潜る。
もちろん、肩車して入ってくる事など想定してないので、ドンッ。と音がすると同時に「あぅ。」と言う声が聞こえた。
「はい。ですが、この方なら行けるかと。」
「……ゾイゼン……呼んで?」
「あぁ、あ、あなたは!?すっ、すぐに呼んでまいります!」
「……うん。」
そんな淡白な返事ながら、褒めて褒めてと言わんばかりに、今掴まっている頭を、小さな手でテシテシと叩く。
「助かったよ。」
こればかりは、と死神も雨天の頭に手を伸ばし撫でた。
「……仕方ないんだから。」
雨天も満更嫌でも無い様子だった。
■□
その後すぐに現れたのは、片目を眼帯に覆われた筋骨隆々の老人だった。
「雨天サマが何か用かぃ。」
「……私じゃない。……この人。」
筋骨隆々の男。ゾイゼンの問に、雨天は自分のしがみついているモノをテシテシと指す。
「私達の依頼を受けて頂きたい。」
「ふん。……お?貴様らは……」
バナシウスは依頼を告げる。
奥の部屋に通された一行。依頼を一通り話すとゾイゼンが口を開く。
「ほぅ……事情は分かってい。ただ、貴様ら自分達がお咎め者ってこと分かってんのかぃ。」
ゾイゼンの鈍重な声が響くも、その程度で怯む者はいない。
「む?そうなのか?」
「おいおい。貴様ら自分の事だぞ?」
自らの現状に全く興味を示さない死神に、ゾイゼンは呆れ声を出す。
「……そう。……だから私は貴方達を追い掛けていた。」
「やはりそうでしたか。用心してきて正解でした。理由は……?」
「……中央も馬鹿じゃない。……日照の街が半壊した事でそろそろ貴方達を放置できなくなった。」
「半壊…ですか?」
「……うん。……正直シャレになってないらしい。」
「バングは、役目を果たしたのですね……」
「それにしても、半壊とはどう言う事だ?」
「……神の寵愛を受けし者の本当の力を使ったからに違いない。」
「本当の力とは……?」
「おいおい。儂の話から逸れちゃぁいねぇか?」
逸れかけた話をゾイゼンが戻す。
「あぁ…すいません。」
「お咎め者だろうと構わない俺達は俺達のすべき事を為すまでだ。」
死神の決意は固い。
「貴様らがどんな決意をしようとも、儂らが関わってる事がバレたら儂らもただでは済まん。それは承知か?」
「いぇ…それは……」
ある意味当たり前の障害が立ちはだかり、バナシウスは言葉に詰まる。
「承知もクソもあるか!変革を恐れるなら断ればいい!それを良しとして俺達に力を貸すなら共に責任を取れ!」
だが、死神は違った。
「死神さん……それはいくら何でも……」
「……うん。……ちょっと……無理難題。」
第三者からすればあまりな要求に見方のはずの二人まで少し引き気味な雰囲気を醸し出す。
「………………ぐ…」
そして当の本人は今にも何かが爆発しそうな、何かを堪えているような様を見せる。
だが、その反応はその場にいた誰もが目を丸くするものだった。
「…………グワッハッハッハッ!!」
ゾイゼンは、途端に笑い出したのだ。
「ハッハッハ!それが人にものを頼む態度か!?それに要求も釣り合わん!それでも、気に入ったわぃ!いいだろう。この儂が貴様らオリジナルの武器を作ってやろう!」
ともあれ目的は大きなお釣りが付いて達成出来たようだ。