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短刃の勇者  作者: 惨劇の翼(厨二)
3章 天統べる者
33/34

誰だお前……

その街は、止まぬ雨が降り注ぐ。けれども、境界を一歩踏み出せばそこには一滴の雫すら落ちては来ない。

しかしながら、街を中心にクモの巣状に広がった水路が大地を潤し、農作物の名産地としても知られている。


雨の街。その歪な構造は、この世界に於ける神の寵愛を受けし者(ギフター)の力を誇示しているかのようだった。


そんな街中を、漆黒の外套を身に纏い、黒雲に覆われ日の差し込まぬ闇に溶け込む影が二つ。


その先にあるのは工房区。既に喧騒と熱が漂ってきている。


「ここだな。」


「やっと着きましたね。」


一際大きな店に入り、カウンターの様な場所で、受付を行っている男に話しかける。


「ゾイゼンに会いたいのだが?」


「ん?誰でい?あんたら?親方にアポは取ってんですかい?」


「いや、取ってはないが。」


「そいつァ無理ですわ。諦めてくだせぇ。」


そう言って店から押し出されてしまった。


するとそこには、降りしきる雨の中、傘もささずに立っている小さな少女。


そして、その小さな口を開く。


「……みつけた……」


カッと見開いた目は左右の色彩が異なっている。

更に、纏う雰囲気は明らかに歴戦のそれだ。


「!?まずい!」

「……雨。」


重なった言葉が意味する事は対立。


雨天(あまぞら)の声に応えるように、否、雨天の命令に従い、水の粒は鋭さを増す。だが、死神は悠々とそれを躱す。


「ボス!下がってくれ!俺が相手をする!」


「頼みましたよ!」

「……雨。」


今度はバナシウスに対して鋭い雨が降り注ぐ。外套に幾つかの穴を開けながら、辛うじて逃げる。


「浮気をしないでくれるか。」


一瞬の隙に死神はナイフを三本同時に投げる。飛ばされた投げナイフの内一本を、雨天はバク転をしながら宙に蹴り上げ、着地と同時にそれを掴む。

残りの二本は何も捉えず地に落ちた。

華奢な体の割に動けるようだ。


「……なぜ…裏切った……」


剣戟の応酬の際にふと呟く。


「この国が腐っているからだ。」


「……どんな風に…?」


「それは……お前は、使い潰される運命が良かったというのか!?」


「……それは…詭弁…私達は…生かされて…生きている……」


「人間としてではない!ただの兵器だ!」


「……見解の相違……殺されてたら…そこで終わり……産声をも上げることは無かったかもしれない……」


「だが!俺達は現に生きている!」


「…….結果論……それに…必要とされる……それだけで…素晴らしい事……」


「そこに、俺達の意思はない!強制されたものに正義は存在し得ない!」


「……正義のヒーローにでも…なりたいの……?」


「違う!そういう意味ではない!俺はただ、あの子の、アルナイルの果たせなかった事をするだけだ!檻を打ち破り、大空に羽ばたくことを!」


「……檻を…破る……?…破って…どうするの……?」


「檻は無いのが当たり前だ!自由というのは当然に与えられなくてはならない!」


「……そんなに…自由が…いいの……?…檻が無ければ…空の高さに絶望するかもしれない……二度とそこには戻れないかもしれない……」


「空の高さに心躍るかもしれない!本当に戻るべき場所には自然と辿り着くだろう!」


「……それは…空論……」


「逆もまた然り!檻は楔であって盾ではない!」


「……それは……」


「お前はただ恐れているだけだ!抗うことに!自由を掴むことに!」


「……うるさい……」


「飛ぶための努力をする者は、いずれ飛ぶことが出来るかもしれない。だが、飛ぶ努力をしない者は、決して飛ぶことは無い。0と1の差は1つではないのだ!」


少女は、雨では無い雫で顔を濡らし、怒りと悲しみの入り交じった様な複雑な表情で死神を睨み付ける。


「……黙れ!……だまれぇ……黙って……なら私は…檻の中の私に…どうしろと…」


「檻を壊せばいい。共に。俺もまだ壊し切れて無いんだ。」


「……共に…壊す……?……そんなの…ム―」

「無理じゃ無い!踏み出した先、何処かに必ず同胞はいる。もう一歩、俺たちのそばに来い!」


無理。その一言だけは言わせまいと食い気味に割り込む。


「……お前達なら…壊してくれるのか…共に……?」


「約束しよう。友と共に。」


「……私は…ずっと…一人だった…」


「もう、一人じゃない。」


「……裏切られるかもしれない…」


「一生裏切らないかもしれない。」


「……逃げ出すかもしれない…」


「逃げ出さないかもしれない。」


「……あとは…」


「素直になれ。抗ってみたくなったんだろ?」


「……私も人だ。歯車では無い。ならばたった一度だけ、お前達を信じてみよう。」


いつの間にか、滴る雫は乾き、空もまた涙を枯らしている。


雲の隙間から差し込む無数の光は、まるで新たな門出を祝っている様だった。

何だか暑苦しい回になってしまいました。

これはこれでいいかなとも思いますが。

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