いざ日照の街へ
「バンクただ今戻りました。」
薄暗い執務室に筋肉達磨の声が響く。
「よく戻りましたね。貴方の戦果は、我々の計画をかなり進展させました。それにしても、その背中に担いでいるものと、後ろにいらっしゃるのは?」
「あぁ、そうですなぁ。この斧は、あっしのバスターソードが粉微塵になりまして、その代わりに頂いたもので、この後ろのは…」
「僕は、ししょ〜の一番弟子のファングです!よろしくお願いします。」
ちゃっかり付いてきたファングが食い気味に答える。
「まぁ、色々ありまして…」
「そ、そうですか。貴方が弟子を取るとは珍しいですね…」
と、そんな執事室の扉が開く。
「あら?バングが戻ったのね。ってあんた、もしかして…………ファブリオ……?」
「え?……姉様?」
「え?何じゃ?」
「どうやらお知り合いのようですが?」
「まさか!ほんとにファブリオなの!?」
「あ、姉様!お会いしとうございました!」
「むう?完全に置いていかれとるわい。」
フライハイト家はかつて、王国の中でも有力な貴族であったのだが、現在、長女が旧王族派の首魁の元許嫁という事で、一族の取り潰しになりバラバラになってしまった。 そんな中で偶然、遭遇したのである。
と言った説明を受けている最中に、勢い良く扉が開かれる。
「たいへんです!ケプチャク村が!」
「どうしたのです?」
「壊滅しました!」
「何ですって!」
「状況を説明せぃ!」
伝えられたのは、日照の管理する村での虐殺だった。
■□
急ぎ馬を走らせ、ケプチャク村へと辿り着いたバナシウスとバンク、そして死神は、村の現状に唖然とした。
「なんだこれは。」
「酷すぎます。」
「うむ……」
そこにあったのは、親子だろうか?抱き合うようにして無残に焼き焦げた遺体や、ひれ伏せたまま首だけ無い遺体、体中を串刺しにされた遺体などがゴロゴロと転がっていた。
「またもや尊い命が……」
「何故だ…?」
男達は言葉も出ない。
「報告によりますと、何でも年貢が少ないとかで…」
そんな言葉を耳から流しつつ、バナシウスは次の策を考える。
「他の村にも向かっているかもしれない。助けなくては!」
「どこに向かうと言うのだ!」
「近くの村を一通り回ります!」
そうして次の村へと向かう。
■□
「遅かったか…」
その村でも同じ様に命を奪われた者達で溢れていた。
「なぜ…こんなことに…」
「これはかなり時間が経っておるのぅ。この様子だと、他の村も手遅れかもしれんのぅ…」
「そんな…何故いつも弱者がこの様な目に合うのでしょうか…」
「それは、弱いからとしか言い様が無いな…」
「みながみんな、貴方のように力を付けれる訳では無いのですよ!」
「それでも、だ。どんな状況下にあろうとも、結局手にした者が勝つのだ。」
「くっ…なれば、民を救う為に、我々も力を行使するしか無いのでしょうか…」
「そうだろう。特にこの場合は。日照はどちらかと言うと、殺す方を楽しんでいる様にも見えるからな。」
「許せません。日照…必ず打ち倒して見せます…」
■□
カンカンカンと鉄と鉄を打ち合せる音が響く中、息を切らして声を荒げる者がいた。
「親方!またです!うちの武器で無意味な殺戮が繰り返されています!」
「知るか!儂らは武器を作るのが仕事であって、それがどう使われようが知ったこっちゃないわ!」
「そんな!我々が魂を込めて打ち込んだ剣が、殺戮の手助けをしてるんですよ!」
「だったら何か!作るのを辞めるかい!?」
「そ、それは…」
「お前も分かってんだろい!儂らが作るのを辞めれば、その武器がこっちを向くのは明白だろがい!」
「そうですが…」
「なら、ちんたらサボってねぇでさっさと仕事にもどれい!」
「はい…」
そうして、男は仕事に戻る。
「儂かって、そんな事は許せんのじゃい。」
そう呟いた、隻眼の老人の声は誰にも届かなかった。
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「見えました!日照の街です。」
「やっとか。」
「老人の腰には堪えるのぅ。」
馬に跨り駆ける一行は、砂漠のオアシスの様な所にある街に向かっていた。
「これが日照の街か?防護策が何も無くはないか?」
「必要無いぞ、ということでしょう。」
「そいつぁ、大層なこったで。」
「力無き者達の力を見せてやりましょう。」




