誓いと仇
バングは一人墓の前に佇む。
「シラユリ…すまねぇな。俺がもっと早く動けてやれば…いや、過ぎたことをグチグチ言っても仕方ねぇよな。あっしは、お前の誇り高く生きる様は気に入ってたんだぜ?なんてな…年寄りの戯れ言だ。」
バングは、旧王族時代の戦士長である。その生き様は、決して驕らず、誉高く、己の筋を貫き通してきた。その性格故に、今の制度というものに不満をもっている。力があれば許されるのだ。守護八忌という存在は、その持つ力を認められた無秩序の集団で、性格なんぞは鑑みる事はない。つまり、かなり性格破綻した輩もいる。弱者はそれに抗う術がない。力というのは、それだけ制御されていなければならない。
「あっしが、お前の仇取ってくる。そうすれば王子達の役にも立つだろう。」
そう言い残してバングは、馬に跨る。そして気付くのである。
(む?そういやぁ、シラユリの砦を破ったのって…だれだ?)
バングは同様して現場の跡を調べていなかった。報告により、守護八忌の誰かというのは分かっていたが、それ以上の情報は無い。
(報告は正確にせぇ、と散々言っておるのに…とにかく、もう一度現場に戻るか…)
男は馬を走らせる。
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(うむ…やはり兵共が残骸の掃除をしておるか…どうするか…)
砦は無惨に破壊されており、それをそのままにするはずも無く、衛兵達が後片付けをしている。
(うむ…こういう時は、酒場に行って情報屋を尋ねるのが良いとヲータンから聞いたことがあるぞ。)
そうしてバングは歩き出す。
(にしても、誰じゃ?汚した後に殺すよな奴だから女では無かろう。そうなると、常闇、戦乙女、堕天使、辺りは違うだろうし)
ぼんやり考えながら歩いていると、酒場に辿り着く。
(まぁ、聞いてみりゃあわかるだろう。)
そんな適当な事を考えながら、酒場に入る。適当な所に腰掛けて、口を開く。
「マスター、情報屋を。」
「は?何言ってんだ?あんた。うちにそんな酒は無い。」
「いや、酒では無くてだな…」
「なんだぁ?冷やかしなら帰ってくれ!」
バングは、放り出されてしまった。
「ててて…参ったな…自分で探すしか無いか…」
バングは、砦に戻る。
(裏からなら入れるか…)
男はそっと裏口に回る。裏口には兵士は居ない様だ。
(よし、行けるな。)
バングは、調査を開始した。
(やはり打撃跡が多い…これで剣聖は無くなった。雨が降ってはいなかった様だから雨天も無い。つまり、巨腕か戦斧か日照のどれかだが…)
そんなことを考えているうちに、シラユリの遺体があった所にやって来た。
(む?これは?)
そこには、赤い文字で、斤と書かれていた。
(これは…恐らく…というか、間違いなくシラユリの伝言だろうな…誰かがここに来て、復讐に向かうと読んでいたのか…何にせよ、惜しい人材を亡くしたな…それで、これは何だ?)
一旦報告に戻るバングであった…
■□
鋼の様な冷やかしの男が去った酒場の一角にて、二つの影があった。
「なんですかね?あれ。あんな直接接触しようとする事なんてありますかね?馬鹿なんですかね?」
「言ってやるな。ありゃあ見た感じ、脳ミソもかなり鍛えてやがる。」
「このタイミングで情報屋とは…何者でしょう?」
「さぁな。そんな事より、俺たちは革命軍に接触せねばならん。」
「そうですね。さっさと雁首揃えて出て来やがれってもんです。」
「そうしてくれりゃあ、こっちも楽なんだがなぁー。」
そして、男達は暗闇に消えていく。
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「ーーてなかんじでさぁ。」
バングは、報告に戻っていた。
「そうですか。これは間違いなく斧を意味しているのでしょう。」
「そうですかい…なら戦斧で間違いないと…」
「はい。」
「分かりやした。これでやっと向かえやす。」
そこにライラが入って来る。
「あら?出て行ったと思ったら、もう戻ったの?」
「いや、今から行くとこでさぁ。」
「そう…なら一つ約束して、必ず戻るって。」
「分かってやすよ。あっしも王子の成すことを最後まで見届けなきゃならんのでね。」
「ならいいわ。気を付けなさい。」
「行ってまいりやす。」
バングは仇の元へ向かう。




