次なる戦に
「彼の様子はどうですか?」
「今は、ライラとファーレが見てやすが、相変わらず、ひでぇ暴れようでさぁ。」
「そうですか、あの少女とは何か深い繋がりがあったのでしょうね…」
「そう…ですなぁ。」
バナシウスとバング達一行は、死神を連れて戻った。だが死神の暴れようは尋常では無く。取り付く島もないので取敢ず特殊な牢に閉じ込めておく事にした。
バングの歯切れが悪いのは、同僚のシラユリの事を思ってか。
「もう少し様子を見ましょう。睡眠の香を焚いてますので、疲れたら眠るでしょう。」
「了解でさぁ。ライラとファーレにも伝えておきやす。」
「お願いします。」
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「すーごいねぇー。二重牢の一つを破って漸くお休みだねー。」
間延びした喋り方をするのは牢番のファーレだ。
死神は、囚人が逃げれない様に頑丈な檻が二重になっている牢屋に入れられている。もちろん武器等は、外され身に付けてはいない。
「全くよ、こんなのが敵だったらと思っただけで震えて来るわ。」
「がくぶるだねー」
「あんたは、呑気でいいわね…」
ライラは目元に手を当てて、呆れたような声を出す。
■□
それから数日経ったが、死神は相変わらず檻と喧嘩するばかりで、会話は愚か、食事すらまともに取っていない。
正当王族派の兵士達も、これ出てきたらやばくね?、とヒヤヒヤしている。
「これ程までとは…正直想定外でしたね…」
「そうね、これを想定できたら今頃国がひっくり返ってるわね。」
「いずれはひっくり返っさねばなりません。少なくとも、今の制度だけでも。私の事より、苦しんでいる民達の事を考えねば…」
「相変わらずの正義感ね。いつかその身を滅ぼすわよ?」
「忠告は受け止めておきます。」
ライラとバナシウスの話しているとバングがやって来た。
「王子、話が…ありやす。」
「おや?貴方からとはまた珍しいですね。何でしょう?」
「あっしは、シラユリの仇を討ちたいんでさぁ…あの男を見てると…やはり…あっしも黙ってらんねぇんでさぁ。」
「そう…ですか。ですが、あの砦を破ったのは守護八忌の一人ですよ。それが…」
「そらぁ、分かってるんでさぁ!でも、それでも、あっしはやらにゃあならんと思うんでさぁ!」
バングは食い気味に応える。
「なるほど…そうですか…貴方は敢えてその道を進むと言うのですね?」
「はい、覚悟はできてやす。この身に変えても打ち取りやす!」
「その覚悟は立派ですが、帰って来て貰わないと困ります。貴方は貴重な戦力なんですから。」
「そうよ、確かにシラユリを汚した奴らは許せない。でも、復讐に囚われて為すべき事を見失っては駄目よ?」
「肝に銘じておきやす。」
と言ってバングは去って行った。
「大丈夫かしら?とてつもなく嫌な予感がするのだけれど…」
「貴方もですか…我々も覚悟が必要かも知れません…」
その部屋を沈黙が支配する。
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「ギャァッザッザァー、あんな砦にどれだけ時間を掛ければ気が済むんだぁ?お前ら。あれしきどうにか出来んでどうするよ!」
人の身の丈程ある斧を担いだ男が、歩きながら、部下に問いかける。
「申し訳ありません。我々では、少し力不足で…」
「少しだぁ?じゃあ俺様とお前らは少しの差しか無いのかぁ?あぁ?」
「いえ…そういう訳では…」
「なんだ?てめぇ?ハッキリしやがれ!」
「申し訳ありません。我々では全く持って力不足でございました。」
「ギャァッザッザァー、そらそうだわなぁ!まぁ、あの女を楽しめたから良しとするか。」
そんなことをのたまう男の前を、一人の男が横切った。
「おい!テメェ!誰の前を横切ってんだ!」
「あぁ…戦斧さま…申し訳ありません。気づかなかったとはいえ失礼な事をしてしまいました。」
男はこれでもかという程頭を下げる。
「ダメだ、死んで詫びろ。」
「そっ…そんな事おっしゃ…」
男は、戦斧の愛用する斧によって叩き潰された。
「ギャァッザッザァー、この守護八忌に逆らうからそうなるんだよぉ!」
まるで台風の様な男に民達は、近寄らない様にするので精一杯だった。
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この街は、戦斧の街という。その名の通り、戦斧が王より賜った街で、王国の第一防衛ラインでもある。守護八忌は、それぞれが街を一つ賜ってその地を護る。
この街は中央に天守閣があり、そこで戦斧が暮らしている。
月明かりが照らす中、戦斧と女が言い争っている。
「また、無意味に人を殺しただろう!何度言えば分かる!民あっての国なのだ!お前は民を蔑ろにし過ぎだ!」
「へいへい、分かってるよ。そうきゃぴきゃぴすんなって、な?これでも善処してるんだ。」
「何が善処だ!たまに遊びに来ればいつもそうではないか!普段がどうかなんて容易に想像が付く!」
「わあってる。わあってるって。」
男と女の討論は終わりそうにない。
一応一章という事で。早速主人公はいませんが…




