一つの終わり。
少女は、息も絶え絶えながら男を見る。
(ご主人…様…ごめん…なさい…私の…せいで…)
男は周りにいる教会の幹部達と睨み合っている。実力主義の王国だけあって幹部達も、中々の実力者揃いだ。
そんな中男が動く。
その両の手に持ったナイフをまるで別々の生き物の様に扱い、あらゆる方向からの攻撃を捌く捌く、時には足を使ったりと、もはや人間離れしている。
(す…ごい、わ…たし…には…あれほど…は…扱え…ない…)
「何者だ!こいつ!これでは押し…」
幹部の一人が叫ぶも、そんな暇があればと、男の刃の前にその首は宙に舞う。
「くっ…貴様、一体何しに来やがった。」
「それはこちらのセリフだ。お前らこそ俺の使用人に何をしている!」
「使用人だぁ?ふざけるな!」
「話にならん!」
教皇と男の口論は平行線で、気付けば教会側は、教皇を残すのみとなった。
「後はお前だけだぞ?」
「ちぃ…仕方あるまい…」
(まだ、何かするつもりか?)
「ふんっ!」
「ッッ!」
教皇はその錫杖を振る。しかし、その速度は尋常ではなく、男よりも速い。それに加えて、洗練された動きにより、男でさえも手を出す事が出来ない。いつの間にか民衆も居なくなっている。
そんな中に馬に跨り数千の軍勢を引き連れてやって来る者がいた。
「これは…どういうことゾェ?」
「おぉ、やっと来やがったか。焦ったぜ、こんなのがいやがるとは思って無かったもんでな。」
「お主、こやつ相手に無事なのかゾェ?」
「まぁな。」
教皇と現れた男が言葉を交わす。
その隙に男は、アルナイルの側へと駆け寄る。
「アル!大丈夫か?」
「けほっ…ご…主人様…ごめん…なさい…けほっけほっ…今日…のお夕食…まだ…なんです…」
「何を言ってる!そんな事はいい。今解いてやるからおとなしくしてろ。」
「まだ…お掃除も…終わって…ません…」
「だから何を…」
男も気付かない訳では無い。これは彼女の後悔なんだと。だがそんな現実は認めない。
「でも…今度からは…自分で…やって貰わないと…ダメかも…です…」
「黙ってろ!くそ…止まらない…」
止めど無く溢れてくる血と、その量に比例して冷たくなる少女。
少女は願う。もっと彼と共に居たかった。もっと彼の近くに居たかった。もっと彼の心を溶かしてあげたかった。
「ご主人…様…私…は…この…数カ月…人と…して…生きる…事が…出来…ました…とても…とても…幸せ…でした…」
男は黙って彼女の紡ぐ言葉を受ける。
「…ありがとう…ございました…あと…ごめん…な…さい…」
そして、少女は静かに眠る。隠れた瞳に眩い光を残して…
その瞳が最後に捉えたのは凍えた心が砕け散る所だった。
「クソぉおぉぉおおぉぉ、何故だ!なぜ彼女が…死なねばならないのだ!許さん!許さん許さん!」
男は、力を解放する。
■□
「ありゃ不味くないすか?」
「宰相まで出てきましたか…それも軍を引き連れて、死神と何かあったのでしょうか?」
「さて?それは知りませんが、これはチャンスでは?」
「そうですね、幾ら死神でもあの数を相手取るには厳しいでしょう。何としてでも彼を連れ出しますよ。」
「「「了解!」」」
■□
不屈。それは男の持つ能力で、その力は、魂が奮う限り、力を増し続ける。という、とんでもないものだ。
「うぉおおぉおぉぉ」
男は軍勢を相手に、くんずほぐれつの戦いを繰り広げる、男にとって練度の低い兵隊など相手にならない。だが流石に数千人相手に独りだと流石に部が悪い。
それでも男は諦めない。せめて、彼女の遺体を手厚く葬ってやる為に。
しかし、それを邪魔する者がいた。
「おいおい、あんちゃん、その辺にして一旦引くぞ。」
鋼の様な肉体に男は取り押さえられた。
「何をする!離せ!」
「いいや、離さんぞ。あんちゃんにはこっち側に来てもらう。」
普段の男ならどうにでもできた、だが今の男は、冷静さを失い、肉体的にもかなりの疲れが出ている。それ故に成されるがままに、連れていかれる。
「アル!」
男は手を伸ばすも届かない。
■□
「逃げるぞ、追うか?」
「構わんゾェ、にしてもあの男があれ程までになるとは…少し予定外ゾェ。」
「あいつは何者だ?」
「あれは、世間では血沼の死神と呼ばれる男ゾェ」
「おいおい、こんなの受けるんじゃ無かったぜ、そんな奴と殺し合いかぁ、奴が能力を使ってたら俺もやばかったな…にしても連れていったのは、誰だ?」
「恐らく、正当王族派ゾェ。」
「何だ?そりゃ?」
「奴らは、ヘラクレス閣下が滅ぼした王族の隠し子を真の王だと謳う連中ゾェ。革命軍とも呼ばれておるゾェ。」
「おいおい、そんなのに渡って大丈夫か?」
「なに、雑兵の集いゾェ。」
そう言って男達は立ち去る。多数の兵士の死体と、眠る少女を置いて…
序章の終話になってます