動き出す者達
それから数ヶ月が経った。
アルナイルは男の課す地獄とも言える特訓をこなし、かなり強くなっていた。
「俺が教えれることは全て教えた。後はお前の訓練次第だな。」
「はぁ…はぁ…あり…がとう…ござい…ます。」
男の教えれること、というのはもちろん短刃の使い方のみである。
二人揃って全身ローブにナイフと、とても怪しい格好なのはご愛嬌だろう…
今日も平和な一日の様だ。
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酒池肉林を体現したような部屋に嬌声が響く。
この部屋の主、アレーク・サンデールは、天々信仰教会を統べる教皇の地位に着く男である。男は昔、暗殺者に狙われた事があるらしく、顔の半分、特に片目を包帯が覆っている。そんな部屋に珍しくも、扉の開く音がする。
「おやおや、またお楽しみかゾェ?」
「貴様か、何の用だ?」
しばしの怒気を孕んだ声でアレークが言う。しかし、その闖入者は気にせず続ける。
「なに、少し大変な情報があるゾェ。何と、街をオッドアイの女が普段から彷徨いてるそうだゾェ。」
と言いつつ金の詰まった袋を投げる。
「なるほど、そりゃ大変だなぁー」
アレークは、黒い笑みで答えた。
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王国内、シラユリの砦。
「ギャァッザッザァ〜、手こずらせてくれるな、さっさとくたばっちまいなよ。この俺様、守護八忌が一人、戦斧のギャザー様が来たからには、もはや足掻きなど無駄無駄よ。」
下品な笑い声と共にオッドアイの男は宣う。
「何が、守護八忌ですか!ただ無垢な民々を無残に殺しただけでしょうに!あなた達にこの国は任せられません!ここは、このシラユリが死守します!」
「ギャァッザッザ〜、なら死守して貰おうかぁ!」
男は自慢の斧を振り回した…
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「団長!緊急事態です!」
「何が起こりましたか?」
「シラユリの砦が…落とされました…」
「……そうですか…ご苦労様です。下がって良いですよ。」
「バナー、そろそろ潮時よ。もう持たないわ。」
「そうですね。一旦後退しましょうか。我ら正当王族派も戦力の増強をしたいところですね。それに、守護八忌まで出てきましたか…遂に王国も本気で我らを潰しに来たという事です。」
「そうね…少し想定外だわ。この調子だと広国の騎士と血沼の死神も出てくるかもよ?」
「それだけは避けたいですね…誰かを引き込めれば良いのですが…」
オッドアイの男、バナシウス・ルーカスと女、ライラ・フライハイトは、遠からず訪れる破滅に頭を抱えるのだった。
ようやく動き出せそうです。




