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ある高校生の長い昼休み  作者: 紙から生えてくるアレ
店内編
2/6

醤油ラーメン

午前授業の今日、

講習中に一人、腹を鳴らす男がいた。


彼、矢嶋正之である。


今日の彼の思考は醤油ラーメンで埋め尽くされていた。

昨日の夜、ラーメン特集の番組を見て以来、

ずっとラーメンが食べたくて仕方がなかった。

運のいいことに、彼の最寄り駅の近くにはラーメン屋がある。

それも醤油ラーメンを売りにしている店だ。


彼はただひたすら待っていた。本日最後のチャイムが鳴るのを。


キーンコーンカーンコーン、

キーンコーンカーンコーン。


鳴った。同時彼の腹の音も盛大に鳴り響いた。

誰にも笑われない程度に。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


駆け足で駅の階段を降りている。

少し躓いてこけそうになるも執念、踏ん張り、立て直す。


彼の通う高校より三つ離れた駅が彼の最寄り駅だ。


(ああ、ラーメン。豚骨や塩もいいけど、今日はとにかく醤油ラーメンが食べたい。食べたくて食べたくて仕方ない。)


駅の改札を急ぎ足で、しかし確実にICカードをタッチして通り抜ける。


出口を出てすぐに左へ曲がる。

そして、少し薄暗い裏路地へ入る。

すると目の前に赤い暖簾が現れる。

彼が月一の割合で通うラーメン屋だ。


ガラガラガラ


「おう、来たか。今日あたり来るんじゃねえかって思ってたとこだ。」


ガラガラガラピシャッ


「おじさん、いつもの醤油ラーメンとライス中一つ。」


「あいよ。」


必要最低限の言葉でコミュニケーションを取るその姿は、まるで熟練のコンビである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ヘイお待ち。醤油ラーメン、麺固め、メンマ大盛り、ライス付き。」


彼がニュースを見始めて4分くらい経った頃、店主がラーメンを持って来た。


彼の目の前の醤油ラーメンには、やけに多いメンマが盛られていた。

乗るというより盛ると言った表現が合う。


彼は割り箸を割り、麺を啜り、汁を口に運んだ。


(ああ、ああああああああ、し〜み〜る〜。

こぉれだぁ、昨日から食いたかったのはぁ。)


至福の表情を浮かべ、恍惚に浸っている。


ただひたすらにすすり、時折具食み、ライスを口運ぶ。その単純な作業を繰り返す。それだけなのだが、彼はその工程一つ一つに恍惚となっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


気がつくと、彼が入店してから30分経っている。

丼の中にはもう汁しか残っていない。

ライスは残り半分といったところだ。


彼は動き出した。ライスを汁に投下したのだ。

よくかき混ぜ、お茶漬けのようになったところで、丼を両手で掴み、喉に一気に流し込む。


ゴク、ゴク、ゴク。


「プッハァ〜、ふぅ」


全て飲み干した彼の表情は、満足感と幸福感で恍惚となっているのがよく現れていた。

その両頰は弛緩し、だらしのない笑顔になっている。


丼をカウンターに残し、代金を置いて彼は暖簾をくぐる。


「ごちそうさま。」


その言葉は静かに、だが確かに店内に響いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


駅の改札前に戻ると彼は唐突に不機嫌な顔をした。


(そういえば、今日部活あったな。今から戻るか?いや、時間がかかるからやめておこう。第一この満腹感ではおそらく寝てしまう。

仮病で休んでしまおう。部活だから単位は関係ないしな。)


彼は携帯を取り出した。

同学年の人間のほとんどがスマートフォンを使う中、彼は絶滅危惧種のガラケーを使っていた。

そして電話をかけた。


仮病で休むという言い訳の電話を。

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