6.呪われた少年と不穏な気配 ♠︎
説明回になります。
「えっと、その……」
僕はハルカの胸の辺りにできた、ベトベトな大きなシミを見て、膝を折り、背中を丸めて、地面に頭を付けた。
「ごめんなさい」
有り体に言えば、土下座である。
「い、いや、大丈夫だよ。この服、そんなに高い物じゃないし」
そう言っても、自分の服を摘んで残念そうに溜息吐いていては説得力など皆無だった。罪悪感が未だに僕の身体を支配しており、もう一度頭を下げる。
「……本当に、ごめん」
「も、もういいよー」
それでも謝りたい気持ちは拭えない。結局、そんな押し問答をしばらく二人で繰り返すこととなった。
閑話休題。
「でさ、聞きたいことがあるんだけど」
僕とハルカは手頃な木のの幹に背中を預け、お互いなんとなく沈黙していた時、ハルカはそう切り出した。僕は、下に向けていた顔を僅かに上げた。
「……何?」
「主に君のことなんだけどね」
ハルカは言葉を続けた。
「えっと、さっきなんであんなに痛そうにしてたのかな~なんて……思ってたり…………」
彼女は途中で僕の顔をちらっと見ると、彼女の口調が、なぜか自信なさそうに、あるいは気まずそうに、花が萎んでいくような感じに変化していった。
そこで、僕自身の気が立っていたことに気付き、慌てて彼女に微笑みかけた。
「ああ、うん、その…………」
が、それは完全に手遅れであり、僕も少し言いづらくなった。そして、先程の質問に少し悩む。言うべきか、言わざるべきか。
できることなら言わないでそのまま別れたい。が――
「……実は、僕には呪いがかかってるんだ」
やっぱり言うことにした。なぜだかは、自分でもまだ分からない。
「呪い?」
「あー、なんというか……」
話しながらもなんとか頭の中を整理して、新たに言葉を紡ぐ。
「全容はよく分からないんだけどね。まずは、この目」
自分の目を指差す。
「目? もしかして、元々はそんな猫みたいな目じゃなかったの?」
「うん。呪いにかかってたって気付いた時にはこんな感じになってた」
ハルカは、「なるほど、だから、さっきの女の人は……」と呟き、しばらく思案に耽っていた。
「後は、持つ武器によって身体が最適化されること」
「……?」
ハルカは意味が分からないとでも言いたげに、コトンと首を傾げた。
「うーん、上手く説明できないけど、なんか身体が作り変えられる感じ?」
そこまで言うと、僕はそれを証明すべく右手を前に出し、そのまま左手の指輪に微弱な魔力を流した。そして、右手の中に質素で装飾の無い、一本の長剣を出現させた。
「……え?」
ハルカは驚いた様な声を出していたが、まずは構わず説明を続けた。
「例えば長剣を持つと、肩からこの辺までの筋肉が急激に強化される感じがして……」
時折武器を持ち替えたりして続けたが、ハルカは依然反応を示さず、ただぼーっとしていた。
「それで……」
「ちょ、ちょっと待って!」
ハルカが両手を前に出しながら、僕の話を遮った。
「どうした?」
「さっきの剣! 後、今持ってる槍! どこから出したの?」
「どこからって……ああ、そういえばこれをまだ説明してなかった」
指輪の中心の不思議な光を放つ石を撫でながら、徐に口を開く。
「戦いの師匠から貰ったんだ。魔力を少しだけ送ってやると、物を仕舞ったり、取り出したりできる。結構、沢山入るよ」
そう言いながら、手の中の物を槍から、先程の剣、そして、いつか拾った綺麗な石へと変化させる。
「まあ、食べ物他、入れられない物はあるけど」
「へえー、凄いね」
ハルカは感動した様な目つきで、僕の指輪をジロジロと眺め続けた。なんだか、変な気分だ。
そして、ここまで言ったところで、あることをはたと気付き、後悔した。
――なぜ、出会ったばかりの彼女にここまで話してしまったのだろう。彼女は、何も関係ない筈なのに。
そう自分の行動を否定すると、なぜか心の中に風が通っている様な、虚しい感覚になる。どうしてだろう。やっぱり分からない。
「タマ?」
「……え? あ、ごめん。なんでもない」
慌てて意識を取り戻し、軽く笑って応えた。確かに彼女は関係ないけど、もうここまで言ったのなら、変わらないだろう。呪いのことを、最後まで言ってしまうことにする。
「最後に……」
その時、どこからか、どこか酸っぱい、鼻を刺すような汗の臭いが漂ってきた。同時に、沢山の人間の声や、不規則な足音が聞こえてくる。
嫌な予感がする。即座に左を見る。
「ぉお⁉︎ 親分、こんなトコにガキとオンナが居やすぜ」
そこにいたのは、十人程の盗賊達だった。
最近、更新が安定しなくてすみません。
タグの使い方がよく分かりません。
11/8 改行を多用しました。細かい表現を修正しました。