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猫目の狂奏者《バーサーカー》  作者: 来海 珊瑚
第一章 階調のアイリス
6/16

5.望まぬ帰郷と夕暮れの記憶 ♠︎

軽いグロ表現注意。また、途中で雰囲気が結構変わります。

「着いたよ」


 紅くなりかけている空の下、僕は木の板が組まれただけの粗末な門を指差しながら、ハルカにそう案内した。その門の上には、これまたみすぼらしい布に描かれた、恐らくアイリスの花々を主題にしたであろう模様の旗が、風に吹かれて揺れていた。門番はいない。


 ちなみに村の人達には見つかりたくないので、僕らはまだ門からかなり遠いところにいる。


「ふーん、あれ? なんで村の周りに柵が囲ってあるの?」

「この辺には、魔物や凶暴な動物がいるから」

「魔物⁉︎ この世界って魔物もいるの⁉︎」


 ハルカの世界では魔物もいないのか。逆に、そんな世界を見てみたいと思った。


「あ、でも、魔物を侵入させないようにするんだったら、あの柵はちょっと雑じゃない? 実際、あのスライムみたいなものが現在進行形で入って行ってるし」


 とハルカは、これも柵と言うには微妙な作りな木製のそれを指差した。直後、村の方からきゃああ! といった悲鳴が聞こえてきた。

 僕はこれでも元々は村長の息子だったので、村の経済事情はある程度知っている。が、あまり素直に言うと少し情けない気分になるので、どの様に言うべきか少し迷った。そして何とか発した言葉は、


「あー、えと……貧しいんだよ。きっと」


 ほとんど表現が和らげられていないものだった。


「ぷっ! ……結構はっきり言うね」


 確かに失言だったが、それでも君には言われたくない。


「……まあ、あのスライム? 僕らは『青ゼリア』って呼んでるんだけど、あいつは身体的にはほとんど無害みたいなものだから、大丈夫だよ」

「へぇ」


 彼女はそう呟きながら、現在、青ぜリアに服を溶かされて恥ずかしそうにしている人を遠目で見ていた。

 とりあえず言うべきことを言うべく、なぜか遠くに起きている出来事を詳細に見るべく躍起になっている彼女をこちらに振り向かせる。


「今夜のことなんだけど、門をくぐって大通りをしばらく真っ直ぐ行くと左の方に宿屋があると思うから、ハルカはそこに泊まってって」

「うん、分かった。あれ、タマは?」

「僕は……」


 その問いに、どう答えるか困り、少しだけ言い淀んでしまった。


「……少し用事があるから」


 本当は僕だけどこかに隠れて野宿するつもりなんだけど。声には出さず、心の中でこっそりと呟いた。


「ふーん……」


 何かを察しているのか、あまり深く考えていないのか、それとも、興味が無いのか――ハルカの気の無い返事に、僕は少しだけ心を抉られたかの様な、変な気持ちになった。


「じゃあ、私もその用事に付き合うよ」

「ふぇ?」


 が、予想外と言うか、考えていた答えと百八十度違った返事をされて、一瞬惚けた。そして、少しだけ焦る。


「べ、別にいらないよ。そんな……」

「用事の内容は知らないけど、一人よりも二人でやった方が早く済むでしょ? 大丈夫。これでも器用な方だから」

「いや、そういうことじゃなくて」


 どうにかしてハルカを宿に行かせようと頭の中で言い訳を構築する。ハルカとしばらくわーきゃーしていると、不意に、後ろからとても懐かしくて、聞きたくなかった(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)声が聞こえてきた。


「――――イム……?」


 一気に背筋が凍りつく感触がした。その声は、幼い頃から聞き慣れた、中年女性のものだった。


「……え?」


 ハルカが不思議そうに、僕の後ろの人物を見た。


「もしかして、お前は……」


 すぐにハルカの手を取り、近くの雑木林の中へ素早く駆け込む。


「ま、待ちなさい!」


 その声を無視し、とにかくあいつから少しでも離れようと暗い雑木林の間を駆け抜けた。さっきの女性と、自分の浅はかさを深く呪いながら。


 ――――――――。


 後ろから何かが追いかけてきているような気配がする。やばい、早く逃げないと……今度こそ――


「はあ、はあ!」


 ほんの少ししか走っていないのに、心臓が激しく打つ。

 心臓が痛い。お腹が痛い。眩暈がする。でも、早く逃げないと。


「きゃっ……!」

「うわっ……!」


 うっかりハルカの手を滑らせて離してしまい、足がもつれて共に転んだ。


「ぐふっ!」


 ハルカは何とか無事だった様だが、僕はそのまま地面を腹と右腕で滑った。同時に、右手の掌に擦り傷ができる。

 普通の人だったら全く大したことの無い軽傷。でも、呪われた(ヽヽヽヽ)僕にとってはそうでは無い。


「ぎ……ああ……ぁぁあああ――――‼︎」


 その場で激しくのたうち回った。その所為で更に自分の身体を傷付けることになるのだが、全く気に留められなかった。


「痛い、痛い、痛い……イダイ…………!」


 焼ける様な痛みなんてまだぬるい。千切れる様な痛みなんてまだ優しい。絶望を絶望で塗り潰し、一生取れることが無いのではないかという不安すらも感じられ無い様な、そんな痛み。意識が段々遠のいていく。


 一瞬、ほんの一瞬だけ、白い光に包まれた走馬灯が見えた。

 が、見えたのは、小さい頃に別の町で遊んだ幼馴染の姿と、ハルカが池に落ちた瞬間だけだった。

 全く中身が無くて、価値も無い人生だったんだなと、改めて痛感した。せいぜいあるのは、どろどろに真っ赤な罪の記録だけ。一体、僕の人生はどこで間違えてしまったのだろう。


 意識を完全に手放しかけたその時、思い出したのは、あの事件の光景だった。

 アイリス村の中で最も大きいあぜ道の大通りで、無数の人達が横たわっていた。全員、例外なく身体をぼろぼろに引き裂かれていて、原型をほとんど留めていない。血だまり、と言うよりは血の泉が家や作物を赤黒い色に汚し、夕方であったこともあり、一面、目に痛い光景だった。誰がやったのか? 言うまでもなく、僕の掌についている赤黒いものが全てを物語っていた。

 やけに静かで、時折吹く風の音がとても騒がしく、なぜか寂しい。視線を下に向けると、僕と同じ三色の髪の毛を持った、僕の妹だった(ヽヽヽ)ものが辛うじて胴体と繋がっている頭をこちらに向けていて、光の無い目が僕を見ていて…………僕を……見て……


「タマ‼︎」


 気付いた時には上半身を起こされ、ハルカの豊満な胸の中に頭を押さえ込まれていた。一瞬混乱してしまい、脱出しようと暴れようとしてしまった。


「大丈夫、大丈夫だから……」


 ゆっくりと、優しい手つきで頭を撫でられた。


「怖いものは何も無いから。ほら、ね」


 そこで、僕はようやく、僕らを追いかけてくる存在などなかったことに気付いた。妄想。全部、僕の勝手な妄想だったのだ。

 段々、僕の身体から力が抜けてきた。


「あなたに何があったのかはよく知ら無いけど、でも、その……うまく言え無いけど、とにかく大丈夫だから。だから……だから、そんなに怯えないで!」


 僕の頭の上に、ぽたぽたと温い水が落ちてきた。どうしてか僕の目頭が熱くなり、鼻の奥が詰まるような、苦しいような変な感覚に襲われ――

 身体の痛みは、もう随分と引いてきていた。


「ぐすっ……うん……」


 そして、僕は意識を手放した。

 大丈夫。ハルカのおかげで、僕はまだ生きていられそうだ。

二日ぶりになってしまってすみません。(不定期をうたってはいますが、一応)リアルでの事情と、表現に悩んでしまったので……(言い訳)

11/8 改行を多用しました。細かい表現を修正しました。

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