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猫目の狂奏者《バーサーカー》  作者: 来海 珊瑚
第一章 階調のアイリス
13/16

12.赤色のミオソティス【前編】 ♠︎

今話は、前後編に分かれます。

「早く起きろ、兄ちゃん」


 僕が布団で気持ちよく寝ている最中、我が妹に枕を蹴り飛ばされ、強制的に意識を覚醒させられた。もちろん、支える物が無くなった頭はそのまま床に落下する。


「痛っ! 何するんだよ、リズ!」

「ふん、可愛い妹様が、情けねー兄貴をわざわざ起こしに来てやったんだ。ここは感謝するところだろ」

「……全く、相変わらず口の悪い」


 痛む後頭部をさすりながら、僕を叩き起こした我が妹――リズマリアに、恨みがましい視線を送った。


 彼女は口調こそこんな感じだが、本人が自慢するには十分な程度には確かに可愛らしい容姿をしている。短く切り揃えられた三毛の髪、一丈(約一・七メートル)も無い僕とどっこいどっこいの身長、僕と同じ(ヽヽヽヽ)、銀色の人間らしい大きな目、自慢では無いが、双子である僕にそっくりな顔立ちをしている。それでも、やはり確実に相違点は存在する。

 朝が弱い僕と、早起きな彼女。

 割とずぼらな僕と、意外と几帳面な彼女。

 大人しい僕と、顔が広く、活気のある彼女。

 ――ほんと、よく出来た妹だ。


「そんな事より、今日の午後はあたし達見張り当番の日だろ? 早くしねーと、怒られるぞ!」

「え……? あ、そうだった!」


 外を見てみて、もうすでに太陽が一番高く昇っている事に気付いた僕は思いっきり叫んだ。

 この村は、今まで交流していた人間族中心の村が五年前に盗賊らしき集団に滅ぼされてから、財政が苦しくなった。当然ながら、衛兵を雇うだけのお金の余裕が無い。しかし、いまだに闊歩している盗賊たちのこともある。なので、こうして村人全員を当番制で見張り番につけているわけだ。


「あわわ……急がないと」


 僕は壁にぶら下げている望遠鏡を手にとって、ついでに近くにある引き出しの中から愛用の指輪を取り出して、急いで家から飛び出した。


「あ、兄ちゃん! 弁当忘れてるぞ!」



「はあ、はあ、間に合った……」

「はあ、はあ、やばい、死にそう……」


 親父がここまで雷を落としに来る前に見張り台の元にたどり着けたことで安心した僕達は、揃って梯子に寄りかかり、肩で息した。ちなみに、昨晩の当番だった犬人族と猿人族の青年達は、眠そうな顔をしながらも呆れたような視線をこちらに向けていた。


「と、とりあえず、登ろう……」

「えー、無理……おんぶして」


 リズは壁にもたれてぐったりとしながらも、両手を広げてねだるように言った。


「えー……自分で登れるでしょ」

「いいじゃん、減るもんじゃねーし」

「僕の体力はガリガリ減るんだけど」


 そう文句を垂れるが、僕は甘いのか、結局は弁当と望遠鏡を腰にくくり、彼女を背におぶって登ることになった。


 ようやく登りきって床にへたり込んだその時、僕の後頭部の辺りから、なんだかむずがゆい感触がした。


「……リズ、何してるの?」

「やっぱ兄ちゃんって、いい匂いするよな。なんか嗅いでいて、落ち着く」

「……早く降りて」


 そう言いながらも、答えが返される前にさっさとリズを降ろす。彼女はぶーと抗議するが、僕はそれに取り合わないで、仰向けに姿勢を変えて深呼吸した。


「まあ、とりあえず望遠鏡貸して」

「あい」


 適当に返事しながら、僕は腰にくくりつけてあった望遠鏡を取って、彼女に手渡した。それに対し僕は、まだ食べていなかった朝食兼昼食を取るべく、持っていた巾着袋から弁当と水筒を取り出した。弁当の中身は――


「黒パンか……」

「文句言うなよ。こんな時間まで起きなかったお前が悪い」

「……はあ、まあ食べられるだけいいか」


 そう言って僕は、そのままかぶりつくという愚かな真似はせず、水筒の中のお茶で口の中を湿らせながら少しずつ食べた。


 食べ終わってから、そういえば日課の鍛錬ができていないことに気づき、仕方ないから暇つぶしも兼ねて、その場で腕立て、上体起こしを何百回と繰り返す。この台は六畳弱の広さはあるので、寝転がる分には全く問題ない。



「全く、兄ちゃんも飽きないな」


 二時間ほど経過した頃、見張りに集中していたリズがようやく僕の汗だらけな様子に気づいて、呆れたような声を出した。


「師匠が、毎日最低限鍛錬だけはしとけって言ってたからね」


僕はそう言ってから、こちらも呆れたような視線を送った。


「まあ、飽きないと言えば、リズも見張っている最中ずっと鼻歌歌ってたけどね」

「べ、別にいいだろ! それより、そろそろ変わってくれねーか? いい加減、疲れた」

「はいはい」


 リズが望遠鏡を投げてきたのでそれを受け取り、「よいしょ」と声を出しながら彼女が元いた位置まで移動した。

 それを何度か繰り返して、もう日が沈みかけてきた頃、


「あれ?」


 リズが突然、声を上げた。


「どうした?」

「兄ちゃん、あそこの方を見てくれ」


 望遠鏡を受け取り、彼女が指差した方向を見てみる。すると、


「……人がいるね」


 詳しい種族は分からないが、頭の上に耳が乗っていることから、亜人族であるのは確かだ。かなりぼろぼろな服を着ていて、あまり清潔そうに見えない。そんな彼が、こちらの村の様子を伺うように、姿勢を低くしながらじっと見ていた。時々近づいたり、サッと離れたりしている。


「……怪しい奴だな。一応報告しておくか?」

「そうだね。僕が報告しに行くから、リズはここでまってて」


 僕はそう言って、急いで梯子を降りていった、

【捕捉】

一丈は、日本では約三メートルの長さの事を指しますが、ここでは、中国古代の王朝である周で使われた単位を使わせていただきます。


今の舞台周辺には、

・ケモミミが付いた亜人達が住む村(アイリス村)

・私達の様な人間族が住む村(今は滅ぼされている)

・活気溢れる港町(第二章に登場予定)

があります。

ここは小さい島なので集落が少ないですが、海を越えればもっと沢山の国などが出てきます(予定)。一応、参考までにどうぞ。


12/20 表現を修正しました。

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