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猫目の狂奏者《バーサーカー》  作者: 来海 珊瑚
第一章 階調のアイリス
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9.『不協和音の鎮魂曲』と身体の違和感 ❤︎

 バキアも、周りの盗賊たちも、そして私も、突然の彼の登場に反応できなかった。


「て、テメェ……なぜ、ここに…………」

「さっきはよくもやってくれたな、赤羽根」


 そしてバキアの肩に優しく置かれているタマの手には、どこかどす黒いオーラが漂っていた。

「さっきのお返しだ」


 やがてタマがその手を放した時には、バキアの肩に、黒い、不思議な魔方陣のようなものが浮かんでいた。

「なにが…………っ!」


 バキアがはっとして周りを見回してみると、彼と盗賊達の周りに、いつの間に様々な形状の剣が、地上や空中に数えきれないほど散りばめられていた。よく見てみると、周りにばら撒かれた武器のほとんどが、先程盗賊たちが投げ捨てたものだった。一つ一つがかなり消耗している。

 更に、それらの武器の傍には、タマと全く同じ姿をした人たちが現れ、腕を組んで佇んでいた。


「分身だと⁉︎ ……クソ!」


 バキアは悪態をつきながらも、今までよりも少し小さめの白い石を手に取り、呪文を唱える。


「《風因子ウィンド・レベルⅡ・凝縮コンデンス発射ショット》ォォォ!」


 透明だけど中がゆらゆらと空気がうごめいている球状の弾が勢いよく飛ばされ、剣の一つに当たった。だが、キズはついたものの、まだ十分に殺傷力を有しているほどに形を保っている。


「クソ、足りねぇか……」

「喰らえ!」


 タマの分身たちは各々近くにあった剣を手に取り、彼らに向かって一斉に飛び出す。


「ぬうぅ! こうなったら……」


 それを見たバキアは、自分の部下達を一瞬見た後、咄嗟に今までで一番大きい石を取り出した。


「――《不協和音(レクイエム)(オブ)鎮魂曲(ディスカッション)》」

「《風因子ウィンド・レベルⅦ……エアウィップ》ゥゥゥ!」


 しかし、魔法の対象はタマではなかった。


「え? 親ぶ……ぎゃあああ!」


 なんとバキアは、自分の部下達ほぼ全員を風の力で己の元に連れ去り、自分の肉壁にした。

 当然、辺りに広がるのは阿鼻叫喚。地獄絵図にも引けをとらない程のグロテスクな光景を見て、私は――――


「うぷっ…………」


 先程心が弱ったからか、この世界に来てから感じてこなかった不快感が、津波のように私を襲ってきた。

 やがてタマの攻撃がやんだ頃には、真っ赤な海の中で立っている人は誰もいなかった。しかし、立てなくても動ける人が、たった一人だけいた。


「くっ……流石に、もう魔力がねェか…………」


 言わずもがな、バキアだった。ただ、意識が朦朧としているようだった。


「クソ……何でこの俺がァ、テメェみたいな亜人如きに…………」

「……………………」


 タマが虚ろな目で(ヽヽヽヽヽ)、バキアの元に近付いていった。


「こんなはずじゃなかったのに……テメェらの所為で、俺は、盗賊やる羽目になってェ…………」

「……………………」


 タマの右手に、盗賊達のとは違う、傷のついていない質素な剣が現れた。


「せめて今回は殺さずに生かしてやろうて思ってたのに、やっぱりこの亜人がァ、許さねェ……呪って――――」


 それ以上、バキアがしゃべることはなかった。

 少したってから、バキアの首を落としたタマが持っていた剣を落とし、そのまま地面に倒れた。


「タマ!」


 私は急いで彼の元に駆け寄る。彼の肩に手を置こうとした、その時、

 ぴちゃりと、なにやらぬめった液体が私の手のひらに付いた。一瞬何だか分からなかったが、直後に、その正体を理解する。理解してしまう。

 が、先程のような不快感は、一瞬たりとも襲ってこなかった。


 この時、私は自分の身体に違和感を覚えた。流石に私自身が壊れてしまうほどの精神的ショックには応えたけれども、それに満たないショックには、あまり気持ち悪くならなかった。

 そうだ、やはりおかしい。私は元々スプラッタが苦手で、ゾンビ映画も見ただけで吐き気を催すほどだったが、タマが死んだと思った時と、最後の余りにショッキングなシーン以外では動揺すらしていない。

 ――どうなっているのだろう?


 そこまで思考を巡らせていた時、私はあわててその考えをせき止めた。

 今大事なのは、タマの安否確認だ。タマの鼻の下に、そっと手を近づける。ゆっくりとだが、彼はしっかりと呼吸をしていた。

 それにひとまず安心し、さて、どうしようかと悩む。


 彼を寝かせるにはあの村の中に連れて行くのが最善なのだが、彼が村の中に入るのを嫌がっていたことが、少し気になる。何か嫌なことがあったのだろうか。

 そしてそこまで考えた時、この状況のそもそもの根本的な問題に気が付く。


「……帰り道が分からない」


 そういえばどこかで、森の中は方角の目印になる物が無いから、方向感覚が狂いやすいと聞いたことがある。このまま適当に歩いて行っても、元の場所にたどり着けるだろうか。


「……どうしよう」


 その時、後ろの方からガサゴソと言った、葉が擦れ合う音が聞こえてきた。思わず、身体全体に緊張感が走る。

 ――そういえば、この世界には魔物がいると言っていた。もしも魔物だったら、どうしよう。

 気休めとばかりにその辺にあった、ただの拳大の石を手に取り、音が聞こえる方を睨み付けた。

 そこから現れたのは――


「お、お前達は――――」


 腰の辺りに短剣をぶら下げた、先程会った中年女性だった。

累計10話突破したので、おこがましいとは思いますが、ネット小説大賞に参加しようと思います。

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