竪琴の美女、天に昇る。03
ロイヤル三世、治世暦、三年【AB-03】
《梟の森》
半月の夜…
鬱蒼と生い繁る梟の森。
そこは静寂が支配する世界。
狼や山猫の眼が暗闇の中で月明かりを受けて光る。
動物たちが、傷を癒そうと館がある湖に集まって来る。
中洲に荘厳と立つ格式のある館。
その 古い修道院の扉が開いた。
『老師様、まだ月が出ております。』
『もう、お発ちになるのですか…』
修道女は、身支度を終え馬車を納屋から出して来た、老師の背中に言葉を掛けた。
『シスター、もう、ここでの用事は済んだのじゃ…また機会があるならば、立ち寄る』
老師は湖の畔で竪琴を弾く美女と側に寄り添う少女アミの元へ歩み寄った。
(((ポロロ~ン ポロロ~ン♪♪♪)))
竪琴の音色に耳を澄ます老師とアミ。
『美しい音色じゃ~☆』
『うん♪』
美女は老師の姿に気付き、軽く会釈を交わした。
美女の弾く竪琴の音色に合わせて、アミが讚美の歌を唄う。
『美しき乙女、天より竪琴の音を奏で救いの道を開く♪ 加護聖と女神を伴い、主は来ませり~♪』
その歌声に、合わせるように、老師が手に持っていた杖を夜空の彼方に向けて翳した。
すると、一筋の光が天から降りてきて美女を包み込んだ。
『時が来たようじゃ』
老師がぽっりと呟いた。
茫然と竪琴を奏でる美女を見詰めるアミ。
その様子を二階の窓から伺うエスポアール。
竪琴の美女は光に導かれるように、天高く夜空に舞い上 り、やがて星の光と重なった。
老師は、アミの頭を優しく撫で、その後、別れの言葉を告げてから、馬に鞭を入れ馬車を走らせた。
老師を乗せた馬車は、梟の森に吸い込まれるように見えなくなった。
▲▲▲)))))
翌朝……
エスポアールは、修道女にアミの世話を願い出た。
桃源郷への道程は、山あり谷ありで険しく、とても少女の足では、辿り着けそうになかったからである。
修道女の横に立ち、彼女の服の袖口をつかんで、不安そうにエスポアールを見詰めるアミ。
『おにーちゃん、早く帰ってきてね!』
エスポアールは手を振り、アミを館に残して、桃源郷へ救世主を探す旅に出た。