時代の転換点~新世界秩序への躍動。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《桃源郷》
青々とした、草木が萌える初夏。
強い陽射しに、額の汗を拭きながら、桃源郷の一本道を進む親子。
取れたての果物が沢山、押し車の籠に積まれている。
押し車は、光の教会が見える下り坂に差し掛かった。
九歳になる少女、花が、喉の乾きを押さえきれず、果物を、ひとつ、パクリと頬張った。
その拍子に、籠に積んであった果物の山の一部が崩れ坂道を転がり出した。
((アァー!))
花は、慌てて、転がる果物を追いかける。
母の美空が、その姿を見て声を掛けた。
『ミニヨン!、走って、転ばないようにね~』
母の美空が、そう言っていた矢先に花は転んだ。
((アイタタタ…))
坂を下った所で膝を擦り剥いて座り込む花の横に金馬車が停まり美女が降りてきた。
『お嬢ちゃん、大丈夫?』
優しく、声を掛け花を抱き起こすアスピラスイオンの姿。
キョトンとした顔で彼女の顔に、見とれる花。
後から追い付いた母の美空が、アスピラスイオンに礼を言った。
『お姿からして、高貴な方とお見受けします。』
『娘に手を貸してくださり、ありがとうございます。』
アスピラスイオンが、美空に訊ねた。
『光の教会へ、ある、お人を、お連れしたのですが…この辺りと聞きました……ご存じありませんか?』
『わたしと、お母さんの、お家ー!』
隣で話しを聞いていた花が元気に答えた。
アスピラスイオンは、美空と花を、金馬車の後部へ案内し扉を開けた。
『あなたー!!』
そこには、傷つき、翼の片方を失った夫、天人が意識も、朦朧として横たわっていた。
『おとーさん!』
少女、花が父のミストラルに駆け寄った。
アスピラスイオンが、二人に話し掛けた。
『ご主人様の北風の天使は、戦いで酷く傷付いておられます。』
『早く、光の教会へお連れして、傷の手当てをなさってください。』
美空と花はアスピラスイオンの金馬車に乗り込んで光の教会へ急いだ。
光の教会の裏庭でピーチパイを手早く作る青年の希望。
車椅子の少年、翔が希望に語り掛ける。
『希望さんが桃源郷に来てから、もう三ヶ月、だいぶ上手になったね♪』
『お母さんと、花が今日は、たくさん、果物を収穫してくると言っていたよ。』
『早く帰って来ないかな~楽しみだな~♪』
(((ヒヒヒヒーーーーン)))
光の教会の門前に金馬車が停まり、慌てた様子で、扉を開ける母の美空の姿。
翔の車椅子を押して、希望が門前に急いだ。
美空が希望に声を掛ける。
『希望さん!、主人が、この中に、いますので、光の教会の中まで運んでくださらないかしら。』
希望は、金馬車の中で、横たわるミストラルを背中に乗せて、光の教会へ入った。
二階の寝室へとミストラルを運びベットへに横にならせた。
美空が、急ぎ傷に手当てを施し包帯をして涙ながらに、夫のミストラルに声を掛けた。
『あなた……お疲れになったでしょう。』
ベットに横たわる、ミストラルは、彼を囲む家族とアスピラスイオン、そして希望に、視線を向けて、微かな声で呟いた。
ミストラルの口が、わずかに動いた事に気が付いた美空が彼の口元に耳を寄せた。
『わたしは……もう、そう永くはない。』
『まもなく、天に召される』
彼は、そう言うと、翔と花、そして希望の手を取り呟いた。
『わたしの後を継ぐもの……万民を幸せ
へと導く光が、ここにある。』
彼は、アスピラスイオンに視線を移して、聖剣エメダリオンを持ってこさせた。
エメダリオンの剣をアスピラスイオンから受け取ったミストラルは、希望の手を取った。
最後の力を振り絞り、彼の目を見て、ゆっくりと、聖剣エメダリオンを手渡し語った。
『救世主と、女神を加護し、万民を救う希望の旗印となれ!』
彼は、そう言い残すと、眠るように、安らかな表情で天へと召された。
………………………………………………☆
時代は、新たな転換点へと入ってゆく。
ロゴス帝国と、エマール王国の衰退。
これに、取って変わろうと台頭するシャンソニア王国。
近隣の諸国に、皇帝の宣布を告げ、新たな首都を建てた。
都を交通の要衝でもあり、豊かな資源に恵まれた地、ロレンソへと遷都した。
国名も、サフラン妃の強い要望により、マナトリア大皇国と宣言した。
近隣の諸国は、保身の為に、我先にと、マナトリア大皇国に靡き、忠誠を誓った。
そんな中にあっても、独立心を失わない孤高の国も勃興した。
ゴルドバ山、またの名を暗黒山の麓に位置する郷。
真理郷。
反マナトリアの旗印。
真理郷に集結する君主や領主達。
其々(それぞれ)の野望、信念、理想を胸に新たな戦いへと動き出す。
テラ大陸のパワーバランスの行方を左右するのは、科学力か、それとも、神への全き信仰心なのか……
ドローン.ストライク 。
【fine】




