新しきロゴス帝王、ヘンリー戴冠。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《荒野、デリアサス》
荒野デリアサスを吹き荒ぶ風が、ゴウゴウと音を発てて砂埃を巻き上げ通りすぎる。
煌々(こうこう)とした月明かりに照らされ峡谷に聳え立つロゴスの塔。
紅の魔導師ルージュリアンの瞳から涙が零れ落ちる。
『このようなところで、我の夢は潰えるか……これも運命であろう。』
息絶え絶えの帝王ロゴスの声に耳を傾けるルージュリアン。
『あなた様が亡くなられた後、私はどうすればよいのか…』
『最後の、お言葉を頂きたい…』
ロゴスの頭を、膝の上に載せて俯く彼女。
その姿は、紅の魔導師としてではなく、一人の男、ロィヤを愛した女の影だった。
ロィヤは、帝王の証である被り物を外し彼女に手渡した。
青と赤の星が並び光を放つ天上の宝石.アルビレオ王冠を受けとるルージュリアン。
『もう、我の、後を継ぐ者がお前の後ろにおる……』
『父上様……母上様……』
少年の声に後ろを振り向くルージュリアン。
『ヘンリーが、お招きにより、参りました。』
ヘンリーは、父であるロィヤの元へ歩み寄り膝まづく。
『母より、王冠を受けよ……』
ルージュリアンはヘンリーを抱き寄せ頭に王冠を載せた。
『まだ、幼いお前が帝王の座に相応しい主となるまで、この母が導く』
強大な権勢を誇った帝王ロゴスこと、ロィヤ黒子爵。
妻ルージュリアンと嫡子ヘンリーに見守られながら、その生涯の幕を引いた。
ルージュリアンとヘンリーが息を引き取ったロィヤをロゴスの塔へ運び入れる。
『理想郷へ』
ルージュリアンの声にロゴスの塔が静かに動きだす。
『死の峡谷、この地へ再び戻る日』
『その日、お前が、この大陸における真の支配者となる時ぞ!』
母のルージュリアンを、見上げて頷く少年ヘンリー。
ヘンリーの視線は、遠くの地平線へ向けられていた。
地平線を 砂埃を上げて走る金の装飾が施された三頭立ての馬車。
手綱を捕るアスビラスィオンが、不安げに後ろに気を配る。
『かなり、傷を負っているようです。』
サフラン妃が、片方の翼を失ったミストラルの背中に優しく布を充てた。
ミストラルを気遣い、荒野の道を静かに走る金馬車を黒馬車が追い越して行く。
四角い黒馬車の窓から月読みの巫女が金馬車に乗るサフラン妃に視線を送り通り過ぎた。
金馬車は荒野の道を外れて、傍らにある岩壁へと姿を消した。
『洞窟?』
月読みの巫女が、ポッリと呟く。
シャーマンのラビが手綱を引き姉の巫女に伺いをたてた。
『姉上、馬頭を洞窟へ向けますか?』
『いゃ…このまま、月夜を楽しみながらシャンソニアの城門を目指そう。』
『今宵は、何やら胸騒ぎがしてなるぬ……』
金馬車と黒馬車は、其々(それぞれ)の運命を乗せて各々(おのおの)の道を進んで行った。
荒野デリアサスは、何事もなかったかのように静まり返っていた。




