デリアサス&王城の戦い。モンテニュー .落星. バロンの最後04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《荒野、デリアサス》
(((ドドーーン……ドドドーーン)))
峡谷に止まったロゴスの塔から、間断なく打ち出される遠距離ミサイルの嵐。
ポルト速射砲隊は、出鼻を挫かれた。
陣形が乱れ混乱するポルトの部隊。
落ち着きを失い動転するポルト隊長。
シャンソニアの王、ドンデンから出征に際し預かったエメダリオンの剣を翳す。
『う、撃て!!』
ババババババーーーー
キュンキユン------
薬莢が飛び散り、火焔の臭いが辺りを包み込む。
陸戦ドローン部隊……通称、紅蠍が赤い胴体をくねらせながら近付いて来る。
『この距離からでは、敵は岩影に隠れて捕捉できない!』
『もう少し、引き付けてから攻撃を!』
戦場に不馴れなポルトに、北風の天使ミストラルが空から援護の言葉を掛けた。
迫り来るドローン紅蠍に、正気を失っているポルト。
彼の耳にミストラルの声は届かなかった。
再び、エメダリオンの剣を翳すポルト隊長。
『撃て!、撃て!』
ババババババーーー
キュンキユン-----
ミストラルの親衛隊長ドンキー.ハートがポルトに近付き叫ぶ。
『指揮官殿、弾薬が切れるとの連絡が!』
ポルトは急ぎ、補給部隊への伝令を頼んだ。
走りに走った伝令兵士が、補強部隊のシャーマンに伝令を告げた。
『お坊さん!、早く、補給を!』
シャーマンが伝令兵士に語りかけた。
『ポルト指揮官殿は、前に出過ぎております。』
『隊を下げるようお伝えください……』
シャーマンは、穏やかな笑いで答えた。
補給部隊は、更に後方に下がった。
動く気配を見せないシャーマン補給部隊に苛立つポルト隊長。
視線を後方に移しながら叫ぶ。
『う、う、撃てーー!』
ババババババーーー
キュンキユン------
カチッカチッ---
『弾薬が切れました!』
『指揮官殿!』
伝令兵士が叫ぶ。
ポルト部隊は速射砲を、その場に残したまま、逃走を始めた。
(((ドドドーーン……ドドドーーン)))
ロゴスの塔から、撃ち放たれたミサイルが容赦なくポルト部隊を粉砕する。
ポルトはエメダリオンの剣を放り投げて叫ぶ。
『て、て、撤退せよーー!!』
塔の上から、この様子を伺う紅の魔導師ルージュリアン。
右手を横に振り、ミサイル砲撃を止めた。
岩影で見え隠れしていたドローン紅蠍
の一団が、ポルト部隊に追撃を開始した。
ポルト部隊の壊滅を防ごうと、巨人モンテニューと彼の迫兵士隊がドローン紅蠍の前を遮る。
強者揃いの迫兵士隊とモンテニューは紅蠍の一団へ突撃を敢行した。
(((ガガガガーーン)))
『鉄屑どもめー!!』
『面倒だ、お前たち、束になって、かかってこい!!』
モンテニューの怪力が、ドローン紅蠍を粉々に砕く。
荒野の入り口、峡谷で止まっているロゴスの塔。
不気味な笑いを浮かべ塔の上に立つ紅の魔導師。
彼女を睨み付けるモンテニューが叫ぶ。
『ルージュリアン、そこで待っていろ!』
『今から俺様がお前を地獄に連れて行ってやる!』
高笑いをする紅の魔導師ルージュリアン。
『さて……地獄を見るのはどちらかな?』
撤退を始めるドローン紅蠍。
『逃がさんぞーー!!』
空の上から、この様子を伺うミストラル。
ポルト隊長が投げ捨てたエメダリオンの剣を拾うミストラルの親衛隊長、ドンキー.ハート。
彼は近くに舞い降りたミストラルへ剣を手渡した。
『指揮をお取りください!』
『光の聖剣、エメダリオン…この世に存在する至高の剣のひとつ』
『これがあれば、ロゴスに勝てるかやもしれん……』
『真の持ち主が現れるまで、私が預かることにしょう。』
親衛隊長のドンキーがミストラルに訊ねた。
『その、真の持ち主というお方は、どこにおられるのですか?』
ミストラルは、ドンキーを見て答えた。
『今はまだ姿を現していない。』
『時期が来れば自ずと分かるであろう……』
『幸い、魔剣サザンクロスは今、エマール国王様の手元にある。』
『闇と光の剣、決して矛を交えてはならぬもの…』
親衛隊長ドンキーが小声で呟いた。
『 聞いたことがあります。二つの剣、サザンクロスとエメダリオンが交わるなら空となると……この世の終わりだとか。』
『わしには何の事やら、サッパリ分かりませんが……』
北風の天使ミストラルは、エメダリオンの剣を帯び、再び中天に舞い上がりロゴスの塔を目指した。
大きく翼を拡げた、北風の天使が巻き起こす天性の技が光る。
《《《ビユユユユーーーーーー》》》
敗走するドローン紅蠍の背後の上空から、凄まじい強風を吹かせる ミストラル。
紅蠍は強い風に煽られ岩にぶっかり砕け散る
またあるものは、立ち上る竜巻に吸い込まれて、互いにに衝突し鉄の欠片と化した。
手を挙げて、ミルトラルの援護に応える巨人モンテニュー
彼の顔に勝利を確信した笑顔が覗く。
空の上からこの光景を見たミストラルは余りにも、弱い紅蠍の戦いぶりに不安を覚え眉をひそめた。
撤退するドローン紅蠍の一団に、勢いに乗った巨人モンテニューが追撃を掛ける。
峡谷へと、逃げ込むドローン紅蠍。
《《《ドドドドドドド……》》》
その時、地中から巨大な紅蠍が現れた。
『見よ!、我らの科学力の粋を!!』
紅の魔導師が、大跳躍により召喚した、スコーピオン.ハーデスの異様な姿。
モンテニューは空中を旋回するミストラルに連携攻撃の合図を送る。
巨人モンテニューが高々と掲げる鉄槌、ゴッドハンマーが光を放つ。
ミストラルはモンテニューの背後から彼の両脇を掴み、ハーデススコーピオンの真上まで運ぶ。
鋏を構えモンテニューの行方を目で追うハーデススコーピオン。
『今だ!!』
ハーデススコーピオンの背中を取った、ミストラルがモンテニューを放した。
モンテニューのゴッドハンマーが激しくハーデススコーピオンの鋏を打ち砕く。
《《《ガガガガガガガーーーーン》》》
倒れ込むモンテニューの首に、もう一方のの鋏が食い付いた。
『しめた!』
『モンテニューよ!、地獄を見よ!!』
掌を叩く紅の魔導師。
モンテニューは、体を捩らせてゴッドハンマーをハーデススコーピオンの鋏に捩じ込んだ。
巨人モンテニューと、ハーデススコーピオンの力比べである。
徐々に間隔が開く大きな鋏。
『終わりだーー!!』
《《《ガガガガガガガーーーーン》》》
モンテニューの怪力がハーデススコーピオンの鋏を粉々に引き裂いた。
鋏を失い、戦意喪失したハーデススコーピオンが逃走を始めた。
『逃がさんぞーー!!、蠍の化け物!!』
勝利を確信した巨人モンテニューの凱歌の声。
ミストラルは、モンテニュー頭上を急旋回し叫んだ。
『罠だ!』
『モンテニュー!』
『下がれーー!!』
ハーデススコーピオンを、追って峡谷の入り口まで辿り着いたモンテニューが、その声に空を見上げた。
ドドドドドドドド……
ドドドドドドド……
その時、モンテニューの足下が大きく揺れ動き…………
陥没した。
大穴が口を開き、モンテニューを呑み込んでゆく。
『ウァアーーーーツ!!』
叫び声と、ともに、モンテニューの姿は漆黒の穴の中へ落ちて行った。
紅の魔導師ルージュリアンが中天を旋回するミストラルに視線を移し笑う。
彼女の背後から、姿を見せるロゴス帝王。
紅の魔導師がロゴスに声を掛けた。
『帝王様……最後の仕上げをなさいませ。』
帝王ロゴスは、ミストラルを睨み、その後、モンテニューが落ちて行った大きな穴を指差した。
『北風の天使よ!』
『我に、抗いし者の結末を見よ!』
帝王ロゴスが右手を高く翳した。
『ドローン.ストライク!!』
ロゴスの塔の頂上に据えられた、大龍の口から巨大な炎の玉が現れた。
巨大炎玉は炎の
尾を引きながら空高く昇り、再び下降を始めた。
その後、モンテニューが落ちた穴へ向かい、大音響ともに、爆発した。
《《《《ゴゴゴゴオオオーーーン》》》
眩い閃光と轟音が辺りを包み込んだ。
穴の中から煌めく、ひとつの、小さな星が飛び出した。
聖なる石が新たな主を求めて空へと吸い込まれて行った。
紅の魔導師がミストラルに叫ぶ。
『勝敗は決した!』
『北風の天使よ!』
『我らに降れ!!』
預言者ヨブが、高いロゴスの塔の上に立たされていた。
塔の淵に足を乗せられ、両手を後ろに縛られた姿。
預言者ヨブが叫ぶ。
『魔王、ロゴスよ!』
『救世主の裁きを受けよ!』
『救世主の聖なる剣、エメダリオンが、必ずや、汝の胸を貫かんーーー!!』
紅の 魔導師の合図と共に、預言者ヨブが塔の上から落とされた。
(((ウァアーーーーツ!!)))
叫び声と、ともに落ちてゆくヨブ。
塔の上から落ちてゆくヨブを、ミストラルは、空を急旋回し翼に勢いをつけ救い上げ地上へ降ろした。
『おお!北風の如し、天使よ!』
多国籍軍兵士の間からも驚きの声が上がる。
ミストラルは塔の上に立つ帝王ロゴスと、紅の魔導師を、見上げて叫んだ。
『捲土重来!!』
『再び、この地に戻り、受けし雪辱、必ず濯がん!』
その後、ミストラルと多国籍軍兵士、そして預者者ヨブの姿はデリアサスの戦場から姿を消していた。
デリアサスの戦いは一応の終結を向かえたように思われた。
しかし、この後に起きる出来事は、テラ大陸の行く末を大きく変えるものとなった。
歴史に刻まれた大きな転換点、ターニングポイントは、ミストラルの名を全土に轟かせることとなった。
………………………………………………………………☆
エマール王城
城の塔。
『カサブランカおねさーーーーん!!!!』
パピヨンは悲痛な声と共に、迫り来る紅蠍を塔の中へ、入れまじと塔門を閉めた。
塔門に、打撃を与え壊そうと紅蠍が頻りに門を叩く。
次第に、蝶番が打撃により緩んでゆく。
その時、なぜか、パタリと塔門を叩く音が消えた。
パピヨンは不審に思ったが、当面の危機は過ぎたと思い、ガリバーとリンメルが守る王室の間へと急いだ。
塔の外では、長いロープに爪の着いた金具を塔の窓、目掛けてバロンが投げた。
バロンはロープに捕まり、塔をよじ登り
、やがて窓の中へと入って行った。
紅蠍の姿はなく、城の庭は静まり返っていた。
城の門から港まで続く王冠の道をステップで小走りする少女。
踊り子ラバンの姿。
その後を跳び跳ねながら、次々と続く紅蠍の行列。
ラバンが放つ特別な高周波パルスに紅蠍はコントロールされ、もといた漁船へと戻ってゆく。
塔の上からバロンがラパンに着いて行く紅蠍を見て呟いた。
『魔導師が、言っていた伏兵とは、あの小娘だったか……』
『俺としたことが、足元を、すくわれた……』
『それにしても、使えねー蠍だぜ!』
塔の中に侵入していた帝国兵士の一団が下に見える広間で隻眼のガリバーと剣を交えていた。
かキーン
かキーン
スロープの階段を滑り台がわりにして、素早く広間へ降りたバロン。
『よお!ガリバー、久し振りだなー!』
そのバロンの声に、反対側の階段上にいたパピヨンが叫ぶ。
『クレマチス姫とカサブランカねーさんの命を返してーーー!!』
リンメルは王と妃、そして国母をかばい守りながら地下通路へ向かう。
ガリバーがパピヨンと国王を見て訊ねた。
『クレマチスが……どうした……』
………………………………
しばらくの、沈黙の後、バロンが口を開いた。
『おゃ?、お前、知らなかったのか……』
『クレマチスはロレンソの離宮の窓から身を投じて自殺した。』
その言葉にパピヨンがさけぶ。
『ちがう!』
『わたし、こいつの銀翼機が離宮に降りて行くのを見たよ!』
『そのあと、クレマチス姫は、窓から、こいつに海に落とされた!』
ガリバーは国王の方を向いて訊ねた。
『陛下!、後で話があると言ったのは、このこと……』
ロイヤル三世は、頷き答えた。
『すまなかった………クレマチスの姉、妃の手前もあり、またお前の心境も察して話すのが遅れたのだ。』
国王の隣で溢れる涙を拭くクレマチスの姉、フランソワ妃の姿。
その後、リンメルが王族を地下通路へと導いた。
パピヨンが階段上からバロンの銀の胸当てに向けて発砲した。
『クレマチス姫とカサブランカおねさんの仇!!』
バキューーーーーン
バキューーーーーン
バキューーーーーン
カチカチカチ……
バロンが階段上のパピヨンを見上げて笑う。
『おや?、天才砲術士も玉切れでは、役にたたないな!』
ガリバーの眼光が、怒りに満ちて燃え盛る。
『パピヨン!』
『こいつは、俺が殺る!!』
『クレマチスとカサブランカの弔いをさせてもらうぞーーー!!』
パピヨンが王室から、一振りの剣を、持ち出しガリバーに投げる。
『ガリバー!』
『受けとつてーー!!』
ガリバーはパピヨンが投げた剣を受け止めた。
『これはー!!』
『サザンクロス!!』
『失われたと聞いていたが……』
パピヨンが、叫ぶ。
『サザンだか、散々だか知らないけどー早くアイツをやっつけてーー!!』
ガリバーはサザンクロスの束に手を掛けた。
バロンは蒼剣とカサブランカから奪った蒼天の槍を持ち構えた。
バロンが先に足を踏み出し蒼剣をガリバー目掛けて振り下ろした。
ガリバーは、サザンクロスを抜き放ちこれを受け止めた。
《,《カキーーーーン》》
すかさず、バロンは蒼天の槍をガリバーの顔目掛けて突き出した。
《《ビユーーーーーツ》》
蒼天の槍は、ガリバーの片目を覆う眼帯をかすめてた。
ガリバーの額から血が流れ落ちる。
『流石は勇者の槍だー!『】
『手によくなじむぜ!』
流れ出る血に、視界を奪われ、よろめくガリバー。
『へへ……返り討ちにしてくる!』
『覚悟しろ!ガリバー!』
『天国とやらで、クレマチスと仲良く暮らすんだなー!』
バロンは蒼剣を投げ捨て蒼天の槍を構え留めの姿勢を取った。
その時、ガリバー体が徐々に宙に浮いて背中に黒い大きな翼が現れた。
ガリバーの容姿は、伝説上の闇騎士へと変化していった。
『こ、これは!』
『魔王、デ……デニモス!』
闇騎士が持つ魔剣サザンクロスの周りか漆黒の闇が現れた。
バロンは、後退りして、蒼天の槍を黒騎士、目掛けて投げた。
(《ビユーーーーーツ》》
黒騎士はサザンクロスを高く翳す。
蒼天の槍はサザンクロス周囲に広がる闇の中へと消えた。
慌てて投げ捨てた蒼剣を拾いに走るバロン。
闇の中から、ボンヤリとクレマチスとカサブランカの姿が浮かび上がる。
カサブランカの手には蒼天の槍が握られていた。
クレマチスの竪琴音色が王の広間に響く。
ポロロン
ボロロン
バロンは蒼剣の手前で体が凍りつく。
その背中に、カサブランカの蒼天の槍が翔ぶ。
《《ビユーーーーーツ》》
《『ぎゃーーーーーっ!!》》
投げられた蒼天の槍がバロンの背中から前に貫通して扉に突き刺さった。
バロンは扉に掴まり、そのまま息絶えた。
王国を苦しめた、双剣のバロンの最後であった。
黒騎士は、サザンクロスを鞘に収めた。
すると闇は静かに晴れて、また天窓から射す太陽の光が戻ってきた。
既に、黒騎士の姿はなく、ガリバーが一人佇ずんでいた。
ガリバーとパピヨン、そしてリンメルの強き勇者は帝国の攻城策を見事、退けた。
庭に出ると、国王と妃、そして国母、護衛のリンメルの四人がガリバーとパピヨンを待っていた。
ガリバーは魔剣サザンクロスを王に返した。
港に見える敵の漁船団は伏兵ドンキー.ハートの義賊船と、ラパン&メタボリック漁船に、散々追い立てられ水平線へと消えた。
王都エマールに、再び、静けさが戻った。
王城の庭の片隅に立て掛けられた蒼天の槍
ひとつの時代の終わりを告げていた。




