アスピラスィオン~竪琴の聖女。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
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美しいハープの音色。
流れるような旋律が、人々の心を癒し慰める。
頭には星が散りばめられたティアラ。
七色の虹を思わせる柔らかな衣が、オリゾン河から吹いてくる風に靡く。
透き通るような白い肌に、エメラルドの瞳。
ブロンドの長い髪が、月明かりに煌めく。
パレス広場の噴水に腰掛け、美しい竪琴の音色を奏でる彼女のもとへ
どこからともなく、ひとり、またひとりと、心の癒しを求めて人々が集まって来る。
竪琴の聖女を囲む人々の中に、踊り子ラパンと隻眼のガリバー、砲術士パピヨンそして白馬車の紳士
さらに長い髭を蓄えた老師の姿もあった。
『きれいな女の人……まるで天使様』
竪琴の聖女に見とれるラパンの背中に、声を掛ける一人の紳士。
『アスピラスィオン……竪琴の聖女だよ……お嬢ちゃん。』
『世の中が、争いに乱れ、人々の心が荒んだ時、天から使わされる聖女。』
一年に一度の、今日、大輪月の夜に、ここに居合わせる事ができた人々は幸せだね。』
踊り子ラパンは、後ろを振り向き、紳士に語り掛けた。
『白馬車の伯父様…』
紳士はラパンに訊ねた。
『ご両親と、一緒に来たのかな?』
ラパンは首を横に振り答えた。
『お父さんは、帝国との戦いに行って行方知れず…お母さんは体が弱くて、寝たきりなの』
紳士は、傍らにいる執事にラパンの世話を頼める人物がいないか訊ねた。
『陛下…それならば、よいお人がおります。』
『戦災で、店を焼かれ、飼っていた牛や豚も海賊に持っていかれた親父さんが途方に暮れて相談に来ました。』
『仕事も家族も……この戦争でなくしたと』
紳士は執事のその話しを聞いて、金貨の入った袋を、肉屋の親父に渡すよう彼に頼んだ。
『肉屋を廃業したのなら、漁船を一隻、やると、その親父さんに伝えてほしい。』
『オリゾン河は、魚が豊富に獲れるので船があれば、生活には困らないと思う。』
他人事ではない、この話をとなりで真剣に聞いていた砲術士のパピヨンと紳士の目が合った。
『砲術士さん。突然で本当に悪いのだが、この女の子を、肉屋の親父さんのところまで、連れて行ってくれないだろうか…』
紳士が執事に目配せをして、金貨の入った袋をパピヨンに手渡した。
砲術士のパピヨンは首を縦に振って答えた。
『お安い御用です!』
『よろしくね♪、お嬢ちゃん。』
パピヨンはラパンの手を取り、笑顔で挨拶を交わした。
踊り子ラパンは、紳士が誰なのか気付き彼の前に、かしずいた。
『踊り子ラパンが、国王陛下に、ご挨拶申し上げます。』
噴水を挟んで、反対側に立つ隻眼のガリバーが竪琴の聖女を見詰めて呟いた。
『よく、似ている……クレマチスに』
その様子を、離れたところから見て、頷く白髪の老師。
大輪月の夜に集い出会う、加護聖たちの煌き…………
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