花売り少女~踊り子.ラパン。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
王城からセント.ルミナス大聖堂、そしてパレス広場まで続く王都で一番の大通り。
またの呼び名を王冠の道
押し車に花束を、たくさん積んで歩くひとりの少女の姿。
彼女の名前は ラパン。
ピンクのスカーフに、花柄のワンピース、頭には赤い薔薇の飾りが着いた帽子を被っている。
『お花、買ってくださ~い。』
『お母さんが、病気で寝ています…』
『お薬を買うお金がありませ~ん。』
『お願いしま~す。』
服が薄汚れて、靴の先が破れた、みすぼらしい格好をしている彼女の声に立ち止まる人もなかった。
やがて雨も降りだし人影も、まばらになった。
傘もなく、ひとり、パレス広場の噴水前まで辿り着いた彼女。
僅かに残っていたお金で、花束を包むために買った紙も雨に濡れ、使い物にならなくなっていた。
冷たい雨に震え、しゃがみこみ小声で泣くラパン。
そこへ白馬車が停まり、執事を連れた一人の紳士が降りてきた。
彼女に傘を差し掛けなから、紳士が声を掛けた。
『その花束、ぜんぶ私がもらおう。』
柔らかな優しい気品のある紳士の笑顔に、ラパンの表情にも笑顔が戻った。
『伯父様~ありがとうございます♪』
紳士は執事に金貨が入った袋をラパンに手渡すよう促した。
『こんなに!』
ラパンは驚き、深々とお辞儀をした。
『これで、お母さんの、病気を治す薬を買ってきなさい。』
『その帰りに、肉と葡萄酒、それにパンも買っていくといい。』
『たくさん、お母さんに食べさせて、おやりなさい。』
そう言うと、紳士は傘をラパンに預け、白馬車へ花束を積んだ。
それから笑顔でラパンに手を振り、雨の街へと白馬車を走らせ姿を消した。
ラパンが金貨の入った袋を開けると、たくさんのお金に混ざって、七色に光る石 が入っていた。
ラパンは、七色に光る石を取り出して、雲間から見えてきた太陽に翳す。
すると、目映い光がラパンの体を包みこむ。
『お母さんが、絵本で話してくれた、七色に光る石だわ!』
『伯父様……あなたは、もしかして…』
ラパンは、嬉しさの余り、スキップをして、王冠の道を走った。
『ラパパン、ラパパン、ラパパン、オレー!』
お得意のタンゴのステップ。
近くにいた仔猫が足に、まとわりついて来る。
彼女が踏むステップの調子に合わせて仔猫が跳び跳ねる。
すると、みるみる、仔猫の数が増えてラパンの周りを囲んだ。
これを見ていた街の人々は、彼女のことを、踊り子.ラパンと呼ぶようになった。
ラパンは肉屋に寄って金貨を支払い、牛肉を受け取った。
肉屋の親父、メタボリックが驚き叫んだ。
『牛も増やして欲しいー!!』




