蒼き水龍~最後の勇姿。04
ロイヤル三世、治世暦、四年【AB-04】
《王都、エマール》
オリゾン河沿岸に停泊する王国艦隊。
エマール王国の鉄壁。
蒼き水龍の艦上へ、ひとりの男が通された。
同盟国、シャンソニアから来た、軍事顧問、ガロン将軍である。
艦隊指揮官、アランドール王子が出迎えに出た。
『ようこそ!ガロン殿。』
王子が握手を求めて右手を差し出した。
『指揮官殿、お初にお目に掛かります。』
『本日より、王子の副官を務めるよう国母ソフィア様より言い渡されたガロンでこざいます…』
ガロンは、王子と握手をせずに、自分の胸に手を充て挨拶を交わした。
困惑の表情を見せる王子を、よそにガロンが語りだした。
『ドローン帝国の、新造空母が近付いております。 今回は、前回の鴉とは比べ物にならないほど強力です。』
『わたくしに、妙案があります!』
『ここは、方円の陣形で、防御に徹するのが、宜しいかと…』
王子は、ガロンに訊ねた。
『まだ、何の連絡も入っておらず、レーダーに敵影も写っていない?』
『副官殿は、どこから、そのような情報を入手されたのか?』
『はい、どういうわけか、わたくしには 、それが分かるのです。』
『霊感とか言うものでしょう…』
ガロンの舌の根も乾かぬ内に、空襲の警報がなり、ドローン帝国の大きな空母が、エマール王都の空を侵犯した。
厳しい表情で、空母が侵犯した空の方を睨む王子。
次々と空母を出艦する、爆撃機 、通称【大鷹】の群れ。
王子が全艦隊に命を下した。
『全艦隊、三列陣形!』
蒼き水龍は、日頃の訓練の成果で、素早く隊列を変化させた。
横長に広がっていた大鷹の群れはひとつの塊となり、王国艦隊の頭上から爆撃を開始した。
(((((ドドドーーーン!!)))))
三列陣形を取った、艦隊の数隻の艦上にドローン爆弾が炸裂した。
炎上する艦船を見て、ガロンが呟いた。
『指揮官殿は、艦隊を沈めるおつもりか!』
アランドール王子は、落ち着いた声で、語った。
『守りにばかり、徹していたのでは、勝てる戦も負けるものだ。』
王子は艦隊の上を行き過ぎた大鷹の群れを確認した後、右手を高く翳して叫んだ。
『全艦! 三段砲撃! !』
『撃てーー!!』
《《《《《ドドドーーーン》》》》》
蒼き水龍と言わしめた、王国艦隊のお家芸。
通称、炎の矢が大鷹の群れを粉砕した。
炎に包まれる大鷹の塊。
オリゾン河へ火の玉となって墜ちて行った。
水龍の砲口は、空母へと向けられたが、既に撤退し、姿を消していた。
この勇姿に、多くの兵士、国民から歓喜の声が上がった。
『アランドール王子!万歳!』
『蒼き水龍に栄光あれー!!』
副官のガロンが戦勝のワインをアランドール王子へ手渡した。
『恐れ入りました。流石に蒼き水龍の申し子と呼ばれる方だけはあります。』
ガロンは、王子がワインを飲み干したことを確認して、その場を足早に立ち去った。
笑顔で笑うアランドール王子の周りを囲む兵士たち。
羨望の目で優れた指揮官を見ていた。
その時、王子がワイングラスを甲板に落とし、その場に倒れた。
その様子を見ていた副官のガロンが、急ぎ、医師のホーミンを王子の元へ呼び出した。
ホーミンは王子の脈を取り、目を見開いて、瞳孔を確認した。
その後、首を横にユックリと二回振って呟いた。
『勇者、アランドール王子は、崩御されました……』




