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天空聖戦 ドローン.ストライク  作者: シマリス
動乱の幕開け。
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解説~終結付録章(ファイナル.エピローグ)一話~十話。






《1話~10話》





〈本編〉





【ここまでの、ストーリーの要約。】




神像の丘で、不思議な老人に出会ったエスポアール。


老人から光輝く聖剣、エメダリオン渡され、万民を救う希望となる使命を託された。


折しも、エマール王国の王、ガリウスが崩御したことを切っ掛けに、世継ぎ争いで国が真っ二つに割れた最中であった。


本来ならば国王の座に着くべきは、第一王子、シャベリア.ロィアであったが


国母ソフィアの子ではないという、運命を背負っていたために


彼は、廃嫡子の憂き目を甘んじて受けねばならなかった。


業を煮やしたロィア王子こと、黒子爵は母である、月読みの巫女の助言を受け


暗黒山の麓に、自らの理想郷(アルカディア)を創ることを決意するのである。


理想郷(アルカディア)に拠点を設けた量子コンピューター中枢思考回路(ルージュリアン)


陸戦型式ドローン紅蠍(べにさそり)を量産し、王都エマールへの侵攻の足掛かりを狙う。


近隣の村々を次々に襲い支配範囲を拡大する。


しかし、小さな村落、真理郷(セオクラ)で想定外の反撃に合い撤退を余儀なくされた。


この敗戦を踏まえて、圧倒的な科学技術を誇る、ドローン帝国は、航空戦力による空からの侵攻作戦へと舵を切り反撃に出たのである。



エマール侵攻の妨げとなる真理郷(セオクラ)を、航空戦力で葬った紅の魔導師は、これを機に《真理の言葉》帝国を名乗った。



厳しい戦禍に見回れた、エマール王国の人々は、いっしか桃源郷に現れるといわれている、救世主へ救いを求めるようになった。


………………………………………………………………☆




ここでは、主な登場人物(キャラクター)と地名、そして様々な物や品について、ご紹介します。



ストーリの世界観や展開などの理解に、お役立 てください。






年齢は、ロイヤル三世、治世暦、元年の【AB-00】を基準としています。



BB=ビフォア-.ブロウ [治世前]


AB=アフター.ブロウ [治世後]




【主な登場人物】






謎の老人




性別[男] 年齢[不詳]



老師。





希望(エスポアール)



性別 [男] 年齢 [15]



(アミ)の兄。





(アミ)



希望(エスポアール)の妹。



性別 [女] 年齢 [10]





ヨブ



性別 [男] 年齢 [60]



希望(エスポアール)(アミ)の祖父。





パピヨン.ハート



性別[女] 年齢[15]



海賊のドンキー.ハートを祖父に持つ勝ち気な天然娘。



砲術学校を主席で卒業したスナイパー



大陸一の銃の使い手。





修道女 [梟の森にある修道院主]


性別 [女] 年齢 [42]




白いローブの美女[竪琴の天使]


性別 [女] 年齢[不詳]




エマール国王.ロイヤル三世


シャベリア.ブロウ[第2王子]


性別 [男] 年齢[25]




国母ソフィア [ロイヤル三世の母]


性別 [女] 年齢[48]




黒子爵 = シャベリア.ロィア[第1王子]

性別 [男] 年齢[28]




月読みの巫女 [黒子爵の母.]


性別 [女] 年齢[45]




フランソワ姫 [隣国シャンソニアの大使]


後、ロイヤル三世の妃。


性別 [女] 年齢[20]




マジョロダム[ロイヤル三世の側近]


性別 [男] 年齢[50]




ジューネ[フランソワ姫の侍女]


性別 [女] 年齢[18]




シャーマンのラビ[月読みの巫女の弟]


性別[男] [38]




ルージュリアン



性別[女] 年齢[[28]



[紅(くれない)の魔導師]


深緑の妖女(リーフテリア)の娘。


亡国マナトリア王朝の末裔。


ホーミン王の孫娘。


量子コンピューター中枢思考回路。


真理の言葉(ロゴス)の軍師。







(ミニヨン) [桃源郷の少女]


性別 [女] 年齢[ 5 ]




天人(ミストラル) [ミニヨンの父]


性別 [男] 年齢[30]


救世主として国民から慕われる。




美空(ゴスペリーナ) [ミニヨンの母]


性別 [女] 年齢[25]




(ブァン) [ミニヨンの兄]


性別 [男] 年齢[10]




カサブランカ



真理郷(セオクラ)の長。


性別[女] 年齢[28]


蒼天の(ストーム.スピア)の達人。


山の巨人、モンテニューの姉。


ローズ.リンメルと義姉妹の契りを結んだ。


姉貴分。




モンテニュー



性別[男] 年齢[25]


鉄槌の巨人。


怪力の持ち主。


カサブランカの弟。





ローズ.リンメル



性別[女] 年齢[26]


滅ぼされた山猫村(ローズリー)の村長。


疾風の山猫。


短剣の名手。


謀略に長けた策略家。


カサブランカと義姉妹の契りを結んだ。


妹分。







【主な地名】





神像の丘


ロイヤル二世により建造された始祖を祀る聖地。別名ガリウスの丘。

神像の足元には宝石板(クリスタル.タブレット)が納められていた。



王都エマール


テラ大陸の中央に位置する都。 各地から(ゴォールド)通貨を求めて人々が集まる中心地。



セント.ルミナス大聖堂


様々な祝祭、儀式が行われる場所。



パレス大通り


エマール王都のメインストリート。王城から大聖堂を抜けパレス広場まで続く目抜通り。




オリゾン河


テラ大陸の中央を流れる大河。 太陽神によりパラドスの箱が沈めらた聖なる河。


プランタン橋


オリゾン河に架かる唯一の大橋。



(ふくろう)の森


昼間でも暗い木々が鬱蒼と繁る森林。 王都エマールと桃源郷を隔てる大きな森。 魔物が住むと言われている。



癒しの湖


梟の森の中央、修道院が立つ場所。すべての生物の傷や難病を癒すと言われる奇跡の場所。



暗黒山


ゴルドバ山、未踏の地。黄泉の国への入り口とも呼ばれている。



真実の海


セオクラル海 、 ゴルドバ山の東北に位置する鏡のような凪ぎの海。風が吹いても波がたたない不思議な場所。




真理郷(セオクラ)


ゴルドバ山の(ふもと)の村落。




真理の言葉帝国(ロゴス.エンパィヤー)



量子頭脳を持つドローンが造り出した封建社会という理想郷(アルカディア) ゴルドバ山の麓に位置する国。




桃源郷


苦難に喘ぐ人々を救う救世主が現れると言われる約束の聖地。



聖桃木


聖地の象徴的存在。救世主降臨の場所。






【様々な物と品】





クリスタル.タブレット


聖板、 もしくは宝石板と呼ばれている。万民の救済を現す希望の象徴。



パラドスの箱


太陽神が愛の表明の証を得るために、反対者デニモスとの論争で使った箱。様々な災厄を地にもたらした半面、希望という光を万民に与えた。

オリゾン河、深くに沈められているという。




三足鴉(さんそくからす)


ドローン帝国の先鋒。コンドリア戦闘機。ドローンミサイルで街を破壊する。



国主の剣


サザンクロス。シャベリア王家に代々、

引き継がれる魔剣。


魔物を召喚し世を乱すとされ、始祖により封印を施された。


テラ大陸の元首の証でもある。




聖剣エメダリオン



光の象徴。


救世主の剣。


サザンクロスと交わると、この世を空に戻すと言われる至宝。





……☆ 本編を選択された方は、ここを閉じて次話へお進みください。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー














この先は、【終結付録章】です。










終結付録章(ファイナルエピローグ)





《第一話》





修道女(シスターブライト)が駆る馬車は(ふくろう)の森へ。〉





(((地震だぁーっ!!)))



アムール市街は帝国直接掩護機、通称、三足鴉(さんそくからす)からのドローンミサイルに依る空襲と


折からの天災が重なり混乱の坩堝(るつぼ)と化していた。


(アミ)!、僕の手を絶対に離しちゃ駄目だよー!』


希望(エスポアール)少年は幼い(アミ)の手を引き逃げ惑う人々の中を()うように走った。


焼け落ちる民家の屋根が二人の行く手を(はば)む。


泣き出し座り込む妹を抱き上げ希望(エスポアール)はオリゾン河に架かる(プランタン)橋を目指す。


『もう少しの辛抱(しんぼう)だよ!』』


『ホラ、見てごらん』


(プランタン)橋が見えてきたよ!』


『橋を渡ると、その先の森へ入り、それから桃源郷へ行けるよ。』


(アミ)の顔に、わずかながら笑みが戻った。



(((ヒヒヒヒヒーーーン)))



馬の手綱(たずな)を引き、荷馬車を止める修道女。


希望(エスポアール)(アミ)に、声を掛けてきた。


『さぁ、早くお乗りなさい!』


修道女の誘いに、二人は素早く荷台に乗り込んだ。


『僕と妹は、これから桃源郷へ避難するところです 。』


『修道女様は、どこへ向かわれるのですか?』


修道女は馬に(むち)を入れて馬車を走らせながら希望(エスポアール)に答えた。


(ふくろう)の森にある館へ向かいます。』


『親を戦災で亡くした子供達の世話をしています。』



荷馬車は、二人を乗せると継承の道と終結の道へと二つに別れて進んだ。



それは、観察者により行いを変える光の特性そのものだった。



多重世界(パラレルワールド)の扉が今まさに開かれた。



修道女と希望(エスポアール)が交わったことにより生じた特異点である。




……★☆




〈終結への道。〉





希望(エスポアール)の隣には少年が二人、そして(アミ)の隣には少女が一人座っている。


修道女は荷台が人で、いっぱいになったのを見て希望(エスポアール)を自分の横の座席へ呼んだ。


『修道女様、危ないところを助けて下さり、ありがとうございました。』


希望(エスポアール)は胸に手を当て感謝の礼を述べた。


『これも、太陽神のお導きです。』


修道女の笑顔は、輝きに満ちていて聖女の風格が漂っていた。


希望(エスポアール)は修道の胸に光るペンダントを見て訊ねた。


『輝きの聖女(シスターブライト)様……ですか?』


修道女は優しく微笑み返し、子供達へ配る人数分のパンを希望(エスポアール)に手渡した。


希望(エスポアール)は、荷台に座っている四人にパンを一個づつ手渡した。


パンを手渡す時に子供達は互いに握手をして挨拶を交わした。



柔らかな表情の、おとなしい少年……ムーンライト。



頭から、黒いローブを被り(うつむ)き加減に上目遣いで見ている暗い少年……ダークネス。



髪に鮮やかな花のカチューシャをして

微笑む少女……リシュール。



これから物語りの糸を紡ぐ、もの達の静かなる(うたげ)





…………☆☆





《第二話》





〈永遠の契りを結ぶパン。〉





輝きの聖女が走らせる荷馬車は、オリゾン河に架かる橋で最大の大きさを誇るの(プランタン)橋を渡り終えた。



彼女は、ここで馬車を一旦、停車して子供達に話し掛けた。



『皆さん、パンは手元に届きましたか。』


『パンを一口分、ちぎって、ここで食べて下さい。』


輝きの聖女は、子供達が、それぞれパンを口に運ぶのを確認すると再び馬車を走らせた。


『あなた方は、一つのパンで永遠の契りを結びました。』


『どれほど、互いに離れていようと、(えにし)の糸が固く結ばれました。』


『あなた方は、太陽神の下に集いし選ばれた魂となったのです。』


『サァ、共に祈りを捧げましょう。』


輝きの聖女に促されるままに、子供達は彼女の祈りに和した。


『万物の創造主、太陽神に、栄光と誉れと讚美が永遠(とこしえ)にありますように。』


『パロール』


その祈りが、終わると同時に、彼女のペンダントが目映く輝きを増した。


荷馬車は一瞬にして、その場から姿を消し再び現れたのは(ふくろう)の森、修道院の館の前だった。



………………………………………………………★



大跳躍(クオンタム.リープ)


……………………☆



『サァ、新しい、あなた方の家へ着きました。』


『彼女は子供達を荷馬車から降ろして修道院の中へと導いた。


正面の大きな鉄の扉が開き大広間へと

入った。


大広間を両側から挟むようにスロープ階段が二階へ伸びている。


二階の中央、大きさ壁には救世主、女神の宗教画が飾られていた。


ダークネス少年は、その絵画から目を反らし呟いた。


『俺は、救世主など信じない…本当に困った時、祈ったが救いはなかった!』


『あれ以来、俺は自分の力しか信じなくなった…』


輝きの聖女が、ダークネス少年の元へ近付き話し掛けた。


『あなたのローブの下から見える服の紋章…黒騎士様のご子息ですね……』


『…………………』


ダークネス少年はローブを深く被り黙りこんだ。


ローブの下から、(わず)かにのぞく、ダークネス少年の瞳は深い悲しみと怒りに満ちているようだった。


この様子を、隣で心配そうに見ているムーンライト少年と少女エクシェル。



((カッ、カッ、カッ))



長い白髪と白髭(しろひげ)を蓄えた老人が、スロープ階段を、杖を付きながら降りてくる。



『シスターよ。』


『この、小さな女の子じゃが……』


『わしに、預けてはくれぬかのう~』


老人は(アミ)のもとに近付き頭を優しく()でながら話した。


『この娘の目は、透き通る空のようじゃ……』


『わしの手元に置き、聖女として育て上げてみたい。』


輝きの聖女が、希望(エスポアール)(アミ)に視線を移した。


希望(エスポアール)は、妹の(アミ)の手を引いて自分の後ろへ隠した。


(アミ)を、どこへ連れて行く気ですか!』


輝きの聖女が、希望(エスポアール)に話し掛けた。


『どこへも、連れて行くわけではありません。』


『老師様と共に聖女となるための修養に入るということです。』


(アミ)の手が小刻みに震えているのを感じた希望(エスポアール)は老人に話し掛けた。


(アミ)は、僕の妹です!』


『もし、妹が少しでも嫌がるようなら直ぐに、この館を出ます!』


輝きの聖女は希望(エスポアール)の固い意思を感じとり直ぐに言葉を返した。


『分かりました。』


『あなたの言う通りにしましょう。』


『ところで、あなた方は確か、桃源郷へ向かうと言ってましたね。』


『あなた方の足では、かなりの日数が掛かりそうです。』


老人が話しに割って入った。


『わしも、丁度、桃源郷へ足を運ぶところじゃ』


『二人を、わしの馬車で桃源郷まで乗せて行ってやろう。』



老人は杖を付きながら階段を上がり振り向きながら笑みを浮かべ部屋へと入って行った。


輝きの聖女は花の髪飾りを少女エクシェルの頭に載せた。


『あなたは、風の匂いがします……いつか、あなたが私の助けになる時が来そうです。』


笑顔で顔を見合わせる輝きの聖女と少女エクシェル。


少年、ムーンライトは、庭に出て明るく光る月に見ていた。


修道院の近くにある癒しの泉に月が輝いている。


そこには四人の天使が月の周りを翔んでいる姿が写りこんでいた。


泉に映る月を見てムーンライト少年は呟いた。


『聖女の覚醒が近い……』





………………☆☆☆





《第三話》





(アミ)、老師と共に天へ昇る。〉





輝きの聖女が部屋から出て来て、旅立ちの身支 度を終えた老師に伺いを立てた。


『老師様、まだ月が出ております。』


『明け方までは、だいぶ時間が あります……もうしばらく、ゆっくりと滞在していかれては。』


彼女の言葉に手を上げて老人は答えた。


『いや、月が出ておる間に旅立たねばならんのじや』


『もう旅立たれますか。』


少女、(アミ)は輝きの聖女に付き 添われ老師の馬車へと乗り込ん だ。


馬車の後部座席に兄の希望(エスポアール)の姿がな いことに気付いた(アミ)は輝きの 聖女に訊ねた。


『聖女様…お兄ちゃんが、まだ乗ってい ません。』


輝きの聖女が(アミ)に優しく答えた。


『後からお兄さんは来ますので心配しな いで待っていてくれますか。』


(アミ )が、いっも肌身離さず 持っている竪琴に目を止め優し く笑顔で呟く老人。


『少年が来るまで、その竪琴の音を、わしに聞かせてもらえぬ かのう~』


(アミ)は竪琴の糸に指を掛け演奏 を始た。


少女とは思えぬ軽やか指使いで美 しい旋律を(かな)でる。


彼女は以前、母親がまだ健在だった頃、毎日、竪琴の稽古をしていた。


竪琴の音色が辺りに響き渡ると老師と(アミ)が乗る馬車の 周りに四人の天使が月夜の空から現れた。


天使は(アミ)の竪琴の音に合わせて讚美の歌を唄いだす。



『美しき乙女よ。』



『天より竪琴の 音を奏でよ』



『救いの道を開き星々と 女神を伴い主は来ませり。』


老師と(アミ)の乗る馬車は四人の 天使に囲まれて満月の中へと昇ってゆ く。


(アミ)の竪琴の音色に目を覚ました希望(エスポアール)は慌てて中庭に出る。


彼が見守る中、馬車は月明かりの中へと消え ていった。


言葉を無くし茫然(ぼうぜん)と立ち(すく)む彼。


成す(すべ)もなく月を見上げる涙する。


希望(エスポアール)が大きな声で叫んだ。



《《アミー!、帰ってこーい!!》》





……………………☆☆☆☆






《第四話》





〈忍び寄る戦禍〉






桃源郷(とうげんきょう)




桃源の丘から帰宅を急ぐ二人の小さな兄と妹。


車椅子に乗る兄を押して妹は、一息吐ける池のほとりまで来て止まった。


傍らを見ると、一人の少年が横たわっていた。


服は至るところ擦り切れており遠い道程を歩いてきた事が分かる。


梟の森から桃源郷まで歩いて来た希望(エスポアール)の姿だった。



『すみません…』


『もう、二日も何も食べていません……』


『何か食べ物があったら分けて頂けないですか……』



希望(エスポアール)は弱々しい声で二人に声を掛けた。


幼い少女は迷わず少年に駆けりバックの中からサンドイッチを取り出して少年に与えた。


サンドイッチを貪るように食べる希望(エスポアール)


少女は水筒を少年に渡しながら言った。


『あなたのお名前は?』


『どこから来たの?』


希望(エスポアール)はサンドイッチを食べ終わると水筒の水を、一気に飲み干し一息ついてから少女に答えた。



『ボクの名前は、希望(エスポアール)



『桃源郷に救世主がいると聞いてきました。


『ボクの住む都は帝国の襲撃を受けて人々は毎日、恐怖に震えています。』


『 たくさんの小さな子供たちが親を亡くして食べるものもなく路上で泣いています。』



少女は希望(エスポアール)を励ますように答えた。



『わたしも、救世主、さがしてあげるー!』


車椅子の兄が希望(エスポアール)に話し掛けた。


『ボクの父さんも帝国との戦いで、しばらく連絡がないんだ。』


『よかったら、家へ来てください。』


『都の様子を母に話してもらえないかな』


『わたしからもお願いします!』


ペコリと頭を下げる少女。


空 腹を満たした希望(エスポアール)は元気を取り戻し、車椅子の取っ手を手早く握り軽くうなずいた。


車椅子を力強く押す希望(エスポアール)の顔にも、わずかに笑顔が戻った。


少女は車椅子の前を軽やかに小走りして家までの道案内をした。


少女の首から下がるペンダントが夕暮れの光に照らされて(きら)めいている。



太陽と月、十二の星、中央に女神、その刻印の意味を悟る日は、まだ遥か遠くににあった。



時の糸車は今まさに、三人の運命を乗せて回り始めた。





…………………………☆☆☆☆☆





《第五話》





(ブァン)の受難と(ミニヨン)の奇跡。〉





少女、(ミニヨン)は家の方向を指差して嬉しそうに呟いた。


『見えてきた~あそこが、わたしと、お兄ちゃんのお家♪』


希望(エスポアール)(ミニヨン)

指差す方に視線を移した。。


『あれは、たしか光の教会だよね…』


『そうだよ♪ 』


『わたしと、お母さんと、お兄ちゃんのお家~』


(ミニヨン)は手を後ろに組み前屈み気味な姿勢でエスポに話した。


その時、交差する路地から3人の少年が躍り出た。



(ブァン)!』



『見っけたぞ!』



『お前の父親のせいで俺たちの父ちゃんは戦うはめになったんだ!』


『噂では誰一人、生きて帰れないて言ってたぞ!!』



『少年達は手に持っていた石を、車椅子の(ブァン)、目掛けて投げた。』


その中の一つが、翔の額に当たり血が(にじ)み出た。


希望(エスポアール)は、バンダナを頭から外して止血のために素早く(ブァン)の額に巻いた。



この有り様に(ミニヨン)が怒り叫んだ。



『あんたたち!』



『何するのよー!!』



『おにーちゃんを、いじめると、この、わたしが許さないから!!』



少年達は花()ミニヨンを見て腹を抱えて笑いだした。



『こんな、チビに何が出きる?』



少年達は再び石を取り、車椅子目掛けて投げ付けた。


花は首から下がるペンダントを握りしめて片手を高く(かざ)して叫んだ。



『悪魔のこども!』



『いなくなれー!』



(ミニヨン)の叫び声に呼応するように、少年達が投げた石は途中から方向を変え彼らに向かって引き返した。



『うぁーつ!』



『石が俺たちの方に向かってくる!』



少年達は慌てて蜘蛛の子を散らすよう逃げ去った。



『あのチビ、化け物だ!』



(ブァン)(ミニヨン)の方を見て呟いた。



『ありがとう。』


(ミニヨン)は優しくて強い女の子だ。』



『でも、あまり、不思議な力をみんなの前では使わないようにしょう。』



『うん、わかった! 』



『 もう、みんなの前では使わない~』



(ミニヨン)は心配そうに兄の額に手をあてて答えた。



『おにーちゃんは、(ミニヨン)が守るよ!』



(ブァン)希望(エスポアール)に視線を移した。



『今、見たことは、誰にも話さないでほしい…』



希望(エスポアール)は深く(うな)づいて答えた。


(ミニヨン)希望(エスポアール)を連れて来た事を母親に知らせるため先に光の教会へ入って行った。


希望(エスポアール)(ブァン)の立てない足を不敏に思い遠慮がちに、梟の森の修道院や癒しの泉に付いて話した。



『君のその足、歩けるように、なるかもしれないよ……』



『君も、この話し聞いたことがあるのでは……』



(ふくろう)の森に色んな傷や病を(いや)す泉があるんだ。』



『そこで輝きの聖女に祈りを捧げてもらうと、全ての傷や病は癒される。』



『君に、その気があるのなら、救世主を探した後、連れていってあげるよ。』



(ブァン)は笑みを浮かべた。



『ありがとう♪』



『今は、とりあえず教会へ入って都の様子を母に話して……』



『母の不安を少しでも取り除いてやりたいと思っているんだ…』



希望(エスポアール)は、ゆっくりと車椅子を押して教会の中へ入って行った。







……………………………………☆☆☆☆☆☆









《第六話》





希望(エスポアール)は、(ブァン)と共に再び梟の森へ赴く。〉






〈桃源郷〉






大陸で 唯一の非戦闘地域。聖域とされる場所。


ここ桃源郷は、桃の花が今は盛りとばかりに咲いている。


癒しの湖に写り込む、目映い太陽の光が反射して教会を明るく照していた。


礼拝堂にいる母親の元へ小走りに駆け寄る花。


花は朗報とばかりに美空に話し出した。


『お母さん、あそこにいる男の子が、街の様子を教えてくれるそうよ!』


『お父さんのことも、わかるかもしれないねー!』


笑顔満面の花に美空の顔も(ほころ)んだ。


希望(エスポアール)はペコリと頭を下げ美空(ゴスペリーナ)に挨拶をした。



『初めまして。』



希望(エスポアール)と言います。』



『実は、この村に救世主がいると聞いて訪ねてきました。』


『長い道程(みちのり)、とても苦労したのではありませんか……』


美空は笑顔で椅子をエスポにすすめた。


『よく、来てくださったわ♪ 』


『美味しい、お菓子とティーを、お出しますので、ゆっくりとお話しを聞かせてくたさいね。』


エスポは椅子に腰かけて、(おもむろ)に、王都の様子を三人に語りだした。


『街は今、ドローンミサイルという恐ろしい破壊兵器で攻撃されています。』


『帝国支配に反対する人々を容赦なく粛正(しゅくせい)しているのです。』


『なんの罪もない人々も巻き添えになり怪我をしたり(ひど)いことに命を落とす人々もいます。』


『ボクの家も破壊されました。』


『家族もバラバラになり行方知れずです。』



『それで救世主を探しに来たんだ!』


花が希望(エスポアール)の肩に優しく手を置いた。



その時、希望(エスポアール)の瞳から一筋の涙がこぼれ出た。


美空はハンカチを希望(エスポアール)に手渡し涙を拭くように促した。


しばらくの沈黙の後 ……


希望(エスポアール) は気を取り直し再び話し出した。



『こちらのご主人様のお名前をお聞かせください。』


『何かボクが知っている情報をお伝えできるかも知れません。』


美空はお菓子と紅茶を希望(エスポアール)にすすめて口を開いた。



『私の主人は天人(そらひと)という名前です。』


希望(エスポアール)さんは……ご存知かしら?』



『桃源の郷や周りのお付きの人からは北風の天使(ミストラル)と呼ばれています。』



希望(エスポアール)は、それを聞いて驚き美空に答えた。


七光星(ヘブン.ホーリネス)の、お一人ですね!』


『詳しいことは分かりませんが、王国民兵達が噂をしているところを耳にしました。』

『なんでも、高い塔の上から落ちてきた預言者ヨブを救い上げた天使がいると。』



美空は花を抱き寄せて顔を優しく撫でながら言った。



『あなたのお父様は神様のお使いなのよ……』



『おとーさん!』



『元気でよかった!』



花の無邪気な声が礼拝堂に響いた。


エスポは、この地に(おも)いた目的である救世主の存在が確かな情報か否かを美空に問い訊ねた。



『この村に救世主がおられると言う話しは本当ですか……』



美空は翔と花の方を(しばら)く見ると神に祈りを捧げてから 間を置いて話し出した。


(ブァン)が生まれる三日前、桃源の丘の空に光の玉が現れました。』


『まだ乙女だった私は好奇心から桃源の丘へ行き大桃木の下でまで駆けて行きました。』


『すると、そこへ空から光の玉が降りてきて私を包み込みました。』


『私は、そこで、(ブァン)(ミニヨン)の父親となる天人(ミストラル)と出会いました。



『私は神から祝福された子供達を授かると彼から聞かされました。』


『光の教会の祭壇に行きなさい、あなたの息子がいます。』


『そして、時を置き、やがて娘も授かるでしょう。』


『その子達は生まれながらにして世を救う宿命を授かっていると彼は言いました。』


『私は神から授かった子を確かめに教会へと戻りました。』


『これは神からの、お導きだと悟った私は礼拝堂へ入りました。』


『しばらくすると天の高きところから神の、お使いが現れました。』


その神の、お使いは長い杖を持ち、その先端には月の形をした大きな飾りが付いていました。


『 我は時を操りし者、三日を十年の時とせん。』



『乙女よ、恐れるな、汝は 神に祝福されし者』



『そう言い残すと、お使いは天高く 舞い昇り姿を消しました。』



『その後、(ブァン)が祭壇の上で産声を上げました。


『私が(ブァン)の父親と桃源の丘で過ごしたのは三日間』


『教会に帰った時には 、この桃源郷では十年の歳月が流れていました。』


『それでも私は、もとの乙女のままで、まったく歳を取っていませんでした。』


美空は、そう言い残すと飲み干されたティーカップを下げた。


希望(エスポアール)は梟の森の聖女が不思議な力で万病を治すことができると美空に告げた。


『美空のおば様、翔君の足を、その聖女様に治してもらえるかもしれませよ。』



美空は翔に語り掛けた。



希望(エスポアール)さんに、その聖女様の元へ連れて行ってもらいましょう。』


『この子の足が治せるものなら、是非お願いします。』


希望(エスポアール)は『わかりました』と美空の願いを快く受けた。


美空は、お礼に、その聖女様に何を差し上げたらよいか、希望(エスポアール)に訊ねた。



『お気づかいなく、とても親切な方なので礼など受けとられません。』


希望(エスポアール)が答えた。


美空は奥の部屋に行き銀貨30枚が入った袋を希望(エスポアール)に手渡した。



『これは、この子の足の治療ためにと貯めておいたものです。』



『 その聖女様に、お渡しください。』



希望(エスポアール)は袋を受け取り車椅子を押して光の教会を出た。



手を振り笑顔で見送る母親の美空。



心配そうに母親の袖口を掴んで離さない妹の花。



『おにーちゃん!花がついて行かなくていいの!』



翔は軽く手を振り笑顔で答えた。



『花は家でお母さんとお留守番してくれるかなー』



『心配ないから…直ぐに帰ってくるよ!』



翔と花、これが二人の兄妹とって永い別れの時になるとは今は知らずにいた。



車椅子を押す希望(エスポアール)の姿が桃源郷の一本道から見えなくなるまで美空と花は手を振り見送った………







……………………………………☆☆☆☆☆☆☆








《第七話》





〈聖女の館。光と闇の二つの顔を持つ特異点。〉






(ふくろう)の森。



修道女の館。



祭壇の間に集う四人。



聖所とは思えぬ 妖しげな炎が釜戸に立ち昇っている。



祭壇の前に立つ修道女の透き通ってはいるが、どことなく冷たい声が祭壇の間に響く。



『魔王と、その配下の者たちは天から落とされた。』



『魔王は反逆者(デニモス)と呼ばれ、その使いたちも、また炎の魔物(フラム)と呼ばれた。 』



『創造主に対する冒涜(ぼうとく)(すなわ)ち自らの滅びをもたらす。』



『魔王と呼ばれる者は、かって創造主と伴におり多くの光星の中でも、ひときわ、大きな力を与えられていた。』



『しかし、その者は創造主の愛より離反し反逆者となった。』



『その強大な力のゆえに高慢(こうまん)な思いを自らの内に宿し創造主に敵対する者となった。』



『愛の神、創造主よ、我が子をお見捨てにならず、ご慈悲をお与えください。』



修道女は、そう言うとパタンと光と闇の聖典を閉じた。



三人の信徒は一同に『パロール』と唱え祭壇に礼拝した。



身分を隠す忍従の黒子爵、後の帝王ロゴス(鳥)。



知恵と美しさを兼ね備える少女、後のフランソワ王妃(風)。



他次元よりの使者 、時を操りし者、後の白馬の騎士(月)。



それぞれの運命を今はまだ知るよしもない年若い青年と少女でしかなかった。



この館の主人もまた輝きの聖女シスターブライトと妖しげな修道女アルデウスという二つの光と闇の顔を持つ特異点であった。



…………★☆




(ふくろう)の森、癒しの湖、近く。〉




(ふくろう)の森に入るのは始めてだよ……』


『魔物が住んでいるから、入ってはいけないと、大人たちが昔、言ってた……』



翔は不安な胸中を言葉にして希望(エスポアール)に伝えた。


希望(エスポアール)はそんな翔の気持ちを察して努めて明るく笑いながら受け答えた。



『アハハ……そんなの迷信だよ!』



『ボクは森の中を何度も、行き来してる』



『輝きの聖女様の館以外は何もない静かな森だよ♪』



『その輝きの聖女様という、とても美しい女の方が万病を治してくださるんだよ。』



『ボク、やっと歩けるようになるんだね…♪』



翔の瞳は輝きに満ちていた。



森の畦道(あぜみち)を幾重にも超え大きな池の(ほとり)に出た。



『ほら!』


『翔君……湖の真ん中に辺りに浮き島のように見える館。』



『古いゴシック調の格式のある建物。』



『あそこが輝きの聖女様の住まいだよ。』



霧に霞む湖から……



《《ギーギー》》



楷を漕ぐ音が徐々に大きくなってくる。


翔と希望(エスポアール)が目を()らして見ていると手漕ぎの小舟が近づいてきた。



『どうぞ……この小舟へお乗りください。』



輝きの聖女(シスターブライト)の使いが小舟に立って手招きをした。



『ダークネス君… ありがとう。』



希望(エスポアール)は渡し場から車椅子の翔を小舟へ乗せた。



『ダークネス君……ボクたちが、ここに、いること、どうして、わかったの?』



希望(エスポアール)は不思議に思いダークネスに訊ねた。



『空間を操る術とだけ伝えておくよ……』



ダークネスはローブの下からポッリと呟いた。



ダークネスは館の船着き場のブイにロープを掛け小舟を降りた。



『 ここからは、この少女リシュールが案内するよ。』


船着き場の石の階段に白いローブを着た表情の柔らかな女の子が立っていた。


希望(エスポアール)は車椅子を小舟から降ろした。



『ようこそ!』



『ここからは私、リシュールが案内しますね。』


少女 リシュールが手に持っていた杖を一振りした。



すると希望(エスポアール)と翔の体が宙に浮き… 驚く間もなく、二人の体は疾風のように館の内部を飛んで行った。



幾つもの扉が自然に開かれ館の最上階に案内された。



『翔君……ビックリしたかな。』



エスポは翔を気遣うように呟いた。



黒薔薇の扉の前に立つ、少女リシュール。



彼女のハイテノール。



声が響く。



『輝きの聖女(シスターブライト) 様!』




『新しき信徒が礼拝に参りました。』







…………………………………………☆☆☆☆☆☆☆☆






《第八話》






〈落星~虐げられし苦難の始まり。〉






少女 リシュールは翔と車椅子を押す希望(エスポアール)黒薔薇(くろばら)の扉へ案内した。



すると天井まで届くほどの細長い扉が自然に開かれた。



少女リシュールは二人をエスコートして

祭壇の前で祈る輝きの聖女の前まで案内した。



祭壇の屋根は高くステンドグラス越しに光が差していた。



中央には十字架に円を重ね合わせたネストリアクロスが掲げられて いる。



傍らには不思議な青白い炎を放つ釜戸が不自然に備わっていた。



輝きの聖女は祈りを終えると希望(エスポアール)と翔の方を振り向き直り口を開いた。



『長い道程(みちのり)ご苦労されたことでしょう』


『あなた方が、ここへ来られたの太陽神の導きに違いありません。』



シスターは優しい笑みを浮かべ二人に語り掛けた。



その全身からオーラのような光があふれていた。



輝きの聖女のペンダントが太陽の光を受け煌めを放ち辺りを明るく照らしていた。



希望(エスポアール)が、ここへ来た目的である願い事を聖女に話した。



『輝きの聖女様!』



『この少年は生まれつき足が不自由です。』



『どうか、聖女様の霊力で、この少年が自分の足で歩けるようにして頂けないでしょうか』



希望(エスポアール)は翔の母親、美空から預かっている銀貨の入った袋をテーブルに置いた。



袋の面に光の教会の紋章が印されている事を確かめた輝きの聖女は(おもむ)ろに右手の甲を翔の前に差し出した。



『あなたが、ご自分の足で歩けるようにして差し上げましょう…』



『太陽神への信仰の証として私の手の甲に口付けなさい……』



祭壇の間に輝きの聖女の柔らかな声が響き渡った。



希望(エスポアール)は膝間付き翔に聖女の手を取り、その甲にキスをするよう促した。



『輝きの聖女様』



『ボクは光の教会の信徒です。』



翔は聖女の青い目を直視して話した。



『わかっています……』



『それゆえに、あなたは、ここへ呼ばれたのです。』



聖女が、そう言うと彼女の青い目が光を増し輝きだした。



傍らで少女リシュールが精霊術を唱える。



『ブルーアイビリーブ!』



少女リシュールの、ひときわ高い声が祭壇の間に響いた。



吸い込まれるように翔は聖女の手の甲にキスをした。



『太陽神の子どもよ!』



『立ちなさい!』



翔は促されるまま、その場に自分の足で立った。



生まれて初めて知る大地を踏み締める感覚。



翔の瞳から一筋の涙が流れた。



『 あなたは太陽神の恩恵を受けた選ばれし者となったのです。』



『 これにより、闇の力があなたを覆うため動き出すでしょう。』



輝きの聖女は、そう言うと背を向け祭壇の間へ歩いて言った。



『 すぺての事柄は極まると反転するのです。』



『満月が新月へと変わるように硬貨に表があり裏があるように。』



『悲しき運命、陽、極まれば、蔭となり、蔭、極まれば、陽となる。』



『この世のことわりなのです。』



そう言って懺悔の間に入る輝きの聖女(シスターブライト)





…………★☆





(しばら)く時が流れた。



再び懺悔の間から現れた彼女は全くの別人となっていた。



厳しい表情で翔に向き直り語りだす。




『お前は(フラム)!』



『洗礼名はドロップスター 』



『 落星と名乗るのだ!』



希望(エスポアール)は豹変した聖女に唖然として、その場に立ち竦んだ。



『輝きの聖女(シスターブライト)



『あなたは、いったい何者なのですか!』






………………………………………………☆☆☆☆☆☆☆☆☆







《第九話》





(ブァン)は理想郷(ドローンドローンの.CITY)へ連れ去られる。〉





聖女の館。



祭壇の間。



希望(エスポアール)の声が響く。




『輝きの聖女!』



『あなたは、いったい何者なのですか!』



希望(エスポアール)の問いに笑い顔を浮かべる漆黒の魔女アルデウス。



『我は、闇の間に立つ者!』



『すぺての境に存在する特異点!』



その時、突然グラグラと館全体が大きな揺れに襲われた。



ダークネスが祭壇の間に入ってきた。



『アルデウス!』



『 何者かにより、主水塔が壊された!』



『この館もやがて、水没する!』



『 湖の底に沈むのも時間の問題だ!』



アルデウスは(しばら)く考えを巡らし(おもむ)ろに命を下した。



『リシュールよ! 』



『何者の仕業か確かめてくるのだ!』



『ダークネス!』



『この落星(ドロップスター)を連れて

大鷹機(ゴルドバロン)に早々に乗り込むのだ!』



『このような時、ムーンライトは何をしておる!』



少女リシュールが舞い戻り魔女アルデウスの前に(かしこ)まった。



『アルデウス!』



『報告いたします。』



『館の何処にも、それらしき者は見当たりません…』



少女リシュールが呟いた。



『もしや…』



アルデウスは、少女リシュールが言葉を(にご)らせているのに気が付いた。



『どうした!』



『 何か言いたいのであろう!』




少女リシュールは顔を曇らせながら話し出した。



『わたしの思い違いなら良いのですが…』



『主水塔を壊したのはムーンライトでは…』



口許に手をやり声高に笑う魔女アルデウス。



『私の忠実な僕であるムーンライト』



『そのような事があるはずがない!』



少女リシュールは遠慮がちに語った。



『ムーンライトは気になることも言ってました…』



『あの少年は今、何の力も持たぬ者だと……』



『月の加護の下、星々に囲まれ、傍らに女神が寄り添う時にこそ、その偉大な力を発揮すると申しておりました。』



『確かに、その時、破邪顕聖はじゃけんせいつるぎ解き放たれると、光の聖典にもあります。』



(しばら)くの沈黙の後……



アルデウスが口を開いた。



『師の私を論破するまでに成長したか………リシュールよ!』



『この話は、ここまでだ!』



『水が迫っておる……』



大鷹機(ゴルドバロン)に乗り込むぞ!!』



少女リシュールが辺りを見回した。



『落星といた少年が見当りません……』



魔女アルデウスは大鷹(ゴルドバロン)の発進を急かした。




『よい! 』



『あの者の役目は終わった。』



『発進せよ!』



『理想郷(ドローンCITY)がお前たちの新たな旅立ちの出発点となる!』



魔女アルデウスと少女リシュール、少年ダークネス、そして落星となった(翔)を乗せた機体はは舘の中庭を飛び立ちドローンCITYへと向かった。



やがて魔女アルデウスの館は湖の中へと水没していった…



その様子を湖の畔の木陰から伺う青年ムーンライトと希望(エスポアール)



『ムーンライトさん、ありがとうございます! 』



『危ないところを助けてくださり感謝します。』




時を操りしムーンライトが時間の狭間に月の杖を(かざ)した。




時は、濁流の如くに流れを速め月の加護が女神テラへと動き出した。




……………………………………………………☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






《第十話》






〈ロゴスタワーへの来訪、(月よりの使者.魔女アルデウス~国王.ロイヤル三世。)







((ビシッ! ビシッ!))



強制労働のむちが、容赦なく放たれる。



監視ドローンが捕われ人を使うという究極に進歩した管理社会。



螺旋(らせん)状の石段が天を突かんとばかりに伸びて行く。



悪名高きロゴスエンパイヤ。



その頂上には空中庭園が備わっていた。



少年ダークネスは時間の狭間で自分の願望である帝王の座を我が物にしていた。



中庭に立ち遠くに視線を送る帝王ロゴス。


腹心であり、軍師でもある帝王の片腕的存在トリィタァー。



その容貌は(くれない)の女豹という言葉がピタリと当てはまる。



帝王ロゴスの前に(かしこ)まる女豹トリィタァー。



『ロゴス様……』



『間もなく月よりの使者、魔女アルデウスが、こちらへ到着いたします。』



低く荘厳(そうごん)な帝王の声が中庭に響く。



『王座で待っておる…』



そう言うと帝王ロゴスは霧の中に霞むように姿が見えなくなった。



トリィタァーは庭園の(ふち)からしたを見下ろした。



『北風の天使ミストラルと山の巨人モンテニューウか!』



『二つの光星が現れたか……』



黒煙吹きながら大鷹(ゴルドバロン)が塔のゲートをくぐり入ってきた。



一人の兵士が慌ただしくトリィタァーの元へ駆け寄る。



『報告いたします!』



『 救世主を名乗る者を帝王の間に引き出しました!』



トリィタァーの顔に含み笑いが浮かぶ。



『これで、月よりの使者、魔女アルデウスと、よい取引ができそうだ………』



荒野の道からロゴスエンパィヤーへ続く道。



御者付きの三頭立ての馬車がゆっくりと走る。



後部の座席に座る初老の紳士の傍らには神聖シャベリア家に継承されている魔剣サザンクロスが置かれていた。



馬車の窓から空を見上げる紳士。



その視線の先には赤い戦闘機カナリア号の姿があった。



紳士がポッリと呟いた。



『生きておったか……』



『隻眼の火の鳥、ガリバーよ!』



カナリア号はゲートをくぐりロゴスエンパィヤーへと入って行った。



御者が主人に声を掛けた。



『陛下……エンパィヤの正門は、攻め手のソルダ(民兵)たちで囲まれております。』



『やっかいはことに、全身から、青い光を放つ巨人が、何やら、塔に向かって、叫んでおります。』



紳士は馬車の小窓から前方の様子を伺った。



『その力、山の如し……巨人モンテニューウ、来ておったか。』



大跳躍(クオンタムリープ)せよ!』



主人の声に御者が答える。



『陛下、(かしこ)まりました。』



三頭立て馬車は眩い光を発してその場から姿を消した。



その様子を見ていた一人の民兵が呟いた。



『国王、ロイヤル三世、お出でになりましたか!』



一迅の北風が吹き民兵の姿は輝きを放っ白き天使となった。



翼持つ白き天使がエンパィヤタワー目掛けて舞い上がる。



民兵たちが口々に叫ぶ。



『北風の天使! ミストラル様だー!』





…………★☆





〈ロゴスエンパィヤー、帝王の間。〉






魔女アルデウスが王座に座る帝王ロゴスに叫ぶ。



『地上の王よ!』



『 空間を操りし力 授けしは誰ぞ!』



『よもや、忘れたとは、言わせぬぞ!』





帝王ロゴスが重々しく口を開いた。



『わかっておる ……今しばらく待て。』



『お前の、欲しい物は、これであろう…』



帝王ロゴスは右手を上げパラドスの箱を魔女アルデウスに見せた。



アルデウスは囚われの身となった落星、かって救世主と呼ばれた少年、翔を、王座の前に膝ま付かさた。



『王よ!』



『見よ……これが、そなたが(おそ)れていた救世主の成れの果てだ!』




『 護る星を持たず月の加護もなく傍らに立つ女神テラも未 だ姿を見せぬ!』




帝王 ロゴスは、少年(翔')を指差し、その後その指を聖木の燃える釜戸へと移した。


『この小さき魂が救世主である証拠を見せてもらう!』



『それが真実ならば聖なる業火に小さき魂をくべよ!』




『玉座に座りし救世主の姿、(しか)と見届けん!』



魔女アルデウスは侍従二人に翔を業火へ連れてゆくよう促した。



『王よ! 』



『よいのか……自らの手で救世主を覚醒させる事になるぞ!』



帝王 ロゴスは薄笑いを浮かべて呟いた。



『パラドスの箱だけを持って行かれたのでは我の命も危ない』



魔女アルデウスは右手を(かざ)して叫んだ。



落星となりし救世主を業火の中へくべよ!!』



魔女アルデウスの声が帝王の間に響く。



それを固唾(かたす)を呑んで見据える帝王ロゴス。



魔女アルデウスの侍従が翔を両脇から抱えて釜戸に前に立った。




(((待てー!!)))





まさに翔が釜戸へ放り込まれようとした瞬間、その手を制する声が王座の間に響いた。




帝王ロゴスと魔女アルデウスの視線の先には執事マジロダムを従え左手に魔剣サザンクロスを携えたロイヤル三世の姿があった。



『これは、国王様!』



『 ご壮健でいらしたかな。』




『帝王ロゴスよ!』




『そたなに国王などと呼ばれたくはない!』




『国民を苦しめ従兄弟を死に追いやり悪魔デモニスに魂を売ってまでこの国の王座を求めるか!』




『それは、あなた様が長子である私を差し置き王座に着かれた故にございます…』



ロイヤル三世は手に持っていた魔剣サザンクロスを侍従のマジロダムに手渡し帝王ロゴスの前にある円卓に置いた。




『ロゴスよ!』



『そなたが喉から手が出る程、欲しがっておった魔剣サザンクロスだ!』



『受けとれ!』





帝王ロゴスは魔剣サザンクロスを鞘から抜いて一振りし鞘に収めた。



『あなた様が、あれほど、手放すのを拒んでおられた魔剣を我に自ら届けて下さるとは、どのような、思惑(おもわく)をお持ちかな…』



『白々しい事を申すな! 』



『 その魔剣を手に入れたら、もう、この少年には、用はなかろう!』



『その魔剣と引き換えに、この小さき魂を連れて帰るが異存はないな!』



ロイヤル三世はマジロダムに命じ翔を釜戸の前から離し自らの横へ立たせた。



『ロゴスよ! この災いをもたらすこの女!』



『魔女アルデウスを早く月へ返すのだ!』



帝王ロゴスは含み笑いを浮かべてパラドスの箱を円卓の上に置い呟いた。




『救世主など始めから存在しないのだ。』



『弱者どもが、作り上げた苦し紛れの寓話に過ぎぬ……』



『国王、あなた様のお心のままに……』




帝王ロゴスは視線を魔女アルデウスへ移し側近に命じて円卓の上にあるパラドスの箱を運ばせた。




魔女アルデウスはロイヤル三世に一礼して言葉を述べた。




『流石は名君の呼び声高しロイヤル三世様』




『わたくしは、これさえ手に入れば、もう、この地上に用はありませぬ。』



『月へ戻ることにいたします。』



『ホホホホホ……』



高笑いの後、魔女アルデウスはパラドスの箱を手に抱えて帝王の間を出てゆく。



扉を(くぐ)る前に振り向き様、一言、帝王ロゴスへ呟いた。




『帝王ロゴスよ……』



『 お前の世も、そう永くは続くまい…』



ロイヤル三世は翔の背中をしく押して 帝王の間を出た。




出てゆくロイヤル国王の背中に帝王ロゴスが最後の言葉を掛けた。




『 このサザンクロスを抜き放ち、魔物達を召喚せし時こそ、我の願いが成就する時なり!!』




『 目を見開き、然り、ご覧あれ!!』




ロイヤル三世は馬車に翔を乗せ侍従のマジロダムに神像の丘を目指し急ぎ走るよう命じた。




『陛下、何故、お急ぎになるのでございますか?』




マジロダムは馬に鞭を入れながら国王に訊ねた。



『ロゴスエンパイヤの上空に黒雲が渦を巻いておる。』



『大きな嵐の前触れなのだ…』




国王は空を見上げながら呟いた。



エンパィヤータワーの頂上にある空中庭園で空を睨む帝王ロゴス。



そこへ腹心のトリィタァーが足早に近付き(かしこ)まった。



『帝王にご報告いたしますす!』




『捕えた奴隷の中にヨブと名乗る預言者おりました。』



(しき)りに最後の審判(ドローン.ストライク)は近いと叫んでおります!』




『この者が帝王ロゴス様がお探しの救世主ではないかと皆が申しております!』



帝王ロゴスはトリィタァーに視線を移し訊ねた。




『その者は、どこにおる……』






終結付録章(ファイナル.エピローグ)第二章は、本編第二章(解説~終結付録章へ)。








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