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物語『外』の王様

作者: 白米

「な、なんじゃと? ザナークよ、もう一度申してみよ」

「魔王が勇者の手によって倒されました、我がクラウ王国は危機を脱したのです」


 儂の名前はヨリトラ=フォルスラ=ディタード=クラウ。

 職業、キング。

 ガンド大陸の大半を統べるクラウ王国、それは豊富な資源と暮らしやすい環境で知れる人間の統べる国において最大規模の大国である。

 しかしながら、そんな我が国は危機に瀕していた。

 魔族軍率いる魔王国による人類へ対する侵略行為によって。

 魔界は文字通りの魔境と呼ぶに相応しき土地であり、目的は恐らく資源や土地……後は人間という名の腹が減ったら食事にも成り得る便利な労働力といった所だろう。

 魔界に住む者達は皆、人間視感で言えば異形にして畏怖の対象になり得る造形の容姿であり、魔界の環境に適応すべく造られた体は強靭で貧弱な人間の太刀打ちできるものではなかった。

 しかしだからといってむざむざ家畜に貶められるのを黙って見ていられるほど人間は温厚では無く各国の連携の元魔族軍を駆逐する為に皆立ち上がった。

 それが後に『同盟』と呼ばれる組織である。

 『同盟』という組織は、大まかに説明するのなら魔族軍の侵略に対し、対象となった国を『同盟』に加入する国全てで防衛に当たるというもので、それによって被害が減少した国もあるらしい。 

 ちなみに我がクラウ王国はその『同盟』に参加していない。

 我が国の民を見知らぬ土地の死地へ送り込んで殺すのは忍びなく、戦って死ぬにせよせめて自国を、家族を守る為に散らせてやりたいという国の親たる国王のエゴ故である。

 それによって受ける非難も罵倒も、全て儂が受け入れた。

 自国の民にとっての最善を、それが儂の王論である。

 戦力の増強を謀るのも王の役目だと言われてしまえば弱いのだが……。


「…………マジで?」

「大マジです」


 そしてそんな『同盟』に英雄と呼べる者達が現われた。

 勇者率いる四人のパーティである。

 勇者が魔王を倒す等と言うのはお伽話の産物だと思っていたのだが、現にソラス王国より産出された勇者達がたった四人で魔界に飛び込みそして魔王を打倒したというのだ。

 どうやって知ったのかは分からないが魔王が倒された瞬間から魔族軍は次々に撤退し、人の国は侵略の危機より脱したのである。

 魔族軍の侵略開始から二ヵ月で世界の五割近い国が魔族軍との衝突で損害を受けた、豊かな我がクラウ王国が魔族軍の侵略を受けるのも時間の問題だった。……筈だ。


「え……じゃあ軍備増強で膨れ上がった兵士達と、二世代は飛び越えた感じに出来てしまった兵器は……」

「全くの骨折り損、ですな」

「嘘じゃろ……献身的過ぎる民は人体実験にまで手を出したと聞くぞ……」

「我が国にマッドな人は居ませんからね……最初、科学者達は止める方でしたよ」

「献体に実験を促がされる研究ってなんじゃ……」


 我が国の民は愛国精神が高い傾向にあると平時に他国の者が言っておったが、非常時には我が身を犠牲にすることも厭わない狂信的な何かを持っていると今回のことで知った。

 無論儂は許可なぞ出さんかった、民を守る為に民を犠牲にするなぞ本末転倒も良いところじゃ。


「……って、待つのじゃ。最初? まるで後は違うような言い回しじゃな」

「……はい、研究者達は希望者の意志に負け、人体実験を……行いました」

「なんじゃと! ザナークよ! 何故黙っていた! 儂の耳に入っていれば儂は殴ってでもその者等を止めたというのに!」

「申し訳……ありません」

「謝罪で済むと……! ……いや、お前に言っても仕方が無い、か」


 それで実験材料になった者達が蘇る訳でも無い。

 ヒステリックを起こすより先にまずやるべきことがあるだろう。


「して……何人の犠牲を出したのだ」


 犠牲者への謝罪と賠償は当然として、勇気ある者達の石碑も造らねばなるまい。

 死体が……残っていると思いたいが、遺体も丁重に扱わねば。

 儂は指示していないと言い逃れるのではなく、儂が責任を取らねばならない。

 最後はギロチンか、中々短い生涯であった。


「〇人です」

「そうか、〇人も…………ん? 〇人?」


 今、〇人といったのかこの男は。

 人体実験、儂の思い付くそれはとても犠牲を無しには成し得ない所業である筈。


「えぇ、人体実験の最中、霊薬『エリクサー』の生成に成功したそうで」

「え、エリクサー?」


 治療方面においてあの神具『聖杯』をも凌ぐ力をもつと言われるあの万能薬のか。

 水で薄めた劣化品でさえ全ての病を直し、真なる物であれば腕を生やす事すら可能という、あのエリクサーか?


「はい、一人目の被検者が実験により死ぬ目前で研究者の一人が閃き、瞬く間に生成、飲ませたところ実験で失った臓器や四肢を瞬く間に元に戻したそうです。今、量産可能か実験中だそうです」

「え、エリクサーを量産……じゃと?」

「助かった被検者はその研究者に礼を言ったそうですが、研究者はこう返したそうです、『全てはヨリトラ王の御心故です』と」

「儂……何もしてないんじゃが?」


 何で儂がエリクサーを生成してその者を助けた、みたいな物言いなんじゃ。

 というかそのエリクサーを生成した研究者ってどんだけ有能なんじゃ? 一種の天才の類ではないのか?

 謙遜せず自分の手柄じゃと言えば良かろうが……。

 ちなみに、儂は民に親しみを持って貰う為、歴代の王のように『クラウ王』ではなくファーストネームを用いた『ヨリトラ王』で通しておる。

 だから研究者の呼び方は不敬には当たらない。


「以降の実験においても実験後はエリクサーが用いられ、結果死者はゼロ、千人の被検者達は更に陛下への敬愛を深めたのです」

「いや、実験しといて治したことに感謝されるのはおかしいじゃろ。それに実験中の痛みや苦痛はどうなる」

「薬品による全身麻酔と魔法による痛覚遮断によって実験中の痛みはありませんし、希望して被検者となったのですから、苦痛はありません」

「そ……そうか……」

「皆、むしろ実験前より健康になって解散したそうですよ」


 そりゃあ……エリクサーによる治癒を行ったのであればのう……。


「そういえば最近陛下が御飲みになられているものがありますよね?」

「あ、あぁ……そういえば最近は何時も同じドリンクであったな……前までは日替わりの料理長特製ドリンクだったのに」


 今儂の手元にあるコレじゃな。

 毎日飲んでいるというのに何故か飽きる気がせん、別に特別美味いという訳でもないのに何故か体が欲しているような感覚のある不思議な飲み物じゃな。

 口に含んで味わってみるが、やはり味が好きな訳では無い。

 うーむ、これは一体何なのじゃ?


「あれ、エリクサーです」

「ブゥゥゥゥゥ!?」


 あ゛あ゛あああ゛あ! エリクサーが!

 霧状になって儂の口から噴き出したコレが、エリクサー!?


「王の健康を考え、一日一杯は呑んで頂きたいとのことです」

「青汁じゃないんじゃぞ!? 何処の国に霊薬を毎日の習慣にする者がおる!?」

「全世界を探しても貴方だけです、陛下」


 儂の意思じゃねぇよ!

 何で儂が傲慢故にエリクサーを独占しているみたいな言い回しを受けねばならん!

 儂に呑ます位なら何故不治の病の者の所へ届けんのだ!


「…………」

「言わんとしている事は分かりますのでそれは今は置いておきましょう」

「普通に不敬じゃなお前……まあ良いが。兎に角、このエリクサーが人体実験の産物という訳じゃな」

「は? いえ、エリクサーなど偶然の産物に過ぎません」

「……な、なんじゃと?」


 エリクサーをなど扱いか。


「献身的な民による協力の結果、魔力発現の解明、それに伴った魔法具の発展、その延長で超巨大ゴーレムを稼働可能になり、別の方面ではホムンクルスの生成、知能を持つキメラの生成、生きた武器の生成、後はエリクサーが生まれた今ほとんど意味を成さないでしょうが医学もかなりの進歩を見せたでしょうか」

「凄いな我が国の研究者!」


 どうなってるんじゃ。


「いえ、全ては陛下のお力です」

「だから儂何もしてねぇよ!」


 あれ、儂何してたんだっけ。

 民の為に動いていた筈だったんじゃが……研究者達の働きを見てたら儂って何もしてないように思えてくるんじゃが。


「というか……巨大ゴーレムじゃと? そんなモノ何処にあるんじゃ?」

「この城がそうです」

「……なんじゃと?」

「今陛下が座られている玉座がコックピットですね、非常時はそこに座る陛下を守る巨大な鎧となります」

「そんな馬鹿な……城がどうやって……」


 確かに我が王城はゴーレムの素材として最もポピュラーな石造りではあるが……。

 ゴーレムという事は稼働するのじゃろ? 城が動こうとしようものなら駆動部が無いのだから崩れるだけじゃと思うんだが。


「人型に変形します」

「変形!?」


 一体何時の間にそんな機能が備わっていたのじゃ!?


「これは陛下が生まれ出でた時よりの計画ですが今回の件で漸く完成した、と言うところですね」

「ということは父上がこのような……」

「はい、陛下の誕生日プレゼントにする予定だったようです」

「王城をプレゼントとはなんとも……」


 よくそのような者が王でこの国は潰れなかったな……。

 そう言えば父上が働いている所を見た事が無かった気がする。

 我が国は他国との交流を禁じている故に謁見なども殆どないし。


「しかしそのお蔭で陛下が何者かの手によって殺されることはまずないでしょう」

「儂の目指すところと違うんじゃが……」


 もしこの城が人型になって動き出そうものなら城下町はたちまち壊れてしまうだろう。

 そうなったとき困るのは国民だ、儂はそのような事望まん。

 むしろ、儂一人の命で民が大勢救われるなら儂は喜んでこの首差し出そう。


「まあ、危機は去りましたが」

「そういえばそういう話であったな……民の死ぬ心配が無くなって喜ばしくはあるが……」


 しかし……。

 膨れ上がった軍事力、これは何処へぶつければ良い?


「陛下の心配は分かっています、膨れ上がった軍の事でしょう」

「う、うむ……」


 我が国の財政はそこまで良い訳ではない。

 独自の通貨性であるが故、発行すれば給金の支払いに困りはしない……しかしそうしてしまうと後から大変なことになってしまうのは言わずもかなだ。

 つまりはその選択は論外、とすれば給金の支払いに支障を来す。

 食わせることは出来ても兵達の家族を養わせることは出来ないということだ。


「再就職までは面倒を見てやりたいのだが……」

「我が国の民は皆何らかの技能を持っています、すぐに新しい職を見付けますよ」

「そうだと良いが」

「または、他国へ攻め入るのも良いかもしれませんよ?」

「無意味に国民を殺す気は無い。我が国は今で十分過ぎる程に豊かだ」

「今年もまた餓死者はゼロです、多くの民が子宝にも恵まれています、確かにそうですね」

「それでも土地や食料は余っているほどだ」


 そう、我が国は豊かすぎる程に豊かなのだ。

 だから侵略の心配が無ければそもそも軍事力自体必要ない。

 しかも防衛に関して言えば我が国はちょっと自信があるぞ。

 儂とザナークはしばらくの間今後の方針について話し合い、そして最後はこういう結論に至った。


「しかし……面倒な時代になりそうですね」

「あぁ……誰しも魔王を殺さなければ、なんて時代が始まる」

「我々のすべきことは飛び火を全て防ぐこと」

「そう考えると軍部解散はやはり出来ないか」

「そう、なりますね」


 最初は軍部を削減させる話だった。

 しかし話し合ううちにそうすべきではないという結論に至る。

 魔族軍を倒した後の世界で、次の敵は何か。

 言うまでも無く、人間である。




 ◆◆◆




 魔王の死去から半年。

 侵略の恐怖から解放され気の緩んだ人間の国々は平和になるどころか荒れた。

 職を無くした傭兵が盗賊に身を落とし、治安は悪くなる一方。

 支援を受けれなくなって滅んだ国もあると聞く。

 半年立っても復興の目途が全く立たない国が殆ど。

 駄目だな人間は、共通の危機に対面しないと協力する事も出来ないのか。

 『同盟』は半崩壊状態で、復興橋梁どころじゃない。


 らしい。


「ザナークよ」

「はい」

「平和じゃな」

「はい、魔王もいなくなりましたからな」


 我が国はむしろ良くなっていると言えた、化学発展は言わずもかな誰もが死に脅えない生活を送れる国となっている。

 鎖国体制を強め、周囲からの干渉を完全に拒絶したのが良い方向に進んでいる。

 我が国の豊かさを貶める為に戦争を仕掛けて来た国もあったが、ガンド大陸にすら上がらせず殲滅に成功している。

 また、ガンド大陸全土がクラウ王国になった。

 無論武力による強制的な併合じゃないぞ? 向こうからの申し出だ。

 しかし……王族の首も姫も要らんぞ? 儂を何だと思ってるんだあいつ等は。

 この半年で色々なことがあったというのに、何一つ劇的なことはなかった。

 上々だが、儂は存在意義があるのだろうか。


「何か面白い事でもないかのー」

「そういえば」

「ん? 何かあるのか?」

「今日、勇者が見えられます」

「嘘じゃろ!? 何故、というか今日!? 何で今日!? 幾らなんでも急過ぎるじゃろ!」

「一月も前に書状が届いていたのをすっかり忘れておりましたよ、ハッハッハ」

「笑えぬわ!」


「陛下、勇者様御一行がご到着なさいました、謁見の間にてお待ちください」

「というかもう来たではないか!」


 準備する暇も無い、もし儂が常日頃から王様っぽい恰好をしていなかったらどうするつもりだったんじゃ。

 兎にも角にも来てしまった物は仕方が無い、急ぎ謁見の間の中心に置かれた玉座に腰掛け待つ事五分、勇者達が現れた。


「よく来た勇者よ」

「クラウ国王陛下、本日はお願いがあって参上しました」


 勇者とは、女子だった。

 まだに十にも届かぬだろう彼女は我が国で一番人気のアイドルキャルリーにも引けを取らぬ美貌で勇者というよりは芸能人のようであった。

 というか、出会って数秒で要件を告げるとは謁見マナーを知らぬ奴よ。

 我が国の書店で『謁見で役立つ1000のマナー』を買え。


「我が国は魔王との戦いで疲弊し、自ら立ち直るのが難しい状況なのです、どうか御助力をお願い出来ないでしょうか」

「それは儂に援助せよ、と申しておるのか?」

「……はい、お願いできないでしょうか」


 我が国は基本他国と貿易をしない、そもそも交流もしない、いわゆる鎖国状態だ。

 ザナークが勇者をこの場に立たせたのは彼女達が英雄だからだろう。

 英雄を無下に扱い反感を買うは頂けないだろうからな。

 しかし。



「駄目だな」


 儂はそう返した。


「そんな……」

「勘違いするでない、現状では、という話じゃ」

「……と、いいますと?」

「援助するのは構わん、しかし誠意を見せよ」

「誠意、ですか」

「うむ、誠意じゃ。分かるな?」


 私利私欲を離れて、正直に熱心に事にあたる心じゃぞ?

 つまりは形式的な言葉での打診ではなく本人の言葉で頼め、ということだ。

 別に支援は構わん、それで困る国民はいないからな。そして儂は外交というものになれていない。

 ならば純粋なお願いであれば聞き届けようと思っただけのこと。


「分かり……まず。わかり、ました」

「うむ、では申してみよ」


 勇者は苦渋の決断を迫られたような顔をしているような気がするが、そんな訳は無いだろう。

 ただ心からお願いするだけでいいのだから。



「私は……勇者、ホナク=キンディラは……クラウ国王陛下の元へ嫁ぎます」

「────────────────え?」





 ◆◆◆




「クラウ国王陛下ばんざーい!」

「ホナク王女殿下ばんざーい!」


 国民の歓声。

 純白のドレスに身を包み、頬を赤めて横に立つ勇者。

 まるで娘を送り出す父の様に号泣するザナーク。

 そして、状況が呑み込めず変な汗を掻きまくってる儂。


「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻/夫を想い、妻/夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」


「誓います」

「う、む、誓おう」


 …………儂、勇者と結婚した。

 どうしてこうなった。




 了

前に投降したものの後ろをちょろっと変えただけです。

冬童話2015に向けて考えていた物を執筆する余裕が無かったので間に合わせ、という形で投稿させて頂きました。

出来ない参加表明とかするもんじゃありませんね……。

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