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VOL.09:週末探検隊-Part3-

 翌日の日曜、峻佑たちは懐中電灯などを準備した上で再び洋館へ向かっていた。

「あの家には10年近く住んでいたけど、地下室があったなんて初めて知ったの。何があるんだろ?」

 ちひろは松海市駅から歩く途中、峻佑にあの家で暮らしていたときの話をしていた。

「まあ、あんな巧妙に地下への階段が隠されてたら見つからないよな」

 峻佑は昨日の探索の最後に階段を見つけたときのことを思い出して苦笑いした。

 魔法書との大捕り物を終え、他に使えるモノがないか探しに入ったとき、最初の魔法書を捕まえたところや古い魔法書を見つけたのとは別の3つ目の倉庫があることをちひろに教えてもらい、そこに行った。

 だが、そこはあまりに荷物がゴチャゴチャしていて使える道具を探すどころではなく、諦めて倉庫を出ようとしたときに、峻佑が足元の荷物に足を引っかけ、転びそうになってしまった。そのときにとっさに近くにあった壁に手をついて転倒を防いだところ、‘カチリ’という音がして、倉庫の外で音がしたので行ってみたら地下への階段が出現していたといういきさつがあったのだ。

「いったいあそこには何があるんだろう? お母さんは知ってるのかな……」

 みちるがそうつぶやき、旅行に行っている母親にメールでたずねてみることにした。

 しばらくして返ってきたメールには、

『あら、ついにあそこを見つけたのね。そこは先祖代々の英霊を祀った場所で、そこの最深部にあるものを持ち帰れば私たち一族の間では一人前って認められる、言わば試練の間みたいなものね。引っ越しのたびに移設を繰り返しているせいで、内部構造は20年前に攻略した私でさえわからないわ。私たちが旅行から帰ったら2人にもやらせようと思っていたけど、ちょうどいいわ。しっかり攻略してらっしゃい』

 と書いてあった。

「つまり、地下室は昔からあって、そこはちひろやみちるの家系のヒトが一人前の魔法使いになるための試練みたいな場所なのか……。そんなところに部外者で一般人のオレは入っていいのか?」

 峻佑がボヤき、怖気づいたのか引き返そうとした。

「別にいいんじゃないかな? 峻佑くんが単独で入っていくわけでもないんだし」

 ちひろは話しながら引き返そうとした峻佑の襟首を捕まえると、そのまま引きずっていった。

「ぐえっ、わかった、逃げないから引っ張らないで〜……」


「さあ、行きましょうか」

 洋館に到着した3人は、地下室への階段の前に立っていた。

「ああ、もうここまで来たらとことんつき合うよ」

 峻佑は開き直ったのか背中に背負ったリュックから懐中電灯を取り出すと、先頭に立って階段を下りていった。

 階段を下りきって懐中電灯で照らしてみると、奥までは照らし切れないほど長い廊下が続いていた。

「よし、とりあえず先へ進んでみよう」

 峻佑が後ろにいる姉妹に声をかけ、歩き出した。と、そのとき。

《引き返せ……今すぐに引き返すのだ……》

 3人の耳に不気味な声が聞こえてきた。

「なんだ? 今の声は……」

 峻佑が振り向いて姉妹に訊ねると、

「何かしら……? あまり私たちに好意的な存在ではなさそうね」

 3人はひとまず声を無視して廊下を進むことにした。

《引き返せ……これ以上先に進んではならぬ……》

 再び3人の耳にさっきの不気味な声が聞こえてきた。

「なんなんだ? 奥へたどり着くことが目的なのに、先へ進むなとはどういうつもりだ? こんなん無視だ、無視」

 峻佑は強気にずんずん進んでいった。

《引き返しはせぬか……良いだろう、この試練を突破してくるがいい!》

 謎の声が挑戦的にそう言った瞬間、通路の奥で何かが光った。と、奥から人影が現れた……のだが。

「なぜに裸……?」

 先頭で懐中電灯を持って先を照らしていた峻佑が呆れかえった。懐中電灯の光に照らし出されたソイツは、背格好は大人の男なのだが、衣類を身につけていない全くの素っ裸だった。ちひろたちは峻佑のかげにいてまだソイツが見えない位置にいる。

「なに? 何かいる……の……」

 峻佑の肩越しにソイツを見たちひろの目が点になり、やがてぷるぷると震えだした。

「きゃあああああああああああ!!」

 ちひろはモロにソイツの全裸を見てしまったらしく、思い切り叫ぶと、ものすごい勢いで全裸男に飛びかかった。

「乙女の前でなんて格好してんのよっ!」

 ちひろは叫びながら殴りかかろうとした。いや、もうすでに殴っていた。

「お姉ちゃん、それは殴らない方がいいと思う……わ……」

 みちるが止めたが、時すでに遅し。

「いっ……たあーーい! コイツ、むちゃくちゃ硬いわ!」

 ちひろが殴りつけた拳を押さえ、うっすらと涙を浮かべてつぶやいた。

「お姉ちゃん、たぶんそれロボットよ。人工皮膚とかで人間そっくりにつくってあるけど、駆動音はごまかしきれてないわ」

 みちるがそう推測してちひろに伝えた。

「なるほど、どうりで恥ずかしがらないわけだわ。でも、リアルすぎてムカつくわね。邪魔だし、破壊するわ。2人は下がってた方がいいわよ。でないと巻き込まれちゃうかも」

 ちひろは見てる方がゾッとするくらいの満面の笑みでそう話した。

「あ、ああ……わかった」

 峻佑はちひろの闘志に気圧されるように後ずさりしていった。

「くすっ……あたしを怒らせた報い、受けてもらうわよ!」

 ちひろがそう叫んだ瞬間、彼女の手のひらが輝いた。そのまま目の前にいるロボットの胸の部分に手のひらを当て、

電撃(エレキショック)!」

 と叫んだ。すると、バチバチと電流がスパークする音が響き、ロボットの体がプスプスと煙を上げはじめた。

「お、お姉ちゃん、このままじゃ火事になっちゃうわよ」

 ちひろの後ろからみちるが声をかけた。と、いつの間にか、みちるの手のひらも光に包まれていた。

「わわっ! ヤバい、やりすぎたかも」

 ちひろが慌てて手を離したが、かなり長い時間電流を流されていたロボットは中枢がいかれて爆発しそうだった。

「大丈夫、私がやるわ」

 みちるがそう言いながら光っていた手を爆発寸前のロボットにかざすと、

吹雪(ブリザード)

 みちるが静かな声で言うと、雪国顔負けの吹雪がみちるの手から吹き出し、ロボットを冷やしていく。しばらくしてみちるが手を離すと、ロボットから出ていた煙は収まったが、逆に冷やしすぎたのか凍りついていた。

「うわ……魔法ってすげえな……」

 峻佑がロボットをつついた瞬間、電流による熱と吹雪という激しい温度差にさらされていたロボットは上半身(・・・)もろくも崩れ去った。だが、偶然かはたまた嫌がらせか、崩れ去ったのは上半身(・・・)だけで、下半身は崩れることなくその醜態をちひろたちに見せつけていた。

「い……いやあああああ!」

 静かな洋館の地下に2人の女の子の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。

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