表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/58

VOL.07:週末探検隊-Part1-

「峻佑くん、明日の土曜日って空いてる?」

 金曜の昼休み、購買でパンを買って戻ってきた峻佑にちひろがたずねた。

「明日? 特に予定はないけど、なんかあるの?」

 峻佑は自分の席に戻りながら聞き返すと、

「あのね、引越しの時に前の家から持ち出しきれなかった荷物があるからそれを取りに行きたいんだけど、つき合ってくれないかな?」

 ちひろは峻佑に手を合わせて頼んだ。

「別に構わないけど……(ヒソヒソ)魔法で運搬しちゃえばいいんじゃないの?」

 峻佑は了承したあと、ふと気づいたことを小声で聞いてみた。

「(ヒソヒソ)ちょっとやっかいなモノで、魔法だと上手くいかない可能性が高いの」

 ちひろも小声で返す。

「(ヒソヒソ)いったい何を取りに行くの? もしかしてなんかヤバいモノだったりする?」

 峻佑が問いかけた、そのとき。

「峻佑ぇ〜、なーに内緒話してるんだよ? コノヤロ、俺も混ぜろーっ!」

 背後から耕太郎がやってきて、峻佑の背中をひっぱたいた。

「うわっ! コータロー、いつからそこにいた!?」

 峻佑は一度話を中断して耕太郎に問いかけた。

「えーと、“明日の土曜日って空いてる?”って真野さんが聞いたところからだな。そのあとすぐに小声で内緒話モードに入りやがって……端から見たら結構怪しい雰囲気出てたぞ」

 耕太郎はちょっと考えるそぶりを見せた後、そう答えた。

「それって最初からいたってことじゃねーか。まあ、別に大した話じゃない。明日、松海にあるちひろたちが前に住んでいた家に行くから、つき合ってっていう相談だ、まあつまるところお前には関係ない話ってことだな」

 峻佑は冷静にツッコミを入れると、話の内容の一部を伝えた上で耕太郎を冷たく突き放した。

「な、なんだとーっ!? 3人でお出かけだあ!? お、俺も混ぜろ〜っ!」

 耕太郎は激昂し、峻佑に掴みかかった。

「ちひろ、どうする? コイツも連れていって大丈夫かな?」

 峻佑は胸ぐらを掴まれながらも冷静にちひろにたずねる。

「うーん、ちょっとマズいかもしれないわね。沢田くん、ゴメン」

 ちひろは一言謝ると、耕太郎の目をじっと見つめた。

「え?」

 耕太郎が突然のことに驚いていると、ちひろの目が一瞬だけ光り、直後に耕太郎の身体からガクッと力が抜けてその場にあったイスに座り込んでしまっていた。峻佑が彼の身体を揺さぶってみたが、彼はピクリとも動かず眠っていた。

「(ヒソヒソ)今コータローに何をしたんだ?」

 峻佑がちひろにたずねると、

「(ヒソヒソ)暗示をかけて眠らせたの。あと、ついでに今の話の記憶も消したから問題ないと思うわ。じゃ、明日つき合ってもらってもいい?」

 ちひろは峻佑に話すと、ヒラヒラと手を振って自分の席に戻っていった。

(あ、結局何を探しに行くのか聞きそびれたな……ま、いいか。明日になればわかることだしな)

 峻佑はそんなことを考えながら買ってきたパンを食べるのだった。


「あれ? 俺はなんでこんなところで寝てたんだ?」

 昼休みが終わる前になって耕太郎が目を覚ましたが、たしかに話の内容は覚えていないようだった。

「どうせ授業で疲れきって倒れていたんだろ」

 峻佑の非情のツッコミに耕太郎はヘコみ、それを少し離れた場所から見ていたちひろはホッと一息つくのだった。



 翌日。

「それじゃ、早く行こうよ」

 ちひろとみちるが急かすように峻佑の手を引っ張っていた。

「わかったから、そんなに引っ張るなって!」

 峻佑たちは笑いながら駅に向かっていった。

 峻佑たちの住む竹崎市にある竹崎駅から目的地の松海市駅までは電車で30分ほどかかる。土曜日である今日は遊びに行く人々で車内は混雑していて身動きがとれそうになかった。

「電車を使って出かけるのは久しぶりだからこんな混雑も久しぶりだぜ……」

 峻佑が手すりに掴まってため息をひとつ吐いた、そのとき。峻佑の目にとんでもない光景が映し出された。

 彼のすぐそばで、下品な面をした男が、混雑を逆手に取って中学生か高校生くらいの女の子に痴漢行為を働いていたのだ。女の子は声も出せずに周囲に助けを求めているように見えるが、周囲は気づいていないのか、それとも混雑で動けないのか女の子を助ける様子はない。

(こりゃあオレがやらないと誰も助けられないだろうな)

 峻佑は一瞬で考えをまとめると、手を伸ばして男の腕を掴んだ。

「おい、オッサン。そこまでだ。女の子が嫌がっているのがわからないのか?」

 峻佑は男の腕を捻り上げながら低い声で脅すように告げた。

「な、なんだてめえ……あいたたた!」

 男は抵抗しようとしたが、峻佑にさらに腕を捻られ、悲鳴を上げた。ちょうどそこで電車は松海市駅の一駅手前に位置する東松海ひがしまつみ駅に着いたので、峻佑はちひろたちや被害にあっていた女の子と一緒に痴漢男を引きずりおろし、駅員に引き渡した。

「あ、あの……さっきはどうもありがとう。名前を聞いてもいいかしら?」

 男を引き渡し、次の電車を待っていた峻佑たちに、さっき助けた女の子が近づいてきた。

「別に名乗るほどの者じゃない。ただのおせっかいな高校1年生だよ」

 峻佑はちょっと照れくさいのでぶっきらぼうに答えた。

「おせっかいだなんて、そんな……わたしは助けてくれた方にお礼のひとつもしないほど恩知らずではないですわ。どうしても自分から名乗るのが嫌だというなら、わたしから名乗ればいいですか? わたしは仙堂(せんどう) 雲雀(ひばり)と言います」

 女の子は雲雀と名乗り、さらに峻佑の名を聞こうと食い下がってきた。

「そこまでされて名乗らないのはオレの信義に反する。オレの名前は市原峻佑。県立竹崎高校の1年生だ」

 峻佑が熱意に負けて名前を言うと、

「あなたも竹高なの? わたしも竹高で、2年生なの。もしかしたらまた学校で会えるかもね。それじゃ、またね! 今日はホントにありがとうっ!」

 雲雀は峻佑に改めて礼を言って、ちょうどこの駅で降りるのか、改札の方へ走り去っていった。

「なんだかよくわからないが、うちの学校の先輩だったみたいだな」

 峻佑は少し疲れた表情でちひろたちに話しかけた。

「そうみたいね。……あ〜あ、どうせならあの女の敵の痴漢男に魔法で制裁を加えてやればよかったかしら? あっ、次の電車が来たみたい。行こっ、峻佑くん!」

 ちひろが何かボソッとつぶやいていたところでホームに次の電車が到着し、3人は松海市にあるちひろたちの前の家に向かうのだった。

電車内で助けた女の子―仙堂 雲雀との出会いはこの先峻佑に何か影響を起こすのだろうか?

次回、旧家へ潜入!


今週も、読んでいただきありがとうございました。

また来週、水曜日にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ