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EPI.02:Epilogue/晴香


体育祭以降、目立った活躍どころか、登場すらしてないのではないかと思われる委員長こと晴香。

彼女が輝く舞台は、すぐそこに――

 ――秋。秋と言えば、文化祭をやる高校は多い。ここ、竹崎高校もその例に漏れず、1ヶ月後に迫った文化祭に向けて、各クラスとも準備を始めていた。――ただ1クラス、1年4組を除いては。

「あー、決まらない〜……時間がないのに〜……」

 一向に決まらないクラスの出し物に、委員長の晴香が教卓で唸っていた。

 このクラスには34人の生徒がいるのだが、出し物をお化け屋敷にするか小物を売る模擬店にするかできれいにまっぷたつに割れてしまい、折り合いがつかない状況だった。普通なら、こういう場合は担任が一声かけるべきなのだろうが、4組の担任、脇野はまだ教師2年目で初担任のため、それができずにうろたえるだけだった。

「仕方ないわ。それぞれ代表者を立てて公平にじゃんけんで決めましょう。もう、それしかないわ。みんな、いいよね?」

 しばらく話し合いに任せていたが、無駄にヒートアップするだけで、埒があかないので、晴香はそう提案した。

「そうだな、さすがにもう疲れてきたから決めちまいたい」

 晴香の提案に、疲れきった声で峻佑が応じ、それを皮切りに、次々とみんなが頷いた。

「じゃあ、模擬店の代表は私が出るわ。お化け屋敷は誰が出るの?」

 晴香は自ら代表として名乗り出ると、お化け屋敷チームに呼びかけた。

「じゃあ、オレが出る。恨みっこなしだぜ、酒井さん」

 峻佑が立ち上がってそう言うと、晴香とじゃんけんした。



 結果として、1年4組はお化け屋敷をやることに決まった。

「じゃあ、明日からもう少し詰めた話をしていくことにしましょう。じゃあ、今日は解散」

 晴香は負けた悔しさを見せることなく、気持ちを切り替えてお化け屋敷を全力でやる方針を固め、長引いていたLHRを解散した。と、そこへ――

「ちょっと失礼するわね」

 それまでの張り詰めた空気を一瞬で打ち砕く声とともに、ドアが開いた。

「あれ、なつき先輩?」

 峻佑が意外そうな声をあげた。

「やほー、市原君(いっちー)真野さん(ちーちゃん)。今日は生徒会の用じゃなくて、3年7組の一員として全クラスを回ってるのよ。と、言うわけで、このチラシをよく読んでおくよーに。そんじゃね〜」

 なつきは峻佑やちひろに手を振ると、教卓のところにいた晴香に1枚のチラシを渡して風のように去っていった。

「しっかし、なつき先輩、あの呼び方なんとかならんものかな〜」

 峻佑が苦笑しながら呟く。峻佑たちが生徒会に加入してから、なつきだけは峻佑をいっちー、ちひろをちーちゃん、みちるをみーちゃんと呼んでいるのだ。恥ずかしいからやめてくれと何度も頼んだのだが、直る気配は微塵もなかった。

「もう、諦めるしかないんじゃない? それより晴香、先輩が置いていったチラシってなんなの?」

 ちひろはすっかり諦めを悟ったように峻佑に言うと、晴香にチラシの内容をたずねた。

「あ、えっと……文化祭の開会式でミニイベントみたいなのが毎年あって、今年は3年7組がそれを担当するんだって。それで、ミスコンを開催するらしいわ。このチラシは、それの告知と参加者募集よ」

 晴香は、そこで初めてチラシの内容に目を落とすと、ざっと読んで、説明した。

「あ、一番下に小さい字で“クラス対抗にするので、必ず各クラス1人は選出すること。優勝クラスには生徒会から豪華景品あり。ただし、拒否した場合、生徒会権限でのお仕置きよ”だって。どうする?」

 晴香がチラシの下部に記された小さな文字に気づいて、苦笑しつつみんなにたずねた。

「めんどくせえけど、なつき先輩はやるといったら本気でやるからな……ウチのクラスの自慢の女子、ねえ……」

 峻佑がブツブツと呟き、ハッとしてちひろを見た。

「……なに?」

 クラスの一員で、しかも自分が訊いたにも関わらず、我関せずな態度で話を聞き流していたちひろに、全員の視線が集中し、

『ウチのクラスにはミスコンに最適な人材がいるじゃないか!』

 声をそろえて叫んだ。

「えっ、えっ? ちょっと、何の話?」

 ちひろは話を聞いていなかったので、慌てて聞き返した。

「要するに、文化祭の開会式で行われるミスコンにちひろに出てもらおうってこと」

 峻佑が代表してちひろに説明すると、

「イヤよ。景品欲しさにあたし1人を生贄にしようなんて、絶対イヤだからね」

 ちひろはツンとそっぽを向いて、拒否する姿勢を全力で示していた。

「じゃあ、他に誰かが一緒に出れば出てくれるのか?」

 彼氏としてちひろの説得を一任された峻佑が妥協案を提示すると、

「それなら……うん、いいわ。でも、出てくれるって決まったあと、逃げたのがわかったら、そのときはあたしもトンズラするからね」

 ちひろは少し迷ってから頷いたが、逃げるな、と条件つきでの了承だった。

「……と、言うわけだ。残りの女子の中で最低1人以上、ちひろと一緒にミスコン出てくれる子はいないか? 推薦でもいいけど」

 峻佑は説得が成功して少し笑みを見せると、他の女子たちに呼びかけた。

「…………」

 しかし、女子たちの顔は曇ったまま、誰も手を挙げようとしない。と、

「推薦なら、あたしからいい?」

 ちひろがそう言って立ち上がった。

「おう、誰を推すんだ?」

 峻佑が訊ねると、

「晴香。一緒に出てくれない?」

 ちひろは委員長たる晴香を指差して指名した。

「わ、私!? 無理無理、無理だよ〜!」

 晴香は急に指名されたのもあって、焦りからものすごい速さで手を左右に振って、指名を拒否しようとした。

「大丈夫よ、たかが校内のミスコンじゃない。優勝すれば儲けもの、勝てなくても誰も文句言ったりしない、いえ、あたしが言わせないわ。もともと、言える権利もないでしょうけどね」

 ちひろは言外に自分じゃ出ようとしなかったんだから、という意味をにおわせることでクラスメートを牽制し、晴香を安心させようとした。

「でもでも、複数エントリーは各自の得た得点の平均値がクラス得点になるって書いてあるから、私じゃちひろの足を引っ張るだけよ……」

 晴香はなおもチラシに書いてあるルールを盾に逃げようとする。

「晴香は十分可愛いと思うわ。あたしやみちるばかりもてはやされてるけど、あたしとかから見たら、晴香のほうがイケてると思うのよね。きっと、普段から目立たないように過ごしてきたから、晴香の魅力に気づかない人が多いだけよ。今度のイベントに出て、みんなにそれを知らしめましょうよ」

 ちひろは少し強引とも取れる論で晴香をオトシにかかった。

「でも、私あんまり目立つのは……」

 それでも晴香は渋っていたが、決意は揺らぎかけているのか、目が泳いでいた。それに気づいたちひろは、トドメの一言を放った。

「晴香。あたしたちはもう高校生なんだよ? 中学までの自分は捨て去って、変わらなきゃ。人は自分から変わろうとしなきゃ何も変われないのよ!」

 最後、興奮したのかちひろの語気が強まり、晴香はビクッとしたが、ついに、

「…………わかった。出るわ」

 首を小さく縦に振ると同時に、消え入りそうな声で出ることを承諾した。




 ――そして、あっという間に時間は過ぎ、文化祭当日。

 出し物を決定するのが学校一遅かった割には、きちんとしたお化け屋敷ができていた。

 開会式があるので、全校生徒は体育館に集まっていた。もちろん、イベントのことはみんな知っているので、どんな美少女が出てくるのか、一部の男子生徒を中心に、否が応でも期待は高まっていた。

「それではっ、ただいまより、第32回竹崎祭の開会式を始めます! 毎度おなじみの挨拶とかはもうめんどいから全部カットで、みんなお待ちかねの、3年7組主催による、竹高ミスコンテストを開催いたしますっ!」

 司会の開会宣言に、生徒たちは歓声をあげ、対する長話担当の校長とかは、見た目でわかるくらい落ち込んでいた。

「まずは、参加者、入場〜!」

 司会の声に、ちひろや晴香を含む10人弱の女子生徒が出てきた。だが、3学年×8クラスで、少なくとも24人はいるはずなのに、どうみても足りない。

 あれ、どうなってるんだ、とあちこちから声が上がる中で、なつきがマイクを握った。

「あたし、ちゃんとチラシで説明しといたわよね……拒否したり、直前逃亡したら、って。逃げたクラスはそれをわかった上でやってるんでしょうね?」

 こめかみに青筋を浮かべて全校生徒に問いかけるなつき。すると、拒否したと思われる一部のクラスから声が上がった。

「そもそも、ミスコンって出たいヤツだけ出るものだろ。強制参加のヤツがいるのはどうかと思うぞ。いまそこにいるだけでも十分な人数いるんだから、さっさと始めちまえよ」

 そんな声に、なつきは時計を見ると、それほど余裕があるわけじゃなかったようで、

「ちっ、仕方ないわね。ホントはひとりずつ何かやってもらおうと思っていたけど、予定変更。クラスと名前を言って、あとは純粋に人気投票ね。クラス対抗の話もなしにして個人戦で。これじゃあクラス対抗なんて無理。でも、優勝者に与えられる生徒会からの景品はあるから安心して」

 なつきは舌打ちしながらも頭を切り替えると、司会にマイクを返して、あれこれ指示を出し、ようやく進み始めた。



 エントリー者の紹介が終わり、あらかじめ渡されていた紙で投票が行われていった。

「では、発表します。投票総数、895票、無効が残念ながら5票ありましたが。第3位、2年3組、高柳聡子さん、獲得票数は95票。第2位、1年4組、真野ちひろさん、獲得票数は138票」

 ちひろが2位だと発表されると、体育館は大きくざわめいた。大本命と見られていたちひろの敗北に、一体誰が、という戸惑いが多く見られた。

「そして、栄光の第1位は……! い、1年4組、酒井晴香さん! 獲得票数は290票! ダントツのトップでした!」





「疲れた……」

 文化祭初日を終え、屋上で晴香はつぶやいた。あのあと、どこへ行ってもミスコン優勝者だと言われ、新聞部にはあの学校のアイドル、真野姉妹の姉を負かした気分は、などと訊かれて追い回され、祭を楽しむどころではなかった。

「お疲れ様、晴香。優勝おめでとう」

 そこに屋上の扉が開き、ちひろが出てきた。

「ちひろ……なんで私勝てたんだろう? 絶対あの参加者のなかならちひろが優勝だと思っていたのに……」

 晴香は心から祝福してくれるちひろに訊いてみた。

「もう、あんだけダントツの支持を集めたのにまだ信じられないの? 晴香だって、かなりの美少女の部類に入るのよ。今までは目立たないようにしてたから気づかれなかっただけ。あたしたち姉妹がアイドルとか言われたのは、双子でそれなりの容姿だったからでしょ。それに、あたしの支持が落ちた理由はたぶん、峻佑くんと正式に付き合い始めたってのもあるでしょうね」

 ちひろは笑いながら話した。

「そっか。でも、それなら私が勝てたのは市原君のおかげかな。まあ、別にミスコンで優勝したからといって、すぐに変われる訳じゃないだろうけど、これからは少し変わる努力をしてみようかな」

 晴香は夕暮れ迫る空を見上げてつぶやいた。

「……って、あれ? ちひろ?」

 なんにも反応がないので辺りを見回した晴香は、いつの間にかちひろがいなくなっているのに気づいた。

「いきなり出てきたと思ったら、いつの間にかいなくなって、友達になって結構経つけど、まだよくわからないなあ……」

 晴香の困惑したような呟きは、夕暮れの空に消えていった。

これで、休載期間3ヶ月を含め1年3ヶ月にわたった物語も終わりです。

長い間、お付き合いいただいて、本当にありがとうございました。


最後になりますが、次回作は現在鋭意執筆中です。

正式な投稿開始日は決まったらブログにてお知らせします。

では、改めて、ありがとうございました!

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