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VOL.55:峻佑の想い

「あのさ、あの話なんだけど、オレ、ようやく答えを出せたんだ」

 峻佑が少し照れながらも、ちひろを真っ直ぐに見つめてそう切り出すと、

「えっ……それって……」

 ちひろはみちるがいない状況でそんな話を切り出されたことで一瞬期待したように表情が明るくなったが、すぐに思い直したように首を振ると、

「あたしがいない間に答えを見つけたんだ。それはつまり、みちるを選んだ、ってことをあたしにも伝えたかったんだよね? うん、わかってたわ」

 ちひろは峻佑が話し出すのを遮って、勝手にひとりで納得していた。

「ちょっと待った。ちひろ、オレの話を聞いてくれ」

 峻佑はそんなちひろの肩に手を置いて黙らせると、改めて話し始めた。

「オレさ……春に2人と再会してからずっと一緒にいたから、それが当たり前みたいになっちゃって、どっちかを選ぶことができないでいたんだ。だけど、今回の件で、いなくなって初めて気づいたんだ。もちろん、みちるも大切だけど、それ以上にちひろ、キミが大切なんだ、って。だから……」

 峻佑は言葉を選びながら、ゆっくりとちひろへの想いを紡いでいく。と、

「そこから先は言わないでいいよ。照れて言いづらいでしょ? もう、顔が真っ赤だよ……」

 ちひろが峻佑の口を軽く押さえて首を振った。その目は涙で滲んでいた。

「やっぱ言い慣れないこと言うと照れちまってダメだな。ここはいっちょシンプルに済ますか。ちひろ、改めてよろしくな」

 峻佑は照れ笑いを浮かべながら言って、ちひろに右手を差し出した。

「うん! これからもよろしくね、峻佑くん! ……ところでさ、ちょっとだけ気になったんだけど、今の話をみちるは知ってるんだよね?」

 ちひろは涙を拭くと、右手どころか、身体ごと峻佑に飛びついた。と、その状態で峻佑にたずねると、

「もちろん、知ってるよ」

 答えはちひろの後ろから聞こえてきた。

「みちる……いつの間に帰ってたの?」

 振り向いて、居間の入口にみちるが買い物袋を持って立っているのに気づいたちひろが、顔を真っ赤にして慌てて峻佑から離れながらたずねると、

「たった今だよ。帰ってきたらいい雰囲気だったから、邪魔できないなと思って、タイミングを伺ってたのよ」

 みちるは買ってきたものを冷蔵庫にしまいながら話した。

「まあ、それはいいとして、みちるはいつ峻佑くんからその話をされたの? やっぱりあたしが捕まってる間に……?」

 ちひろが話を切り換えて、みちるにたずねると、

「うん。姉さんが捕まってる間のことだよ。あの言葉は選ばれなかったほうとしてはヤキモチ妬いちゃうね〜」

 みちるは楽しげな声でそんなことを言い、そのときのことを思い出した峻佑は、自らが言った恥ずかしいセリフに(うずくま)ってしまった。

「えっ、峻佑くんはそのときなんて言ったの? みちる、教えてよ〜」

 ちひろは気になってみちるに教えてとせがむが、

「これは本人の口から聞いた方が絶対いいよ。だから、私からは言わない、というより妬いちゃうから言えないわ」

 みちるはひっかき回すだけして、肝心の部分は口を割らなかったので、ちひろはすぐにターゲットを変えて、恥ずかしさで蹲っている峻佑に近づいていった。

「峻佑くん、なんて言ったの? 当事者のあたしが知らないなんて、そんなの不公平よ。応えないつもり? それなら、こっちにも考えがあるわよ……」

 蹲ったまま、ちひろの問いかけをスルーしようとしている峻佑だったが、

「のわぁっ! わかった、言う、言うから魔法でくすぐるのやめてー! ひぎゃー!」

 ピクリとも動かない峻佑に対し、業を煮やしたちひろは、魔法で峻佑の身体をまとめてくすぐるという拷問に打って出た。効果はてきめんで、峻佑は10秒と保たずに陥落した。

「それじゃ、どうぞ」

 ちひろはニッコリと笑うと、すぐさまくすぐり攻撃を止め、話を促した。

「あ、ああ……あれはちひろがオレとみちるを逃がしたあとすぐのことなんだけど、ちひろが自分を犠牲にしたことが悔しくて、『好きな女の子1人守れないで、何が男だ! どうにかしてちひろを助けないと! こんな事態になってようやくわかった、オレはちひろが好きなんだ!』って叫んだ。いま思うとなんて恥ずかしいこと言ってるんだと思うけどな」

 峻佑は赤面しながらも、話さないとまたちひろに拷問されるので、素直に話した。

「峻佑くん……ありがとう……!」

 ちひろはその言葉にまた涙を流して峻佑に抱きついた。峻佑は赤面したまま彼女を優しく抱きとめ、みちるは台所からそんな2人の様子を見つめていたのだった。




「あー、こないだ転入したばかりの熱田だが、家庭の事情で学校を辞めなければならなくなったそうだ。みんなに別れを言うヒマもなかったが、よろしく言っておいて、とのことだ」

 週明け、月曜のホームルームで、脇田は輝の自主退学を伝えた。

「熱田のやつ、またどこかで組織と一緒になって悪だくみでもしてやがんのかね……」

 峻佑はボソッとつぶやき、新学期から隣の席になっていたちひろが苦笑していた。



「なにぃ!? 峻佑とちひろさんが付き合うことになっただとぉ!?」

 昼休み、峻佑たちは耕太郎に2人の交際開始を伝えたのだが、当然のように耕太郎は驚き、大声をあげた。

「バカ、声がでけえよ! 隠すつもりもないけど、でもあまり大っぴらにもしたくなかったのに……」

 峻佑は慌てて耕太郎の口を押さえたが、もう遅い。その話を聞きつけた4組のMMMメンバーが、他クラスに応援を呼びにいき、すぐに1年の全クラスぶんのMMMメンバーが集結した。

「市原、てめえ……我々のアイドルたるちひろさんと堂々と交際宣言するたあ、いい度胸してんじゃねえか……」

 現リーダー・川原がゆっくりと峻佑に近づいてくる。

「げっ、てめえら集まるの早すぎだろ!」

 峻佑はこのままではどう考えても数の面で不利なので、脱兎のごとく教室を抜け出した。すぐに川原たちもそれを追って走り出す。

「市原を捕まえろー! 今こそヤツに制裁をー!」

 峻佑は階段を上に下にと逃げ回るが、途中で振り向くと、追ってくる人数が最初の倍以上になっていた。どうやら理由も知らずに、ただ面白そうだというだけでこの捕り物に参加してる生徒もいるようだ。どことなくデジャブを感じながらもまた走り出した峻佑に、内側から声が響いた。

〈よう、少年。困ってるみたいだな。またあの時の戦いみたいに俺のチカラを使うか?〉

 話しかけてきたのは、ジェンだった。あの日以降、ジェンは峻佑に取り憑いた状態が落ち着いたらしく、ずっと憑きっぱなしだった。そのおかげで、峻佑も魔法の恩恵を受けられるようになったのだが、日常では使う必要はないと、ただ内側に共存しているだけの状態でこの数日を過ごしていた。

「一般人のあいつら相手に攻撃魔法で粉砕するわけにはいかないし、使いたくはなかったんだけどな……」

 峻佑は迷いつつも、覚悟を決めた。再び階段に差し掛かり、追ってくる川原たちから死角に入った瞬間にテレポートで逃げ出したのだ。

「あれ、いねえ!? あんにゃろ、どこへ消えやがった……」

 峻佑を見失った川原たちは、しばらくあたりを探していたが、見つからないので諦めてそれぞれの教室に戻ろうとした。と、そんな彼らの前に、ちひろとみちるが現れた。

「ねえ、峻佑くんは見つかった?」

 ちひろが切り出すと、

「いえ、途中で見失いました。それで、どうしたんです?」

 川原は峻佑を見失ったことを話すと、ちひろもみちるもホッと一息ついて、

「あのさ、みんなにお願いなんだけど、今みんなが峻佑くんを追いかけてるのって、あたしと峻佑くんが付き合うことになって、峻佑くんが憎いからなんだよね? でも、峻佑くんに告白したのはあたしからだから、峻佑くんは悪くないんだよ。だから、あんまり騒ぎ立てないでほしいのよ。あと、そういうわけだから、できればあたしたち姉妹のファンクラブなんてものも解散して放っておいてくれるとありがたいな」

 ちひろが苦笑いを浮かべながら、川原たちMMMに頼み込むと、

「ちひろさんがそうおっしゃるのでしたら、わかりました。今後一切、我々MMMは市原峻佑に手は出しません。というより、いまこの時を持って真野さんファンクラブ・MMMは解散します。みんな、それでいいな?」

 川原は少し考えてから、頷き、MMMの解散宣言を出した。ちひろ直々の頼みということで、異論も出ずにすんなり解散されたのだった。



「やべっ! ちひろ、みちる、起きろっ! 遅刻するぞっ!」

 それから数日後。3人は揃って寝坊し、先に起きた峻佑が姉妹の部屋のドアを開けると――

 例によって2人は着替え中だった。

「きゃああああああああ!」

 2人の悲鳴とともに、峻佑めがけて2人ぶんの攻撃魔法が走り、さらに姉妹の部屋の扉に仕掛けられたトラップも発動し、高圧電流とタライも峻佑に襲いかかった。

「うおっ、すまん! またやっちまった!」

 峻佑は慌てて謝ったが、放たれた魔法は峻佑めがけて一直線に向かってくる。峻佑はやむを得ずジェンの魔力を発動させて障壁を展開し、高圧電流と2人ぶんの攻撃魔法までは防げた。どうやら本気で撃ってこなかったのが幸いしたらしい。だが、最後の最後、タライを防ぐ直前に障壁が消滅してしまい、カコーンという小気味よい音とともに峻佑の顔面に直撃した。



 市原家は賑やかながらも今日も平和な1日が始まる――

これで、「本編」は完結。

あと、エピローグとして、本編よりあとの一部キャラを書いたものをつけておきます。

よかったら、合わせてどうぞ。

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