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VOL.52:キズナ

 北海との戦いは、わずか10分で決着がついた。

 最初の北海の一撃を、防御障壁を張って防いだみちるは、北海の実力が並ではないことに気づき、峻佑に囁いた。

〔私たちは輝くんを倒して姉さんを助けなくちゃならない。だから、こんなところで無駄な時間を食ってはいられないわ。だから、5分だけ私とフラールさんでオジサンの攻撃を引きつける。その間に、峻佑くんは、召喚でもなんでもいいから、とにかく強力な一撃を放てるよう準備して。いい、行くよっ!〕

 みちるは障壁で北海の攻撃を防ぎ続けながら、早口で作戦を伝えると、障壁を解除してフラールとともに北海に向かっていった。

(なんでもいいから強力な一撃を、って言われても、な……ジェンさん、どうすればいい?)

 峻佑は考えても答えは出そうにないので、意識の奥深くに眠るジェンの幽体を呼び出した。

〈そうだな、あのジイサン、魔力を肉体強化に特化させての肉弾戦派みてえだしな……“大剣を持った戦鬼(バーサーカー)”で肉弾戦対決させるか、“炎を吐く竜(フレアドラゴン)”で何の慈悲もなく焼き尽くすか。ああ、やらねえとは思うが、バナナはダメだ。今の俺では制御できねえからな。あと、以前のちひろは気持ち悪いとスルーしたようだが、もうひとつ、俺には召喚できるやつがある。その名は“骨の騎士(ボーンズ・ナイト)”。まさに読んで字のごとく、かつて貴族とかに仕えていた騎士の骸骨を喚び出す魔法(もん)だ。どれでも好きなものを選びな。ああ、俺が憑いてる少年なら、その3つのうちならどれを使っても全く問題ない〉

 ジェンは峻佑の頭の中にそう話しかけ、選択を迫った。

(それなら、その“骨の騎士(ボーンズ・ナイト)”で一気に片付けましょう。どうやればいいですか?)

 峻佑は“骨の騎士(ボーンズ・ナイト)”を選び、ジェンに召喚の方法を聞いた。

〈おし、わかった。いいか、俺の言う文を繰り返すんだ。いいな? いくぞ――来たれ、異界の者よ。その力を持って我が敵を滅さん。偉大なる魔法使い、ジェン=マノールの名においていまここに汝を呼ぶ。来いっ、骨の騎士(ボーンズ・ナイト)!〉

 ジェンは峻佑に繰り返すよう要求し、魔法の詠唱を始める。

〔来たれ、異界の者よ。その力を持って我が敵を滅さん。偉大なる魔法使い、ジェン=マノールの名においていまここに汝を呼ぶ。来いっ、骨の騎士(ボーンズ・ナイト)!〕

 峻佑の頭の中で行われた詠唱を、峻佑が繰り返し、形にしていく。最後まで唱え終わった瞬間、草が茂る地面に魔法陣が浮かび上がったと思うと、完全に風化して今にも崩れそうな状態の骸骨が地面から這い出し、剣を下げた状態で中世の騎士のごとく、自らを召喚した主の命を待っていた。

〔みちる、フラールさん、待たせた。下がって! 騎士よ、あとは任せた! 行けっ!〕

 峻佑は2人に下がるように叫ぶと、喚びだした騎士に攻撃命令を出した。

〔うおおおっ!? げふぅっ……〕

 クカカカ、という異質な笑い声とともに、騎士は北海に居合い抜きの要領で強烈な一太刀を食らわせ、北海は魔力による肉体強化も実らず、一撃で地に伏した。



「ちょっとやりすぎた感が無くもないが、あのジイサン生きてるよな?」

 北海を倒したことで塔への道を遮るものはなくなり、3人は塔の階段を駆けあがっていた。

「大丈夫よ。一応、癒しの魔法と、結界で包んだから、死ぬことはないし、動けるようになっても、私たちを追ってはこれないわ」

 螺旋階段を走りながら、みちるが峻佑の不安を打ち消す。

「大丈夫ならいいんだけどな。なんせここへきて初めて戦いに参加したわけだし、魔法を使うなんて経験、ただの人間のオレにあるわけないからさ、あの騎士の一撃がどの程度の威力なのかさっぱりなんだよ」

 峻佑がなおも心配していると、一旦螺旋階段がとぎれ、広い部屋に出た。

「お、最上階に着いたのか? ちひろはどこだ、っと……」

 峻佑が周囲を見回すと、ちひろの姿はなく、広い部屋の中央に、壮年の男が1人立っているだけだった。

「残念ながらここはまだ最上階ではない。貴様らが探すちひろという魔法使いの少女は、確かにこの建物の上のほうに我が息子、輝とともにいる。だが、そこへ行かせるわけにはいかぬ。この階は、第27代【ノアの箱船】総帥、熱田光輝が守護する! 貴様らにこの私が倒せゴファッ!」

「なんだまだ最上階じゃねえのか。そんならどいたどいた。総帥だかなんだか知らねえが、オッサンの出る幕じゃねえし、用はないんだっての」

 立ちはだかっていた男、光輝を完全に無視し、峻佑は名乗りを上げている最中の彼を無情にも蹴り飛ばした。

 さらにみちるやフラールも追撃に参加して、光輝は完全に気絶し、沈黙した。

「もう少しで最上階……ちひろ、無事でいてくれ……」

 峻佑は階段へ歩きながらポツリとつぶやき、再び階段を駆け上がっていった。



 そこからさらに階段を駆け上がっていくと、また広い部屋に出た。

「ついにここまで来てしまったんだね」

 3人が階段を上りきるなり聞こえたその声に峻佑が顔を向けると、輝がいた。――気を失っているちひろを抱えて。

「ちひろっ! 熱田、てめえ……」

 怒りに任せて突撃しそうな峻佑を止めながら、

「もうあなたの救援は来ないわ。姉さんを返して。あなたが抵抗しないなら、私たちももう何もしないわ」

 みちるが凛とした声で輝に投降を促した。

「あはははは!」

 と、いきなり輝が笑い出した。

「どうした、追いつめられておかしくなったか?」

 突然の笑い声に驚いたものの、峻佑が冷静に問いかける。

「誰が、追いつめられた、って? あいにくボクはまだ秘策を残してる。来いっ、ボクの忠実な下僕たちよっ!」

 輝はニヤリと笑うと、後方にある扉に向かって呼びかけた。そこに現れたのは――

「コータロー、サル、種村、川原まで……なんでお前らが……」

 現れた同級生たちに動揺を隠せない峻佑たちに対し、

「彼らにはボクの術で操り人形になってもらった。さあ、そこの3人を叩き潰せ! キミらに級友が殴れるかな?」

 輝は耕太郎たちにそう命じると、自らはちひろを抱えてさらに上の階へと去っていった。

「熱田のヤロー、卑怯なマネをしやがって……」

 襲いかかる耕太郎たちの攻撃を紙一重でかわしながら、峻佑が悪態をつく。

「シュンスケ、おぬしはミチルといっしょに先に行け。この場は我に任せてもらおう。なに、安心するがいい、我には彼らを正気に戻すための秘策があるからな」

 すると、フラールが峻佑にそう告げた。

「いや、だけど……」

 フラールからの提案に困惑し、難色を示す峻佑に対し、

「よいか、シュンスケ。我らは一応ここでは魔法使いというのは秘密じゃ。だから、夜が明ければあまり派手な戦いはできなくなる。もうそろそろ夜が明け始めるじゃろうから、こんなところで足止めを食らうわけにはいかんのじゃ。それに、奴の言うことを肯定するのはシャクだが、級友として過ごしてきたおぬしらに彼らは殴れまい? じゃから、我がこの場に残る。シュンスケたちは早く上階(うえ)へ行ってヤツの手からチヒロを取り戻すのじゃ! 大丈夫じゃ、我を信じろ。ジェンとの絆にかけて、おぬしらと友情という名の絆で結ばれた彼らを必ず正気に戻してみせる!」

 フラールの熱弁に、峻佑は一部首を傾げたい部分もあったが、細かいことは気にしてる時間はないと覚悟を決めた。

「わかりました。フラールさん、この場は任せました。みちる、行こう!」

 峻佑はフラールにそう告げると、みちるとともに階段へ走り出した。当然、3人の足止めを命じられた耕太郎たちが立ちふさがろうとしたが、

「お前たちの相手はこっちじゃ!」

 フラールは2人を魔法で加速させて攻撃を回避させると同時に、注意をこちらに向かせるため、耕太郎たちに向けて威嚇用の風の弾丸を放った。

「さあ、行くぞ!」

 フラールの言葉を引き金に、耕太郎たちが一斉に飛びかかった。

(ここでわざわざ肉弾戦に付き合うのは愚の骨頂。さっさと彼らを正気に戻してやらねば。あの魔法で――)

 フラールは戦法を決めると、障壁を張って4人の攻撃を防ぎつつ、4人まとめて正気に戻すための魔法を準備しはじめた。そして――

「正気に戻れ! “魔法効果解除(エフェクト・リリース)”!」

 フラールが床に手をつき、魔法を唱えると、障壁に弾かれながらも攻撃を続けていた4人の足元に魔法陣が出現し、全身を覆う光の柱へと変化した。やがて光が弾けるように消えると、4人もそのまま床に倒れたのだった。

峻佑と耕太郎たちとのキズナのため、フラールは1人残って耕太郎たちを足止めし、その間に峻佑たちは上階を目指す。フラールの魔法は耕太郎たちを正気に戻すことはできたのか?

次回、VOL.53〜54:屋上の決戦(前・後編)

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