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VOL.49:嵐を呼ぶ転校生

 9月1日、今日から2学期が始まる。

 先に起きたちひろとみちるが朝食の支度をし、その後でまだ寝ている峻佑を起こしに行った。起こすだけならどちらか1人で良さそうなものだが、先日の一件以来、姉妹の仲は峻佑がらみになると険悪とまでは言えないものの、微妙な状況になってしまうので、お互いが妙なことをしないように、2人で起こしに行くことにしたのだ。

「峻佑くん、朝だよ。起きて」

「今日から学校だよ。早く起きないと遅刻しちゃうよ〜」

 峻佑の部屋に入って、姉妹が口々に峻佑に声をかけるが、

「う〜、あと5分……」

 峻佑はねぼすけの定番とも言えるようなことを言って布団を頭から被って潜り込んでしまった。

「峻佑くん? これで起きなかったらどうなるか、わからないわけじゃないよね?」

 ちひろが顔を引きつらせながら、峻佑に最後通告を行った。しかし……

「………………」

 布団に潜り込んだまま、峻佑はピクリとも動く様子がなかったので、様子を見ていたみちるともども、ちひろがキレた。

「言っておくけど、あたしは何度も起こしたからね! 文句は聞かないわよ!」

 ちひろがそう叫んでから、指をパチンと鳴らすと、峻佑の布団が吹っ飛んだ。寒いダジャレではなく、布団がひっぺがされて、くるまっていた峻佑は床に落とされた。それで目を覚ませばまだ良かったのだろうが、今朝の峻佑はいつも以上のねぼすけで、床に落とされてもまだ寝ていた。

「ふーん、そんなに寝間着でいたいの? なら、ずっとそのままでいれば!?」

 続けてみちるも怒鳴って指をパチンと鳴らすと、はだけていた峻佑の寝間着がきちんと着せられ、さらにギュッと締め付け始めた。全身を圧迫されてピチピチの服を着ているような状態の峻佑は、男の生理現象から、下半身が盛り上がっていた。

「キャッ! なんてもの見せるのよっ! ってか、さっさと起きなさーい!」

 ちひろはこないだ既成事実を作ろうとして侵入したにもかかわらずそんな恥じらいを見せると、雷球をぶっ放した。

「ぎゃああ! これはオレのせいなのかあああ!?」

 これほどの連続攻撃(コンボ)を受けてようやく峻佑は起きたのだった。



 その後、すっかり冷めた朝食を温め直して食べ終わる頃には、遅刻が免れない時間になっていた。

「マズいな……チャイムまであと5分しかない。さすがに寝坊しすぎたな」

 峻佑は自分が起きなかったせいでこんなことになっていることを理解していて、済まなそうにつぶやいた。

「峻佑くん、ちゃんと反省してよね。まあ、学校へは間に合うから、大丈夫よ」

 ちひろは峻佑に反省を促すと、玄関の鍵を内側からかけ、みちると協力して、峻佑を連れて学校までテレポートした。



「転校生? しかも、うちのクラスに?」

 始業式を終えて、ホームルームにて、脇野から転校生が来ていることを知らされた。

「ああ、入ってきなさい」

 脇野の声に、教室の扉を開けて転校生が入ってきた。

「それじゃ、自己紹介をしてくれ」

「はい。初めまして、熱田(あつた) (ひかる)と言います。皆さん、よろしくお願いしますね」

 入ってきた転校生の男は、自己紹介をすると、軽く会釈した。

「あっ、あなた! 熱海の海で溺れてた……!」

 すると、ちひろが輝を指差して叫んだ。

「なんだ、真野、知り合いか? 熱田君は家庭の事情で静岡の熱海から引っ越してきたそうだ。席は……そうだな、ちょうど真野と酒井の間が空いてるな。そこにしよう。じゃ、熱田君、あそこの席に」

 脇野が席を指差すと、輝は頷いて席についた。



「ねえねえ、熱田君が前に暮らしていたところってどんなとこだったの?」

 ホームルーム終了後、輝の周りは女子の人だかりができていて、輝を質問責めにしていた。

 峻佑とちひろは、それを遠巻きに見ながら、帰り支度をしていた。

「すごい人気だな、転校生。つーか、まさかあのときのヤツがわざわざ転校してくるなんて、なんかありそうだな」

 峻佑がちひろにそう話しかけると、

「そうね。でも、見た目かっこいいし、仕方ないんじゃない? あたしには関係ないけどね。それに、家庭の事情なんだから、勘繰りすぎるのもどうかと思うわよ」

 ちひろがあははと笑いながら話していると、

「えっと、真野さん……だっけ?」

 突然後ろから話しかけられた。

「えっ?」

 ちひろが驚いて振り向くと、いつの間にか女子の人だかりどころか、教室内には峻佑、ちひろ、輝の3人しかいなくなっていた。

「あら、もう覚えてくれたの? それで、熱田君はどうしたの?」

 ちひろが輝にたずねると、

「真野さん、キミ、魔法使いだろう?」

 輝はなんの前置きもなしにちひろにそう聞いてきた。しかも、すでに確信を持っているような聞き方だった。

「はぁ? いきなりなんなのよ? しかも魔法使いって、高校生にもなって実在すると思っているの?」

 ちひろはドキリとしたが、それでも動揺を悟られないように、上手くごまかそうとした。

「ああ、いるさ。だって、ボク自身がそうなのだから」

 輝はそう言うと、ふわりと宙に浮かんで見せた。

「……っ! この魔力、本物みたいだけど、あたしたちとはまた違う感じね。ええ、もう否定しても仕方ないわね。あたしと妹のみちるは魔法使いよ。それで、あなたの目的はなんなの?」

 ちひろは輝が本物であることを知って、開き直るように認めることにし、その上で目的をたずねた。

「ここでは話しにくいな。迎えを呼んであるから、ボクの家で話さないか? 校門のところで待っているから、妹さんと一緒に来てほしい」

 輝はそう言うと、カバンを手に教室を出て行った。

「なんなんだ、アイツ……本当に魔法使いなのか、ちひろ?」

 峻佑がちひろにたずねると、

「ええ、彼が浮いたときに感じたのは、たしかに魔力だった。ただ、どこかあたしたちのそれとは違う感じなのが気になるところだけど。まあ、何にせよ、それほど強い魔力は持ってないみたい。何を企んでるかわからないけど、とりあえずみちるを連れて、アイツの誘いに乗ってみましょう」

 ちひろは頷いてそう話し、2人でみちるを呼びに行った。


「よく来てくれたね。さあ、車に乗って。ん? 市原くんも来るのかい? なに、付き添い? まあ、いいか」

 輝は迎えに来ていたリムジンの後部座席のドアを開けると、ちひろとみちるに乗るように促した。峻佑がいるのが少し気になったようだが、それ以上は何も言わず、輝を含めて4人を乗せた車は走り出した。


「ようこそ、ボクの家へ」

 走ること、およそ15分ほどで車は止まり、輝が先に降りてちひろやみちるがいる方のドアを開けると、そう言った。

「それで、あなたの目的は一体なんなの? わざわざあたしたちに自分が魔法使いだと明かしたからには、それなりの訳があると見ていいのよね?」

 車から降りながら、ちひろは改めて輝にたずねた。

「そうだね。ボクの目的、それはキミたち姉妹をボクが所属している組織の仲間に加え、世界を支配すること、そう言えばわかりやすいかな?」

 輝は、こともなげにちひろとみちるに自分の目的を話した。

「世界を支配ぃ? あんた、頭大丈夫? マンガとかに毒されすぎてるんじゃないの?」

 ちひろは、あまりに突飛な話に顔を歪めて輝をバカにした。

「いたってボクは正気さ。組織はまだ小さいが、その力は本物だ。なにせ、ボクを魔法使いにしてくれたのも組織の人だからね。そこに、生粋の魔法使いのキミたち姉妹が加われば、組織の夢は実現に大きく近づくのさ」

 輝は少し怒りながら、組織のすごさを説明した。

「ふーん、どんな手段を使ったか知らないけど、ただの人間に人工的に魔力を与えたところで、そこまで使いこなせるはずないわ。ま、そんなことはあたしたちには関係ないわね。熱田君、悪いけどその話は断るわ。そんなバカバカしい話につきあってられるほどあたしらはヒマじゃないの。みちる、峻佑くん、帰りましょ」

 ちひろは輝の話を全く取り合わず、帰るために踵を返した。

「残念だけど、話を聞いた以上、帰すわけにはいかないよ。できれば手荒なマネはしたくなかったけど、仕方ないね」

 輝がそう言うなり、帰ろうとしていた3人の足元に巨大な落とし穴が開いた。

「うわっ!」

「きゃあっ!」

(くっ……みんな一緒には行けない……っ! それなら、あたし1人だけテレポートして逃げるよりは、2人を……! このまま捕まるのはゴメンだわ……っ!)

 突然開いた落とし穴に為す術なく落ちた3人。穴の底では、落ちたものを拾うためと思われる、ロボットアームがギラリと金属の鈍い光を放ちながら待ち構えていた。しかし、ちひろの両手が光り、その光は峻佑とみちるを包んだ。

「えっ!?」

「姉さん!?」

 光に包まれた峻佑とみちるはその場から姿を消し、穴にはちひろだけが残り、ロボットアームに掴まれていた。ちひろはなんとか脱出を試みるが、

「脱出は不可能だよ。そのアームには、幻の金属といわれるオリハルコンを使ってるからね。世界最高とも言われる堅さを持つ上に、組織の調べでは魔力を吸収する性質をも持ってるからね。しかし、とっさにほかの2人をテレポートさせるとは、なかなかやるね」

 と、いつの間にか穴の淵に輝が立っていて、アームの解説をするとともに、ちひろの行動にパチパチと拍手していた。



 その頃、峻佑たちは――

「ちひろ……どうしてだ?」

 峻佑が自室のドアを拳で叩いて悔しさを露わにしていた。

「峻佑くん……私は突然すぎてテレポートする余裕はなかったし、姉さんも全員をテレポートさせることはできなくて、自分1人か、私たち2人の二者択一だったと思うの。それで姉さんは私たちをテレポートさせたんだと思うわ」

 みちるがちひろの想いを汲んで、理由をそう推測した。

「たとえそうだとしても、オレは悔しいんだよ。確かにオレは何のチカラもないただの人間でしかないけど、好きな女の子1人守れないで、何が男だ! どうにかしてちひろを助けないと! こんな事態になってようやくわかった、オレはちひろが好きなんだ!」

 峻佑はもう一度拳でドアを叩いて、悔しい思いを叫びに変えて、思いのたけを吼えた。

「うん……なんとなくだけど、ここ最近の峻佑くんの様子を見てたらそうじゃないか、とは思ってた。でも、私は姉さんを恨んだりしないよ、それが約束だから。さっきの言葉、姉さんを連れて帰ってきて、改めて聞かせてあげなよ。絶対に喜ぶからさ。さあ、作戦を考えましょ」

 みちるの10年にも及ぶ初恋が終わった瞬間だった。しかしみちるは涙を見せずに、ちひろ救出作戦を峻佑と考え始めるのだった。

最終章開幕早々、妙な事態に巻き込まれた峻佑たち。

果たして峻佑たちは無事にちひろを救出することができるのか?

救出作戦を考える彼らの元に、ちひろがいない今、最強とも言える助っ人が現れるのだった。

次回、VOL.50:いざ、救出へ(仮)


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