VOL.05:Epilogue of Overture/ここから始まる物語
数分ではあるが時間を戻して、校門付近。
「見つからなかったな……仕方ない。明日ヤツを問いつめるか?」
峻佑を見つけられず、すっかり落胆した耕太郎たちが校内に戻ってきた。
「なあ、ところで校舎の裏って誰か見たか?」
不意に集団の中の1人がそんな声をあげた。
「いや、俺は見てないぞ」
「おれもだ」
耕太郎を筆頭に誰も校舎の裏は見ていないらしい。
「くそ、盲点だった! 灯台下暗しとはまさにこのことだぜ! 校舎裏なら密会にはうってつけじゃねーか!」
耕太郎は悔しそうに叫ぶと、一緒に峻佑を追いかけていた集団を2つに分け、両側から校舎裏へ回るよう指示した。
「おい、校舎裏から人の話し声みたいなものが聞こえないか? これってビンゴじゃね?」
2つに分けた集団のうち耕太郎のいないほうを任された1人が携帯で耕太郎に話しかけた。
「おそらく場所の特性上峻佑はこちらの接近に気づいていないはず! 今のうちに接近、峻佑を捕らえる!」
耕太郎は両サイドに携帯で指示を飛ばした。
(それにしても、今更だが統率の取れた集団だな。峻佑への嫉妬心がみんなをまとめあげているってところか)
校舎に向かって左から回り込むチームを行く耕太郎は走りながらそんなことを考えていた。
再び峻佑たちのいる校舎裏。
「しっ、ここに何人か近づいてくるわ」
ちひろがみちると峻佑に静かにしてと伝える。
「まさか、コータローたちが戻ってきたのか?」
峻佑は意外そうな表情でたずねると、
「ええ、どうやらそうみたい。しかも校舎の両側から挟み撃ちを仕掛けてくるわ。あたしたちは別に見つかっても問題ないけど、峻佑くんはあたしたちといるところを彼らに見られたらヤバそうね?」
ちひろは冷静に状況を分析している。
「両側から挟み撃ちか……もしオレを見つけたら逃がさずに尋問するための作戦か。非常にオレにとってまずい状況だな。……ちっ、裏のガケは登れないか」
峻佑はここから逃げ出すため辺りを見渡したが、校舎の窓の鍵は全て閉まっていて入れず、また今いる場所の裏側は急なガケになっていて、到底人が登れるようなものではなかった。
「峻佑くん、私たちに任せて」
みちるが落ち着いた声で峻佑に話した。
「任せるっつっても、どうするんだよ? 今からじゃ隠れることなんてできそうにないぞ」
耕太郎たちの足音が迫ってるのを感じて峻佑は焦っていた。焦るあまり、さっき彼女たちが話した事を失念していた。
「行くよ、みちる!」
「わかったわ、姉さん! 峻佑くん、しっかり私たちの腕に掴まって!」
ちひろとみちるは峻佑に話しかけたが、峻佑がとまどっていたので強引に腕を掴ませると、
『えいっ♪』
2人の声がシンクロしたと思った瞬間、峻佑を含む3人の姿は校舎裏から消えていた。
その直後――
「峻佑ぇっ! ここかぁーっ! って、あれ? 誰もいない……? おかしいな、人の声がさっきまで聞こえてきてたんだよな? 気のせいだったのか? おい、そっちにも行ってないよな?」
勢いよく校舎裏に滑り込んだ耕太郎は、誰もいないことに拍子抜けしてしまっていた。
「ああ、こっちには誰も来てないぜ。もう探す場所もないし、今日は諦めて明日にでも問い詰めればいいんじゃないか? 学年のマドンナ姉妹とどこで何をしていたのか、タップリとな……」
さっきから耕太郎並みによくしゃべる男がそう笑いながら言った。
「おっと、ノリと勢いだけで突っ走って自己紹介してなかったな。俺は4組の沢田だ。お前は?」
耕太郎が今日の捜索中一番しゃべっていた男に名前をたずねると、
「おれは5組の川原、川原 陽一だ。この集団――名付けるなら、真野姉妹非公認ファンクラブ、通称“MMM”――のリーダーは沢田、あんたが適任だな。これからも頼むぜ」
川原と名乗った男は、即席で集まっただけの集団に名前をつけ、そのリーダーに耕太郎を推した。すると、
「俺らは今日はノリでついてきただけだけど、沢田、あんたの指揮力はスゴいな。結果としてターゲットを取り逃がしたけど十分信頼に値する。俺らはあんたについていくぜ!」
集団のあちこちからそんな声が上がった。
「よし、いまこの瞬間から真野姉妹非公認ファンクラブ、通称“MMM”結成だぁっ! 姉妹への抜け駆けは当然禁止、特に峻佑は要注意人物指定で! 今日はとりあえず解散っ!」
耕太郎のアツい叫びが校舎裏に響き渡った。
一方、校舎裏から消えた峻佑、ちひろ、みちるの3人は――
「こ、ここは……あれ、オレの部屋?」
いつの間にか峻佑は自分の部屋にいた。
「そうだよ。あの状況じゃ峻佑くんが確実に逃げるためには私たちの瞬間移動しかなかったからね。それでここに移動してきたんだよっ♪」
みちるが峻佑のすぐ横にいて、いま起こったことを説明してくれた。
「そっか。ホントに2人とも魔法使いなのか……」
さすがにこの状況でまだ信じないというわけにもいかず、峻佑はそうつぶやいた。
「ようやく信じてくれたんだ。まあ、あたしたちもとりあえず帰るわね。と言っても昔みたいに家は隣なんだけどね」
ちひろは隣の家を指差して笑いながら話し、
「ところで、隣はずっと空き家だったはずだけど、いつ引っ越して来てたんだ? オヤジやオフクロからは何も聞いてないぜ? おっと、メールだ」
峻佑がたずねたちょうどそのとき、彼の携帯にメールが入った。
「あ、あたしたちもメールみたいね」
ちひろとみちるの携帯にも同時にメールが入っていた。
「なになに……はあ!?
‘偶然が重なって急遽今日から夫婦揃って長期出張になったので数ヶ月は帰れない。その間の生活費はお前の通帳に入れておいたからそれでがんばってくれ。もし足りなくなったら連絡しなさい。
P.S.昨日言い忘れてたが隣の家にお前の幼なじみの一家が約10年ぶりに帰ってきてたぞ。ついでだ、私たちがいない間に双子の姉妹との10年の空白を埋めとくといいだろう 父’
……なんでそういう重要なことをもっと早くに連絡しないんだあああ! あのバカ親父――っ!」
メールを読んだ峻佑の絶叫が部屋に響いた。
「峻佑くん、大丈夫よ、あたしたちがいるから。家事は魔法なしでも人並みにこなせるから、おじさんたちが戻られるまで協力するわ。それに――」
ちひろが峻佑にそう言って落ち着かせたあと、みちるのほうを見た。
「あのさ、峻佑くん……たった今メールで連絡来たんだけど、私たちの家も両親が旅行に行ったみたいで誰もいなくなっちゃった。だから――」
みちるが何か言いかけたのを制して、
「そこから先は言わなくてもわかった。確かにいくら魔法使いとはいえちひろちゃんもみちるちゃんも女の子だ。最近は何かと物騒だし、オレの部屋の隣が空き部屋になってるからそこを使うといいよ」
峻佑はみちるの言わんとすることを察してやり、そう言ってあげた。
「あ、ありがとう、峻佑くん。あ、そうだ。呼ぶときに‘ちゃん’はつけなくていいよ。なんか昔と違って変な感じだから」
みちるが礼を言って、ふと思い出したように峻佑に告げた。
「そ、そうか? それじゃ、ちひろ、みちる、改めてよろしくな」
峻佑が照れながら2人を呼び捨てにした。
そんなこんなで峻佑と幼なじみで魔法使いな双子の少女たちとの同居生活が始まったのだった。
オープニングも終わり、次回からは本編と呼ぶべき部分へと入っていきます。