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VOL.48:暴走特急、その名は…

 熱海から帰ってきて2週間。峻佑たちはダラダラとした毎日を過ごしていた。そんなある日のこと――

「ねえ、峻佑くん」

 珍しく今日は3人ともアルバイトが休み。この日の食事当番のみちるがひとりで買い物に出かけてしまったので、峻佑とちひろはゴロゴロとのんびりしていたが、不意にちひろが何かを思い出したように峻佑を呼んだ。

「ん、どうかした?」

 峻佑は雑誌をめくる手を止め、お茶を口に含みながらちひろにたずねた。

「結構前の話だけど、あたしとみちるが峻佑くんのことが好きだって告白したの、覚えてるよね? あの時の答え、聞いてなかったなーって思って」

 ちひろが用件を話した途端、峻佑は飲んでいたお茶を盛大に吹き出し、読んでいた雑誌が濡れてしまった。

「ゲホッ、ゴホッ! い、いきなりなんなんだよ。びっくりするじゃないか」

 峻佑はハデにむせかえり、目に涙を浮かべながら言った。

「あはは、ゴメンゴメン。でも、いくら待つって言っても、いつまでも先延ばしにされるのはちょっとイヤだから、覚えてるか確認しただけ。まさか、忘れてたなんて言わないわよね?」

 ちひろは、軽く謝りつつも、あまり悪びれてはいないようだった。そして、峻佑がぼんやりしてるので、少し怒って詰め寄った。

「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ。あんなインパクトの強い出来事を簡単に忘れやしないって。でも、まだ答えを出すのは待ってくれ。2人ともさすがによく似てるし、どっちも可愛いから選ぶのが大変なんだよ」

 峻佑は迫り来るちひろの肩を押して一定の距離を保つと、そんな言い訳にも聞こえるような説明をした。

「うん……わかったわ」

 ちひろは笑顔を見せていたが、がっかりしているのは峻佑の目にも明らかだった。


(こりゃ早いとこ結論出した方がいいな。でも、安易に決めて後悔したり、2人を悲しませるようなマネはしたくないし、どうしたものかな……)

 峻佑はトイレに行きながら、そんなことを考え、悩んでいた。

(やっぱり峻佑くんニブいからなあ……ここはフェアじゃないかもしれないけど、既成事実のひとつも作っちゃおうかしら)

 一方のちひろも、なにやら考え込んでいた。



「ごちそうさまでした。ところで、食事中2人ともずっと黙々と食べてたけど、どうかしたの?」

 夕飯を食べ終わるなり、みちるが2人にたずねた。

「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけ」

「あたしも大したことじゃないわ。もう少しで夏休みも終わりだし、そろそろ生活リズムを元に戻していかないと、って思っていたのよ」

 峻佑は素直に考え事をしていたと話し、ちひろは本当に考えていたことは隠し、堂々とウソの理由を並べ立てた。

「なんでもないならいいんだけど、あんまり無言だと、美味しくなかったのかな、とか思っちゃったからさ。ほら、今日のおかずは初めて挑戦したものもあったし」

 みちるはあはは、と笑いながら話した。

「それは心配いらないよ。十分美味しかった。無駄な心配かけたみたいで、悪かった。ゴメンな、みちる」

 峻佑は料理が美味しかったと話し、せっかくの食事中に考え事をしていたことを素直に詫びた。

「ううん、いいの。気になってたこともスッキリしたしね。それじゃ、片付けて私はお風呂に入ろうかな」

 みちるはそう言って立ち上がると、食器を手際よく洗っていき、終わるとそのままお風呂に消えていった。



「明日もみんな休みか。忙しい時期なのに連休なんて、いいのかな」

 寝る前に、明日の予定を確認してみると、明日も3人揃って休みだった。峻佑は最近の忙しさから、少し不安になって姉妹に聞いた。

「そういうシフトなんだし、いいに決まってるでしょ。一応、あたしたちはまだ高校生だし、きっといろいろと制約があるのよ。それじゃ、あたしたちも寝ましょ。おやすみ、峻佑くん」

 ちひろは何を言っているのと言わんばかりに峻佑の不安を一蹴し、みちるとともに部屋に入っていった。

「それもそうか。それじゃ、2人とも、おやすみ」

 峻佑は苦笑いすると、階段の電気を消して自らも部屋に入り、さっさと眠りについた。



 それから30分ほどして――

「うふふ、みちるはよく眠ってるわね。眠りかけたところに追い討ちで眠りの魔法をかけたし、朝までグッスリね。峻佑くんも寝てるかしら……」

 ちひろは2段ベッドの上段から身を乗り出して下段のみちるの様子を伺って、ちゃんと眠ってることを確認すると、静かにベッドから降り、ソッと部屋を後にした。

「夜のうちに峻佑くんと既成事実を作ってしまえば、峻佑くんはあたしを選ばざるを得ないわ。あら? カギがかかってる……んもう、峻佑くんってば、夜のうちにエッチな本を処分されないための自衛策かしら。今夜の目的はともかく、あたしたちにはカギなんて無意味なのに……えい」

 ソッと峻佑の部屋に忍び寄り、ドアを開けようとしたちひろだが、峻佑の部屋にはカギがかかっていた。ちひろはボヤきながら、魔法を使って解錠すると、その身を部屋の中へ滑り込ませた。


「姉さん……私に魔法をかけてまで眠らそうとするなんて、どういうつもりかしら? 私は耐性が強いからまず効かないことくらい、姉さんはわかってるはずなのに……とっさに寝たフリしたけど、もしかして姉さん、何か企んでるの……?」

 ちひろに眠らされたはずのみちるは、起きていた。さすがに同じ魔法使いで、ちひろにとっては双子の妹。魔法への耐性は並ではなかったらしい。みちるはそっとベッドの上で体を起こすと、ちひろの気配を探ってみた。

「峻佑くんの部屋……? 姉さん、何やって……まさか!」

 みちるはちひろのいる場所からひとつの推測を導き出すと、素早く立ち上がって部屋を飛び出した。


 その頃、ちひろは峻佑の寝ているベッドにもぐり込み、まさに既成事実を作らんとしているところだった。ちなみに、峻佑はまだ起きない。グッスリと眠っている。

 と、そのとき。念のためカギをかけておいた入り口の扉が、轟音とともに吹き飛び、砕け散った。

「な、なんだあ!? 何が起こった……って、ちひろ! 何やってんのさ!?」

 あまりの轟音に峻佑も飛び起き、振り向いた先にちひろがいたので、入り口を見るより先にそっちを問いただした。

「何って、既成事実を作りにきたの。峻佑くん、優柔不断だし、どうせ安易に選んで悲しませたくないとか思ってたんでしょ。それじゃあラチがあかないから、こうして夜這いをかけにきたの」

 ちひろは立ち上がりながら峻佑にそう話した。

「あれ、じゃあ、いまドアを破壊したのは……」

 そこでようやく峻佑が部屋の入り口を見やると、暗い部屋と電気をつけて明るくした廊下の明るさの差で逆光状態になったところに、修羅と化したみちるが立っていた。

「み、みちる……なんで? 邪魔が入らないように眠らせたはずなのに」

 ちひろがバカなと言うような表情でみちるを見る。

「姉さん……何寝ぼけたこと言ってるの? 私は姉さんとは双子の魔法使いなのよ? 魔法への耐性くらいはあるわよ。強い魔力を持ってるのは、姉さんだけじゃないってこと、忘れないでほしいわね」

 ドアを破壊するのに、得意とする氷の魔法を使ったらしく、粉々になったドアの破片は凍りついていて、みちるの右手は蒼くきらめいていた。

「あーあ、妹を甘く見過ぎたか。今夜は失敗ね。じゃ、峻佑くん、これからもスキを見て忍び込むから、覚悟しといてね」

 ちひろがひらひらと手を振って峻佑の部屋を出て行こうとしたが、未だ怒りの収まらないみちるがその肩を捕まえた。

「姉さん……堂々と抜け駆けを宣言するなんて、どういうつもり?」

 みちるがちひろを睨みつけながら訊く。

「あら、言葉のとおりよ。あたしはもう待つのに疲れたの。だって、子供の頃から、もう10年以上想ってきたのに、気づいてもくれない。あんただってそうでしょう? 気づいてくれないなら、行動を起こすしかないじゃない。それに不満があるんだったら、みちるだってやればいいじゃない。どっちが先に峻佑くんをものにできるか、競争したって構わないわよ」

 ちひろが想いをぶちまけ、みちるに宣戦布告した。

「あー、ちょっといいか?」

 と、そこに峻佑が頭を抱えながら口を挟んできた。

「なに? 峻佑くん。これはあたしたち姉妹の問題よ」

 ちひろが聞き返しつつも、暗に部外者は関わるなと言っているようだった。

「2人の争いに口を挟むつもりはなかったけど、一応、オレは賞品(モノ)じゃないんだからな? それに、オレはこんなことで2人に争って欲しくな――」

「なによ! 元はと言えば峻佑くんが優柔不断なのが原因じゃない!」

 激昂しているみちるは、峻佑の言葉を遮って叫んだ。まだ落ち着く様子はないようだ。

「そんなに吼えるなよ……夜中に近所迷惑だろ? ああもう、仕方ない!」

 峻佑はなんとか2人を落ち着かせようとしたが、2人とも話を聞く素振りを全く見せないので、峻佑も静かに怒った。姉妹の言い争いに乗じて、こっそりみちるの背後に迫ると、不意をついて首筋に手刀を一発お見舞いした。

「あっ……」

 完全に不意を突かれて背後への注意が行き渡っていなかったみちるは一声漏らすと、そのまま床に倒れ伏した。

「し、峻佑くん……」

 自分もやられると思ったのか、ちひろは身構えながら峻佑の一挙手一投足に注意を払っていた。だが……

「あー、やっと静かになったな。ちひろ、みちるを頼むな。オレは寝る。あと、明日でいいからこのドア直してくれよ?」

 峻佑は身構えて警戒しているちひろの横を素通りして部屋の入り口に立つと、ちひろにそう頼んでベッドにもぐり込んでいき、肩すかしを食らった格好のちひろは、「う、うん」と頷くことしかできなかった。


 翌日、落ち着きを取り戻した姉妹の魔法で壊れた扉は元通りになったが、夏休みも終わる間際になって、この三角関係はより微妙なほうへ転がり始めたことは言うまでもない。

夏休みも終わる頃、火種が急に発火して微妙な局面を迎えた三角関係の行方は?

次回、ついに最終章開幕。転校生は嵐を呼ぶのはもはやお約束なのか?

VOL.49:新学期の出会い(仮)

お楽しみにー。

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