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VOL.44:海へ行こう

 先日の事件から数日後――

 それは、突然のお誘いだった。シエルでのアルバイトを終えて3人が帰宅すると、家の電話が鳴っていた。峻佑が急いで電話を取ると、相手はさとみで、ちょっと会って話がしたいから今から行っても大丈夫かと聞いてきたので、バイトから帰って何もすることがない3人は二つ返事でOKした。

 それから30分ほどして、さとみが夫の一樹を連れてやってきた。


「それで、話ってなに?」

 居間に通して、麦茶を出してからちひろがたずねると、

「ああ、うん、あのさ、みんなで海に行かない? 3泊4日くらいで、さ」

 さとみは唐突にそう切り出した。

「海? どうして急に……」

 みちるが頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべながら聞き返した。

「それは僕から話そう。いや、別に大したことじゃないんだけど、熱海の海辺に藍沢家(ぼくんち)の別荘があるんだ。そこにさとみと行くことにしたんだけど、別荘は広いから、みんなも誘ってみようかって話になったんだよ。で、どうかな?」

 一樹がさとみの話を引き継いで理由を峻佑たちに話した。

「なるほど。でも、オレたちがいてお邪魔になりませんか?」

 峻佑が心配になってたずねると、

「ははっ、心配はいらないよ。とにかく無駄に広くて、ここにいる5人でもまだ広すぎるくらいなんだ。そうだ、どうせだし、峻佑くんやちひろちゃんたちの友達も何人か誘ってみたらどうだい? 別荘の部屋は10以上あるから、かなりの人数を誘えるはずだよ」

 一樹は峻佑の心配を軽く笑い飛ばし、さらに人数を増やしてはどうかと持ちかけた。

「人数が多いほうが楽しいし、高校でのクラスメートたちも誘えばいいんじゃない? それに、あんたたち、アルバイトを始めたんでしょ? そこの方たちも一緒にどうかしら?」

 一樹の提案に真っ先にノったのは、さとみだった。いったいどこで峻佑たちがアルバイトを始めたことを知ったのか、そこの人も誘おうと言ってきた。

「なんかもう行くことは決定みたいね。わかったわ、みんなに声をかけてみる」

 ちひろが軽く息をついて言うと、

「それじゃあ、何人行くか決まったら連絡ちょうだい。一応、出発は1週間後の8月1日を予定してるから」

 さとみはそれだけ言うと、さっさか帰っていった。

「海か……ガキのころ行ったっきりだったな」

 峻佑がポツリとつぶやき、3人で手分けしてクラスメート、生徒会、そしてシエルのメンバーに連絡を取り、熱海へ行けるかどうかを聞いていった。


 ――耕太郎の場合。

『おう、峻佑、どうした? どっかで遊ぶか?』

 峻佑からの着信に、遊びの誘いと思った耕太郎が明るい声で電話に出ると、

「いや、それに近いっちゃ近いんだが、お前さ、8月1日から4日くらいヒマじゃねーか? ヒマなら、藍沢先生の旦那さんの別荘に誘われたんだけど、どうだ?」

 峻佑は、さっきのお誘いの話をそのまま耕太郎に伝えた。

『なにっ! さとみ先生の!? もちろんヒマだぜ。夏休みに入ってからヒマすぎてどうしようか悩んでたところだ。それに、さとみ先生と聞いて俺が黙ってると思うか?』

 耕太郎は、“藍沢先生(さとみ)の”という単語に過敏な反応を見せ、話に食いついてきた。

「それもそうだな。じゃあ、コータローは参加確定だな。集合時間と場所は追って連絡するわ」

 峻佑は苦笑しながら耕太郎を参加者リストのメモに書き加えた。

『おう、わかった。楽しみにしてるぜ』

 耕太郎は明らかに舞い上がってる声色でそう言うと、電話を切った。


 ――生徒会副会長、雲雀の場合。

『あら、ちひろちゃん、どうしたの? また神楽がなんか企んでそうなの?』

 ちひろからの着信に、雲雀は神楽のことかとピンときて聞き返したのだが、

「いえ、今回はそうじゃないんです。先輩、来週の8月1日から4日くらいなんですけど、熱海に行きませんか? あたしの姉で、先日まで教育実習に来ていた藍沢先生の旦那さんの別荘に誘われたんです。そこが相当な大きさらしく、人数が多いほうが楽しいだろうってことでいまいろんな人に声をかけてるんですけど……」

 ちひろはそうじゃないと苦笑いした上で、別荘へのお誘いを雲雀にも話した。

『熱海? いいわね。今年はどこにも旅行に行く予定が立たなくて退屈してたのよ。ぜひ同行させてもらうわ』

 雲雀はその話を聞いて、ぱあっと声が明るくなり、誘いを快諾した。

「わかりました。それじゃあ、時間とかはまた連絡しますね」

 ちひろはそう言って、電話を切った。



 ――メイド喫茶・シエル店長、さゆりの場合。

『あれ、みちるちゃん? お疲れ様。どうしたの?』

 さゆりはみちるからの着信に、シフト上の問題でも起こったのかと心配そうな声で電話に出た。

「お疲れさまです。それで、店長、いきなりなんですけど、8月1日から4日ほど、熱海に行きませんか? 私の姉の旦那さんの別荘に誘われたんですけど、人数が多いほうが楽しいだろうってことで……」

 みちるは特に話す話題もないので、単刀直入に用件を話した。

『熱海かぁ……行きたいけど、お店もあるし……あ、ちょっと! みんな!? きゃあっ!』

 さゆりは熱海と聞いて心が揺れ動いているようだったが、やはり店を休むわけにはいかないと考えているようだった。と、突然さゆりが悲鳴を上げてガタガタッという音がした。

『もしもーし、みちるちゃん? シエルの千佳(ちか)だけど! 熱海ってホント!?』

 何が起こったのかとみちるが心配していると、電話口に出たのはさゆりではなく千佳だった。

「千佳さん……店長はどうしたんですか? いまなんか悲鳴らしきものが聞こえた気が……」

 みちるはとりあえず今何が起こったのか千佳に聞いてみた。

『あはは、ちょっと無理やり代わってもらっただけだよー。で、熱海行くの?』

 千佳は笑いながらいま起こったことをみちるに説明し、気になっていた本題をみちるにたずねた。

「ええ、かなり大人数で行きたいと姉が言ったので知り合いに片っ端から連絡してるんですけど、店長はお店があるからダメみたいで……」

 みちるはそう答えてさゆりはダメそうだから、と伝えると、

『何言ってるのよ、みちるちゃん。わたしらアルバイトチームは全員参加可能よ? つ・ま・り、いくら店長がお店があるからと言っても、働くスタッフがいなかったら、どうなるかしら? あら? 店長、ふりほどいたんですか? あやのとエリコの2人がかりでも抑えきれないって……きゃあっ!』

 千佳は自分たちは無理やりにでも行くと言い放ち、横でもがいているさゆりを脅すような発言をした。と、どうやらさゆりがあやのたちの拘束を振りほどいたらしく、今度は千佳の悲鳴が聞こえた。

『もしもし、みちるちゃん? さゆりよ。まさかスタッフの反乱があるとは思わなかったわ。いま千佳ちゃんを投げ飛ばして電話を奪い返したけど……でも、これは仕方ないわね。8月1日から4日間だったわね? お店を臨時休業にして、みんなで行きましょう』

 さゆりが少し疲れた声で電話に出ると、店を休んでみんなで熱海に行こうと話した。

「店長、すみません。私の個人的事情にお付き合いさせてしまって……」

 みちるは半ば無理やりに了承させたみたいで、少し申し訳なくなって謝った。

『気にしないで。今回の件は慰安旅行ってことにしておくから。スタッフどうしの絆も深められるし、悪いことはないわ』

 さゆりは苦笑しながらみちるにそう話すと、電話を切った。



 その後、連絡を繰り返した結果、熱海には耕太郎、雲雀、一条、なつき、さゆり、エリコ、あやの、千佳、そして藤原が行くことになった。

 それをちひろがさとみに連絡すると、「じゃあ、8月1日の午前9時に竹崎駅に集まっていて。わたしと一樹くんでレンタカーを2台借りて迎えに行くから」とのことだったので、それを峻佑たちがみんなに伝え、日は過ぎていった。

夏休みといえば旅行、夏の旅行と来れば海。

そんなわけで熱海の海岸へ旅行に行くことになった一行。

熱海でどんなドタバタが待っていることやら――

次回、VOL.45:熱海へ(仮) 7月9日0時更新予定!


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