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VOL.43:アルバイト事件帖(後編)

「ん? メール……みちるからか。ずいぶん帰りが遅い気がするけど、その連絡かな?」

 峻佑は携帯が鳴ったのに気づいてメールを開いた。

‘店内に不審者が入ってきて、姉さんが捕まった。私はまだ無事だけど、救出作戦はちょっと難しい。助けに来て!’

 メールを見た峻佑は、‘わかった!’とだけ返信し、携帯と財布を持って家を飛び出し、自転車でシエルへ向けて走り始めた。


 その頃、メールでSOSを伝えたみちるの背後にも、侵入者の影が迫っていた。

「いないと思ったら、こんなところにいたんだね……?」

 声に振り向いたみちるは、月明かりで侵入者の顔が照らし出されるのを見た。

「あなたたち……たしかかなりの常連さん……!」

 そこにいたのは、店長のさゆり(いわ)く、ちひろやみちるが入る前からの常連で、特に2人が入ってから滞在時間が急激に長くなったと噂の的になっていた男たちだった。

「――――!! できれば傷つけたくはないから、大人しくしていてくれると助かるな」

 正体を見抜かれて動揺した男たちの1人が、スタンガンをちらつかせてみちるを脅しにかかった。

「…………」

 いくら魔法使いでも、相手が武器を持っている上に、背後を取られては対抗できなかった。みちるも後ろで手を縛られ、階下にいるちひろのところへ連れてかれた。



「あんたたち、いったい何が目的なのっ!? こんなことして、タダじゃ済まないわよ!」

 手を拘束されているとは言え、口はふさがれていなかったので、ちひろはみちるが男たちに連行されてくるのを見るなり、そう叫んだ。

「僕らの目的は――」


 一方その頃、自転車でシエルへ急行中の峻佑は――

「着いた! 待ってろよ、2人とも!」

 シエルの裏口付近に自転車を止めると、途中の工事現場で拾った鉄パイプを持って、裏口のドアに近づいていった。


「僕らの目的、それは、君たちにイジメられたいんだ」

 男たちは声を揃えて目的を話した。

「……はい?」

 男たちの言った意味が理解できず、ちひろはポカンとした表情で聞き返した。

「つまり、僕らは根っからのどMなんだよ。メイド喫茶に通うようになったのは、メイドなのにどSっていうギャップを持った女の子を探す為だったんだ。ずいぶん時間はかかったけど、君たちが入って来たときに、確信したんだ。君たちはかなりのSタイプだと」

 男のひとりがそこまで話したところで、ドアが開け放たれた。

「ちひろっ! みちるっ! 無事か!?」

 鉄パイプを構えた格好のまま、峻佑が飛び込んできた。

「峻佑くん!」

 手足を拘束されて動けないので、首だけでちひろたちは振り向いて峻佑の名を呼んだ。

「ちっ! 余計なのが来ちまったか! とにかく、目的は果たさねばここまでやった意味がない! ってわけで、イジメてください!」

 男たちは頭を下げてちひろたちに懇願した。

「なんなんだ、コイツら……? まあ、大して害はないみたいだし、ちひろ、やってあげれば?」

 峻佑は拍子抜けしたのか、手に持っていた鉄パイプを外に投げ捨て、呆れた表情でちひろに言った。

「まったく、人騒がせな連中ね……ま、今回は訴えないけど、次はないわよ? さあ、覚悟はいいかしら?」

 ちひろはクスクスと笑いながら言うと、手を拘束していた手錠を引きちぎり、男たちに近づいていった。

「イジメてほしいって言ったわよね? 思う存分叶えてあげるわよっ!」

 暗い店内で、小さな爆発音と、何かが床にたたきつけられるような鈍い音が数回続けて鳴り響いた。



 男たちが完全にノビたあと少しして、ようやく店長のさゆりが帰ってきた。

「ちひろちゃん、みちるちゃん、これはいったい何があったのかしら……? なんで閉店後の通用口で常連のお客さまがノビてるの?」

 帰ってくるなり、店内の惨状に失神寸前な状態のさゆりが2人にたずね、ちひろが事情を説明すると、

「そうだったの……怖い思いさせてしまってごめんなさいね。今後はこんなことにならないようにシフトを調整するから。それと、この人たちは警察に引き渡してこってり絞ってもらうわ」

 さゆりは神妙な面もちでちひろたちに謝った。

「あ、店長……確かに少し怖かったですけど、実害はなかったので、今回は厳重注意とかで済ませられないですか?」

 みちるがさゆりに手を合わせて頼んだ。

「2人がいいなら私はそれでいいわよ」

 さゆりは2人に笑みを見せながら言った。

「そういうわけです。では、行ってらっしゃいませ、ご主人様。またのお帰りをお待ちしております」

 いつまでも従業員用の通用口に放置しておくわけにもいかないので、4人で力をあわせて、なにやら満ち足りた表情を浮かべる男たちを外に放り出すことにしたのだが、その際に、ちひろがお決まりのセリフで男たちを送り出した。

「え……僕ら、こんなことをしたのに、またここに来てもいいんですか……?」

 男たちがポカンとした顔でたずねると、

「実害はなかったですし、そんな方でも、大切なご主人様ですから。でも、もうこんなことをされてはいけませんよ。次はあんなおしおきでは済まされませんからね☆」

 ちひろは笑顔で男たちに言った。すると、

「やっぱりキミは最高のメイドさんだーっ!」

 男のひとりが突如振り返って、ちひろに飛びかかった。

「だ、か、ら……そういうことをしないでと言ったばかりでしょっ!」

 これにはさすがにちひろも驚いたが、飛びかかってきた男の力を上手く受け流し、瞬間的に魔法で自分の腕力を増強した状態で男に綺麗な一本背負いを決め、床にたたきつけた。



「なあ、やっぱり警察に引き渡したほうがよかったんじゃないか?」

 ようやく店の片づけを終え、帰路に着いた3人。自転車を押しながら、峻佑がちひろにたずねた。

「そうかもね。でも、反省してくれればあたしはそれで十分だよ。あの人たちを投げ飛ばしてあたしも結構いい運動になったしね」

 そう言って笑うちひろを見て、峻佑は「やっぱりSなのか?」と不意に思ってしまった。すると、

「ちょっと、峻佑くん? いま、あたしのことSなのか、って思ったわね? 峻佑くんもお仕置きされたいの?」

 ちひろがこめかみをヒクつかせながら峻佑にたずねた。

「げっ! い、いや、なんでもないって! そんなこと考えてないってば!」

 峻佑は言い訳しつつ、自転車に乗って逃げ出した。

「逃げるってことはやっぱりそう思ってたのね! 逃げてもムダよ!」

 ちひろは走り出した自転車を追いかけるわけでもなく、ただ叫ぶと、みちるを連れてテレポートした。――峻佑の乗る自転車の荷台に。

「……あのー、ちひろ……さん? もしかして、かなーり怒ってらっしゃる?」

 観念したのか、途中鉄パイプを拾った工事現場の横で自転車を止めて振り返り、峻佑はたずねた。

「……峻佑くんの……バカーーーーーーッ! もう、知らないっ!」


 その夜、付近の住民が、晴れているにも関わらず工事現場に雷が落ちるのを見たという話が相次いだ。

姉妹を襲った変態も退治し、これにて一件落着――でいいのか?


夏休みは中盤へさしかかり、峻佑たち3人のもとにとあるお誘いが――

次回、VOL.44:いざ行かん、海が待っている(仮)

7/2 0時更新予定です。


評価および感想、ご指摘など、随時お待ちしております。

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